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2011年11月21日

サンバーのお勉強⑤

サンバーのお勉強⑤ スバル・サンバーは市場でじわじわと売り上げを伸ばしていった。

多目的商業車としての人気は、思わぬ所から出てくるものである。最初にスバル・サンバーを歓迎したのは豆腐屋であった。スバル360譲りの乗り心地の良さは、豆腐の運搬にうってつけだった。悪路を走っても、豆腐が欠けないからである。同じ理由で畳屋、障子屋、ガラス屋から、仕事にうってつけとの声が届いていた。

有明海の海苔養殖業者からは、1,300kgの荷物を積んでも走るという、とんでもない過積載の現実が喜びの声で報告された。製造会社が責任をもつことができない種類の違法行為であるが、忙しく働くユーザーには過積載をしても元気に走りまわるスバル・サンバーは頼もしい仕事仲間だったのだろう。山地の農家からは、登板能力を評価された。

加速が良く、信号での発進競争に強いとの評価も届いた。やがて「サンバー加速」という言葉まで生まれている。

だが、スバル・サンバーは好評になって成長を始めるのではなかった。むしろ、ユーザーの厳しい注文の声で鍛えあげられたのである。

ユーザーは様々な場所であらゆる物を運ぶ。野菜、土砂、海産物など水気を含んだ物の運送をすると、そこかしこに錆が発生した。海辺での仕事はもちろん雪国での使用も複合的な原因の錆を発生させた。想定外の原因で思いもよらない部分が錆びたり腐食したりするのである。こうした問題がディーラーから報告されると、必ず現地調査に出かけた。ひとつひとつのケースを調査分析し、対策がたてられていった。

ミカン農家からは、ミカン箱を並べて積んでいくと、荷台からほんの少しはみ出てしまうので何とか荷台を延長してもらえないかという意見が届く。魚屋からは、エンジンルームの上に冷凍した魚を積むと、エンジンの熱気で魚が温まるというクレームもあった。そのたびにエンジンカバー内側に断熱材を張ったり、荷台のサイズを検討したり、実にきめ細かな対策が考えられた。

バンを一家に一台の自動車として購入するユーザーが出てきた。仕事に使い、家族の足にもなる。そういうユーザーからは、商業車としての合理的な設計が殺風景に見えるという意見がでてきた。

発売直後、冬の北海道から届いた不具合報告は、開発陣にショックを与えるものであった。直進不良に陥るというのである。

雪道で、空荷ないし軽いものを積んで走ると、ハンドル操作と挙動が一致しなくなるという報告であった。右にハンドルを切ると右に旋回を始めるが、ハンドルを直進に戻しても右方向への旋回が止まらず、あわててハンドルを左に切ると、タイムラグがあって、左へ旋回を始めるというのだ。最悪の場合は蛇行して、最終的に道路から飛び出すか、横転する。

百瀬たちは調査グループを組織すると、すぐに北海道現地へ飛んだ。

室田は、北海道で発生した直進不具合、異常走行との報告を聞いたとき、走行試験中に起こったある出来事を思い出した。それは運転免許をとったばかりの室田がスバル・サンバーの試験走行のハンドルを握っていたときに起こった。砂利が分厚く敷かれた悪路にはいると、直進不良状態になり、軽い蛇行が始まった。室田は後にこう報告している。

「その蛇行は収斂せず、発散しそうな気配でパニックに陥りかけた。それでも何とか停車することができたが、恐ろしいというよりは何か夢を見ているような気分であった」

同じ道路をベテランドライバーが何事もなく走った事を室田は記憶していた。おそらくは摩擦係数の低い路面で起きやすい現象ではないかと推察した。

北海道では、ユーザーにお詫びするとともに不可解な挙動について話を聞き、現地の凍った山道でテストをした。そうした原因追求調査の結果、リア・タイヤの分担荷重不足が原因と判明した。

対策が考えられた。リア・タイヤへの荷重を増やす為に、ガソリンタンクをエンジンルーム前方に移動させるとともに、エンジンルームのカバーの鉄板を厚くする事にした。

こうしてスバル・サンバーの低μ路における直進不良現象が解決された。開発陣は、再び三度、初めて開発するオリジナルな技術につきまとうリスクを自覚させられたのである。

しかし、百瀬は、スバル・サンバーの開発は気持ちのいい仕事になった、と語っている。

「サンバーの開発はある意味社会勉強でした。バンをファミリーカーとして使うなんて事は考えもしませんでしたから。しかし、現実にそういうユーザーがいると聞けば、なるほどそうだと納得できます。仕事でサンバーを使って下さるユーザーは実に細かなところまで注文を出してくる。いろいろな意見を頂いても、解決策がなくて困ったなと思うこともありましたが、ありがたい意見だと思って耳を傾けました。道具という意味で、こんなに愛されているクルマも珍しいと思います」

スバル・サンバーは、スバルの稼ぎ頭となった。軽トラックの市場で33%のシェアを占める程の人気と商品力を誇った。個人商店から大企業まで、働く人々の仕事の足となり、僻地や離島ではオールマイティな働きを見せる生活必需品となっていったのである。第三世界の国々へ輸出され、仕事と生活の道具になっていた。

普段の努力による改良と改善により、4ドア、5ドア、4WDと積極的なバリエーション展開が、技術進歩と時代の変遷のなかで行われ、スバル・サンバーは今日まで生産を継続し、市場に歓迎され続ける巨大なロングセラーとなっている。


終わり。


「富士重工業 技術人間史より」






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Posted at 2011/11/21 11:16:05

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