
MLBで活躍を続ける41歳のイチロー選手。
歴史ある大リーグの記録を、今も次から次へとどんどん塗り替えている。
まさに”100年後のレジェンド(伝説)になる選手”だと思います。
私は、このレジェンドと同じ時代を生き、彼の活躍をずっと見続けてこられたこと、本当にラッキーだと思います。 いつかは引退する日が来ますが、それまで怪我なく、ファインプレーを続けられるよう、私はイチローさんを応援し続けます。
さて、うちにはもう一つのレジェンド E46があります。こちらもいつかは故障で動かなくなる日がくるでしょうが、それまでは大事に乗り続けたいと思います。
このレジェンドの心臓、M54エンジンは、数を追わなかった頃のBMWエンジニアの作った傑作のひとつです。
イチローさんと同じ様に、M54エンジンの存在を現役のうちにデータとして残さねばと思うに至りました。
前回のブログでは、一般的な6気筒のサウンドに関して書きましたが、今回はとてもローカルな話題ですが、このM54という古い 直6NAエンジンに話題を絞ってお話しを進めます。
エンジンの音、その官能性については、とても個人差があって、ある方がいい音と感じてもそれが万人には通じない場合があります。 昨今、NAからターボへ、6気筒から4気筒へ とその根幹となるシステムが異なるため、万人の基準でいい音とは何かを定義しずらくなってきてしまいました。
ただ、これまでずっとE46を乗り継いできて、このM54エンジンだけは、だれからもエンジン音で悪く言われたことがありません。
なのでM54を一つのサウンドのベンチマークとして、見てみようと思うに至りました。
今回、音を語るに当たり、道具を一つ使います。
音を周波数分析するためのスペクトラムアナライザです。 iPhoneやAndroidのアプリでは、各種FFTアナライザ、スペクトラムアナライザの類でたくさんありますが、今回は、iPhoneアプリのフリーソフト、「ETANI RTA」を使って分析することにします。
このアプリは、1/6オクターブバンドで周波数分析できるので、ちょうど使いやすいです。
横軸は周波数(1/6octバンドです)で、縦軸が音圧でいわゆるデシベルです。
ではさっそく、私のM54の3000回転の時のスペクトルを見てみましょう。
測定は、iPhoneを運転者の耳の位置において、計測開始です。
3000回転を維持した状態での計測になります。
このグラフが、耳に聞こえる音の”成分”になります。
いろんな周波数の音が混じっています。 6気筒3000回転は、1分間に3000回転回りますので、1秒間に50回転。 6気筒はクランク1回転あたり、3回の爆発がありまから、結局1秒間に150回の爆発音、つまり音の主成分は150Hz(ヘルツ)になります。
スペクトラムをみると、ちゃんと150Hzにピークが立っているのがわかりますね。
そのほか、何本かのピークがあります。いろいろな音が混じっていて、あまり綺麗な音ではないです。 ただいずれのピークも音圧は60デシベル程度なので、割と静かな音であることがわかります。
では、次に回転数を上げていきます。 ここからNAエンジンの特徴がでてきます。
M54エンジンは、3750rpmまでは、3気筒毎の共鳴過給を使ってできるだけピストンに空気を送り込むようにしていますが、3750rpmを境に、DISAというギミックを使って6気筒全体での共鳴過給に切り替えていきます。
具体的には、3気筒ずつ前後に分かれていたインテークマニホールドを、フラッパオープンすることで接続し、大容積の共鳴管の中の空気脈動で過給していきます。このDISAという機構は、もっと古い時代からBMWは使ってきましたが、E46のDISAは実によくできた機構です。インテーク管の負圧を、DISAの四角いお弁当箱のアキュームレータに一旦溜め込み、その力を利用してたった1個のソレノイドOFF/ONで、ダイアフラムを動かし、リンク機構でフラッパを開閉します。 とてもシンプルで安くできる機構で、BMWエンジニアのマニアックな技量に感服いたします。
さて3750rpmでDISAフラッパが開いても、すぐには共鳴現象は発生しません。いわゆるヘルムホルツ共振は、その時の空気の密度に依存して周波数が異なるため、ある程度の幅をBMWは考慮していると思います。マニュアルによれば4100rpmを一つの設計目安にしているようです。
私が8月の猛暑の中、気温35度の状態で確認してみると、空気温度が高いため密度が下がりヘルムホルツ共振周波数が高い側にずれるようです。結局、4250rpmあたりからいつものクォ~ンという音に変わってきます。
下記に、ちょうど5000回転を維持した時のスペクトラムを示します。
このグラフを見てわかることは、エンジン爆発の主成分の250Hzの音に加えて、低域にもいくつかのピークが出現していることです。
ヘルムホルツ共振は、前後の3気筒間を行ったり来たりする圧力波なので、爆発周波数のちょうど1/2が理想です。 確かに125Hz付近にピークがあり、これが共鳴過給の音であると思われます。
爆発音が80デシベルであるのに、この過給音も80デシベルですから、ほぼ同じくらいの大きさの音が混在していることになります。これこそが直6NAで、クォーンと聞こえる低域の響きになっていたのですね。 共鳴周波数と爆発音の周波数は、少々ずれますから、そのズレによって発生するビート音(80Hzや35Hz)も、いい音の一つになっているのかも知れませんね。
ターボ車の音をもモニタリングしても、この低域成分が、ここまで大きく盛り上がることはありません。やっぱりこれこそが、M54の特有のサウンドなのでしょうか。
さて次は更に回転を上げてみます。慣性過給の領域で、 6000回転の時のサウンド分析です。
この回転域では、爆発音のピーク300Hzが一本だけ立ちます。まさに単一スペクトラムで澄んだ音であることがわかります。
また低回転のコマが、高回転になって軸がピンと立つかのような整ったスペクトルであることがわかります。 さらに高周波の成分を見てください。 いわゆるメカニカルノイズなどあれば、300Hzより高域側にもピークが出るものですが、このスペクトラムでは綺麗にロールオフして落ちていきます。つまりキンキンした高周波ノイズがなく綺麗な音(正弦波)を奏でていることがこのデータからも明らかです。
またレッドゾーン間近の6000回転であるにも関わらず、音圧は80デシベルでほとんど増大しておりません。つまりうるさくないのです。むしろ単一スペクトラムなので音が小さく澄んで聞こえるかもしれません。
これが滑らかに吹き上がるとか、シルキーとか、比喩されるところなんですね。
どうでしょうか。
これこそが名機と言われるゆえんです。データの上からも、楽器のごとく官能的なサウンドのエンジンであることが理解できます。
BMWの優秀なエンジニアをもってしても以降のN型エンジンでは、それを超えるものができないことから、M54は偶然にも生また秀逸なエンジンであったのであって、設計やシミュレーションのみでは、この官能性は容易に実現できない領域なのかもしれないと思うに至りました。
やっぱりこの珠玉のエンジン、ストラディバリウスと同じく偶然なのかな。
今回は、スペクトラムを使っての視点で見てみました。今後いろいろなエンジンのサンウドをこの技法で分析することで、容易にその良し悪しを確かめられると思います。
このブログは、何分門外漢の私が独断で綴っておりますので、間違いが多分にあるかもしれません。コメント等でご指摘いただければ幸いです。
またもしよろしければ私の330i ノーマルのAT車ですが素のM54サウンドをお聞きください。
普段からマニュアルシフトのような運転で楽しんでいます。
ご覧いただきありがとうございました。