僕はいまだにALPINA D3 BITURBOというクルマが何者であるのかを知らないままだ.
こうして三回にわたって記事を書き,自分の中でもそれなりに整理がついたと思うところもある.けれどもそれは例えば,大きな木に登りたいと思っているのにただその周りをひたすらぐるぐる回って地上の景色を確かめて満足してしまうようなものかもしれない.できることなら登った木の上から見る景色がとうなっているのかを知りたいものである.こんな能天気な妄想ブログを書くだけで満足するほど,僕もお人好しではないはずなのだ.
彼は何者だろうか.もしかしたら羊の皮の中にはとんでもない猛獣が潜んでいるのかもしれないし,もしかしたら「感動の極み」と書かれた一枚の紙切れがひらっと舞い落ちるだけかもしれない.まあでも,実際はそのどちらでもないだろう.
これは完全に予想なのだけれど,中に入っている生き物が何かと言えばそれはたぶん,とっても良くしつけられた,我慢強くて上品なとびきり血統のよい犬なのではないだろうか.まあ犬じゃないにしても,すくなくともたぶん野生の狼とか人食い熊とか凶暴なライオンそういったたぐいのものではないような気がする.
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すこし話が飛ぶ.実はB3 BITURBOに試乗したときも,得体が知れなくて怖いという気持ちは少しあった.でも二回ほどB3に試乗して思ったのは,少なくともB3の中に入っている「彼」は怒ると手が付けられないのかもしれないけれど,普段は意外と気さくらしいということだ.
動物で言うと例えばボルゾイなんかに似ているのかもしれない.大きさで言えばボルゾイはアルピナならB6クーペみたいなものだから,B3を例えるなら実際にはもうすこしサイズの小さな中型犬あたりなのかもしれない.けれど,僕は犬種にあまり詳しくないのですぐには思いつかない.だから,とりあえずボルゾイのもうすこし小さいやつ(架空の生物)ということで許して欲しい.
もうだいぶ前になるけれど,あるとき知り合いが数日間旅行に行くからと,彼が飼っていたボルゾイを僕に預けていったことがあった.一般にこの犬種はとてもエレガントで賢く足も速い猟犬として知られている.預かったその個体もやはりそういった美点を持ち合わせていた.あまりに美しく,あまりに賢く,聞き分けが良い.あたかも貴族のように超然としている.ある意味やっぱりちょっと怖い犬だ.
けれどもそのような高貴な雰囲気がありながら,実際には意外とおちゃめな性格をしていることが分かった.そのときのエピソードをすこし書きたい.ある日の夕食のあとで,僕はステレオのスイッチを入れ,気まぐれでソニー・ロリンズのサキソフォン・コロッサスをかけたことがあった.するとどうだろう.テナーサックスが奏でるセント・トーマスのテーマがBメロに差し掛かったところ,驚くべきことが起きた.
突然,彼が歌いだしたのだ,ソニー・ロリンズに合わせて.しかも彼は,夕食を食べ終わって団欒する家族たちの合間を練り歩きながらあたかも自分の歌声を聞かせて回るかのように歌った.それは吼えているのはないし,かといって遠吼えでもない.歌っているとしか言いようのない声だった.ボルゾイは生まれの良いハンターであっただけではなく,気さくなエンターテイナーでもあったのだ.このとき彼が残したインパクトのようなこの記憶はいまだに僕の中に鮮烈に残っている.出来ることならこんな魅力的な犬をいつか伴侶にしたいと心の底から思った.
さて一方のD3は,もし例えたらそれが犬だとしても,たぶんもう少し地味な犬種だと思う.これだという犬種がやはり思いつかないが、強いて言えばハウンドやポインターではなくてセントバーナードのようなワーキングといわれるジャンルなのではないだろうか.D3の中に入っている「彼」は,丈夫でとても力強くて我慢が効いて,でもすこしシャイな性格をしているに違いない.僕が試乗しても「分からなかった」のは,たぶん彼のそんな性格のせいもあったと思う.でも,慣れて馴染めばきっと愛しやすい本音も見せてくれるのではないだろうか.
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実際にD3に試乗してみたことで,僕はこのクルマがよく分からなくなった.でもそのことで逆に,どんなクルマなのかもっと知りたくなった.それは
最初に書いたとおりだ.そして羊の中に入っているケモノがなんなのか,それを知るためにはそれなりの代償を払わないわけにはいかないのが現実だ.
先日ポルシェに乗ったときも同じように思ったのだけれど,結局こういうたぐいのクルマは自分で買って好きなように走らせてみないと分からないものだと思う.もしそれが叶うならば,あとは彼が僕と仲良くしてくれること,そして僕にそれだけの甲斐性があることを願うばかりだ.
いつかそう遠くない日に,彼が我が家にやってきてくれたら,そして僕の一家と仲良くしてくれたら,そして時にはその隠しきれない野性の本気も垣間見せてくれたら――そんなふうに僕が「有頂天」になれる日は,はたして来るだろうか?
終わり
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アルピナ | 日記
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2014/06/16 01:39:45