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イイね!
2014年06月16日

有頂天ニコルその4――あとがきにかえて

僕はいまだにALPINA D3 BITURBOというクルマが何者であるのかを知らないままだ.


こうして三回にわたって記事を書き,自分の中でもそれなりに整理がついたと思うところもある.けれどもそれは例えば,大きな木に登りたいと思っているのにただその周りをひたすらぐるぐる回って地上の景色を確かめて満足してしまうようなものかもしれない.できることなら登った木の上から見る景色がとうなっているのかを知りたいものである.こんな能天気な妄想ブログを書くだけで満足するほど,僕もお人好しではないはずなのだ.


彼は何者だろうか.もしかしたら羊の皮の中にはとんでもない猛獣が潜んでいるのかもしれないし,もしかしたら「感動の極み」と書かれた一枚の紙切れがひらっと舞い落ちるだけかもしれない.まあでも,実際はそのどちらでもないだろう.


これは完全に予想なのだけれど,中に入っている生き物が何かと言えばそれはたぶん,とっても良くしつけられた,我慢強くて上品なとびきり血統のよい犬なのではないだろうか.まあ犬じゃないにしても,すくなくともたぶん野生の狼とか人食い熊とか凶暴なライオンそういったたぐいのものではないような気がする.


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すこし話が飛ぶ.実はB3 BITURBOに試乗したときも,得体が知れなくて怖いという気持ちは少しあった.でも二回ほどB3に試乗して思ったのは,少なくともB3の中に入っている「彼」は怒ると手が付けられないのかもしれないけれど,普段は意外と気さくらしいということだ.


動物で言うと例えばボルゾイなんかに似ているのかもしれない.大きさで言えばボルゾイはアルピナならB6クーペみたいなものだから,B3を例えるなら実際にはもうすこしサイズの小さな中型犬あたりなのかもしれない.けれど,僕は犬種にあまり詳しくないのですぐには思いつかない.だから,とりあえずボルゾイのもうすこし小さいやつ(架空の生物)ということで許して欲しい.



もうだいぶ前になるけれど,あるとき知り合いが数日間旅行に行くからと,彼が飼っていたボルゾイを僕に預けていったことがあった.一般にこの犬種はとてもエレガントで賢く足も速い猟犬として知られている.預かったその個体もやはりそういった美点を持ち合わせていた.あまりに美しく,あまりに賢く,聞き分けが良い.あたかも貴族のように超然としている.ある意味やっぱりちょっと怖い犬だ.


けれどもそのような高貴な雰囲気がありながら,実際には意外とおちゃめな性格をしていることが分かった.そのときのエピソードをすこし書きたい.ある日の夕食のあとで,僕はステレオのスイッチを入れ,気まぐれでソニー・ロリンズのサキソフォン・コロッサスをかけたことがあった.するとどうだろう.テナーサックスが奏でるセント・トーマスのテーマがBメロに差し掛かったところ,驚くべきことが起きた.


突然,彼が歌いだしたのだ,ソニー・ロリンズに合わせて.しかも彼は,夕食を食べ終わって団欒する家族たちの合間を練り歩きながらあたかも自分の歌声を聞かせて回るかのように歌った.それは吼えているのはないし,かといって遠吼えでもない.歌っているとしか言いようのない声だった.ボルゾイは生まれの良いハンターであっただけではなく,気さくなエンターテイナーでもあったのだ.このとき彼が残したインパクトのようなこの記憶はいまだに僕の中に鮮烈に残っている.出来ることならこんな魅力的な犬をいつか伴侶にしたいと心の底から思った.


さて一方のD3は,もし例えたらそれが犬だとしても,たぶんもう少し地味な犬種だと思う.これだという犬種がやはり思いつかないが、強いて言えばハウンドやポインターではなくてセントバーナードのようなワーキングといわれるジャンルなのではないだろうか.D3の中に入っている「彼」は,丈夫でとても力強くて我慢が効いて,でもすこしシャイな性格をしているに違いない.僕が試乗しても「分からなかった」のは,たぶん彼のそんな性格のせいもあったと思う.でも,慣れて馴染めばきっと愛しやすい本音も見せてくれるのではないだろうか.




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実際にD3に試乗してみたことで,僕はこのクルマがよく分からなくなった.でもそのことで逆に,どんなクルマなのかもっと知りたくなった.それは最初に書いたとおりだ.そして羊の中に入っているケモノがなんなのか,それを知るためにはそれなりの代償を払わないわけにはいかないのが現実だ.


先日ポルシェに乗ったときも同じように思ったのだけれど,結局こういうたぐいのクルマは自分で買って好きなように走らせてみないと分からないものだと思う.もしそれが叶うならば,あとは彼が僕と仲良くしてくれること,そして僕にそれだけの甲斐性があることを願うばかりだ.


いつかそう遠くない日に,彼が我が家にやってきてくれたら,そして僕の一家と仲良くしてくれたら,そして時にはその隠しきれない野性の本気も垣間見せてくれたら――そんなふうに僕が「有頂天」になれる日は,はたして来るだろうか?






終わり
ブログ一覧 | アルピナ | 日記
Posted at 2014/06/16 01:39:45

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この記事へのコメント

2014年6月17日 2:16
文が本当にうまいですね!特にボルゾイのエピソード。もしもこれがまるきりフィクションだったら、私は本気でmashowさんに作家になること勧めます。ちょっと村上春樹に似ているけど。
で、車の話ですが、B3BiTurboの「中に入っている「彼」は怒ると手が付けられないのかもしれないけれど,普段は意外と気さくらしい」、「高貴な雰囲気がありながら,実際には意外とおちゃめ」という言葉には共感しました。だからきちんと付き合えば、飼い慣らせそうですね。
それに比べると、E90系のD3BiTurboと違ってF30系のそれは、確かにわかりにくいです。ただあのエンジンは、D5BiTurboとしてF10にも載せてほしかったなぁ。そしたらだいぶ姿がハッキリしてきたかも。
そんなF30/31のD3BiTurboを「すこしシャイな性格」と捉えたのは、前向きで良いなと思いました。
近頃、頭の中がポルシェ一辺倒の私ですが、ディーゼルはないものの、未体験のMRの癖とあいまって、3.4LのSのエンジンの方に、D3BiTurboのような底知れ無さを感じます。共に暮らせる日が来るかどうかも見当が付きませんが。
コメントへの返答
2014年6月17日 7:02
嬉しいです!朝から比喩や冗談ではなく有頂天です.いつもより早起きできました.ボルゾイのエピソードは9割がた実体験です.犬の大きさを変えて創作しようと思ったのですが,自信がなくて辞めました.でも今思えば嘘がばれることを恐れるより,表現を優先するために架空のエピソードをでっち上げようか?という自分の気持ちに素直になっておいたほうが良かったかもしれないと考え直しました.鴎外が書いた一文に影響されて,自分も自然主義に懐疑的なので,ここは課題です.でもひとまずは意識の問題かな.そして春樹のことは,刺さります.20行ほどの長すぎる言い訳が瞬時に浮かぶほどです.

ともかくその辺を全て含めて,通勤時間や睡眠時間を割いて一生懸命この文章を書いてよかったなあと思います,そしてコメントをくれたスパグラさんに感謝します.嬉しいです.

アルピナは狂気じみた性能を,悪魔的な方法論でひとつのクルマの中に閉じ込めていると思いました.その危険物を洗練という衣装を着せて売っている危険な会社だと.でも,封じ込められた彼らが,危険な悪魔というわけではないと分かってきました.だから,きっと仲良くなったり飼いならしたりするのは出来るのではないかと思いました.
New D3のエンジンをF10に搭載したら,その方向性では最強の一台が出来ることは間違いないでしょうね.ツーリングボディが日本でも売ってくれたらDセグ押しの私でもホントに欲しくなります.

ポルシェに関してもたぶんこれと同じくらい自分としても書くことがあるはずなんですが,いろんな意味でとりあえず「寝かせ」ています笑.スパグラさんのお考えをぜひ読ませて/聞かせて欲しいです.続きの記事があることを願っています.
2014年6月17日 8:05
一連のお話、非常に楽しく読ませていただきました。犬の例えなど、「おお、なるほどね〜」と実感する感じでしたが、本当に達筆ですね。実際に何か書いてみて、印税でALPINA D3 Biturboかう方が近道かも(爆)。

実際に試乗してみた身としては犬の例えなど非常に分かり易いのですが、この車は余程乗り込まないと余りある動力性能に隠れた部分を実感しにくいのかもしれないですね。でも、そういう部分に惹かれる方はすでに車歴を重ねてきてそこに共感出来るからこそ、アルピナに辿り着くのではないでしょうか(自分がそうとは言い難いですが)。

ポルシェもそうかもしれないですが、乗る事によって自分も磨かれる面がある車の気がします。そういう意味では、犬だと盲導犬に使われるラブラドールとか、牧羊犬のピレネーや、犬ぞりのハスキーかもしれません。間違ってもドーベルマンではないような。もしかしたら小さい象かも(笑)。

しかし、新型ALPINA D3 Biturboは3シリーズとしては似つかわしくないほどの700Nmのトルクを得た事で、一種異様な車なのかもしれないですね。1シリーズの6気筒のようにバランスとしてはちょっとオーバーパワー気味と思いますが、アルピナ的なバランスからは5シリーズとしてのALPINA D5 Biturboが正解なのかもしれませんね。

自分としてもかなり魅力的な車とは思いつつ、我が家のミドリーヌ号に別れを告げる理由も無いので、お先にお願いします(爆)。
コメントへの返答
2014年6月17日 23:12
印税生活は甘くないらしいですので,地道に働きます(汗 直木賞をとっても最初に編集者に言われるのは「今の仕事を辞めないようにしてください」ということなのだそうです(笑

ともあれ,お褒めいただいて嬉しいです!励みになります.

試乗を重ねるにつけ,このクルマはとっても奥が深いのだろうなあと思いました.自分にその価値を理解できるのか一般論としてあやしいところがありますが,そこは自分の感性を信じたいと思います(笑

自分が磨かれる車,ですね.分かるような気がします.僕は楽器を演奏するのですが,試されるような楽器ってあるんですよね.ちゃんと鳴らす技術がある人が弾けばとても素敵に鳴る.一方では,誰が弾いても良い音しちゃう楽器もある.

ハスキーは実は頭に浮かんだのですが,なんとなくメジャーすぎるかな?と思って辞めてしまいました.今思えばセントバーナードもあまり変わりませんね(笑 いずれにしても,ワーキングということで意見が一致しました(笑

ミドリーヌ号はやはり4気筒の良さがありますので,一生ものだと思います.僕自身,以前にお伝えしたようにF30のシャーシとHUDなどの装備が付いた4気筒モデルがあれば,そちらのほうが魅力です.ちょっとは安いだろうし(笑

そしてF10の5シリーズは本当に素晴らしいクルマなのですが,自分にはまだ早いと思っているのでやっぱり3番ですね.

あーどうしよう.
2014年6月17日 21:46
mashowさん、こんばんは。

大作のブログ、お疲れさまでした。

アルピナという車は凄い魅力の車ですね。
ポルシェに憧れを抱くmashowさんにこれだけのボリュームの文章を書かせるのですから。

私なりにmashowさんの伝えたい事は理解したつもりですし、全く同感と認識しています。
さて、種明かしですが、2013年12月7日のアルピナB6試乗記で同じことを表現していると思っています。
最後のほうの「他の車であれば、・・・」のくだりです。

もちろん、mashowさんの文章とは比較にならず、実にあっさりしたものですが・・・
コメントへの返答
2014年6月17日 23:16
こんばんはー.

結構がんばってしまいました.

なんか,言語化できないと思わせるレベルの不思議な魅力や謎を感じたので,負けず嫌いの私はぜひ言葉でそれを解き明かしたいと思ったのがそもそものモチベーションでした.

一番最初に出来た文章は,その3の最後,「けれども,試乗を終えてみるとどうだろう.」から始まる一節です.大げさに言うと,異世界が待っているような感じがしたんですよね.ただそれだけ書いてもただの頭がおかしい人になってしまうので,読む人に納得してもらえるように前後の説明をひたすら付けて作文しました.

そして,ラガーあきさんのブログも読み返しました.いつものあっさりした文体で,簡潔に書いてあってちょっとくやしいです(笑 僕もがんばります.

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