免許を取ってから,ようやく四年と半年が経った.去年,免許の色が緑から青に変わったばかりだ.免許を手に入れた僕は自分のクルマが欲しくなり,
今の車を買った.それから数えるとちょうど四年.車を手に入れたら,もっと車のことが知りたくなってみんカラを始めた.それからだと二年と少し経った.
それが今だ.
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先日,はじめてポルシェを運転した.そのことで,自分の夢にはじめて一歩近づいたような気がする.
いつか911のカレラSを新車で買うというのが僕の夢だった.好きな色に塗って,欲しいオプションを全てのせてオーダーしたい.以前からずっとそう思っていた.基本的には新車志向は無いつもりなのだけれど,911に関してだけは別だ.できることなら新車で買いたいと思う数少ないクルマのひとつだ.
そして,買ったらあとはもうひたすら一生乗りたい.車の運転が出来なくなるまで.
911は五十年という長い期間ずっと製造され続けているモデルだ.ポルシェはいままで製造された全てのクルマを合わせても,その四分の三がまだこの世に現存しているという.要するにそれだけ長く乗れるクルマなのだろうし,オーナーもそれだけ長く乗りたくなるクルマなのだと思う.
かつてから,ポルシェには並々ならぬ興味と敬意をもっていた.
けれどもじつは,単純に自分の意思だけでポルシェに近づくということは,気持ちのどこかで避けてきたのだった.ポルシェについてみんカラで何かを詳しく書くこともたぶんあまり無かったと思う.それは「自分にはまだ早い」という思いがあったからだし,逆にふさわしい時期になれば自然とその時が訪れることになると思っていたからだった.
折に触れてざわめく水面のような自分の気持ちをなだめるように眺めながら,僕は長い間それを待っていた.
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免許を取得してから今日に至るまでのこの四年間は,奇しくも自分にとってとても重く,代えがたい多層的な四年間だった.いろんなことを経験して,いろんな人と出会い,いろんなクルマに乗って,いろんなことを思った.だから,そういった経験をミルフィーユのように重ね合わせたものが今なのだと思う.そしてその記憶のミルフィーユの表面がつくる曲線が描く軌跡の先に,偶然の必然でポルシェが通りがかって,先日の僕とはちあわせた.そういうことなのだと思う.
そしてもちろん,短い試乗ではわかることは限られていた.それでもなお,そこで得た印象と体験は自分にとって愛しい輝きを持ったものだった.人間の記憶というものはかならずいつか消えてしまうものだ.だから,その思いが色あせる前にこうして記しておきたい.そういった意味では,この記事は純粋に自分のために書いている.いつかの未来の自分が読むための記事だ.十年くらいして,あの時大げさにまじめにそんなことを考えていたなあと思うための記事なのだ.
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一昨年くらいのBRUTUSに載っていたと思うが,その記事によると「暮しの手帳」編集長の松浦弥太郎さんは,あるとき「もう乗れないから」と高齢の知人から911を譲り受けたのだそうだ.それは,マニュアルミッションを搭載した1978年製のポルシェ911SCだという.「ジャケットを着てネクタイを締め身だしなみを整えてから乗り込む」「自分は運転が上手くないから,少しでもポルシェに認めてもらえるようにと思って向き合っている」といったような趣旨の記事だったと思う.
松浦さんはいま五十歳くらい.文面からは,それまでさほどクルマに強いこだわりをもってきた方ではないように思えた.それどころか,彼はこれまでクルマとはあまり関係のない世界で生きてきたのではないかと思う.そこで,彼にしか出来ない仕事とずっと向きあってきた.その結果,節目を前にして911に乗ることになった.それも半ば必然的に.
たまたま出会って偶然にバトンを受け取ったとも言えるかもしれない.けれども記事を読むにつけ,彼はそれにふさわしいように思えたし,それからも彼は引き継いだストーリーの続編を彼独自の文体で丁寧に書き続けているに違いないのだ.
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確かに,松浦さんのように人から託されるということは,並大抵のことではない.まあでも,自分にとって人生の必然として手に入れた911であればそんなことはどちらでもいいのかもしれないとも思う.極論すればそれが新車でも旧車でも構わないのだろうし,人から貰ったモノであっても自分で買ったクルマであっても,本質的な違いはないのかもしれない.
ともかく,いつかそうやってなにかの必然で誰かの物語を受け継いでゆける存在になりたい.人生の色々な物事がそれなりにうまくいって,その時たとえば自分がポルシェオーナーになっていたのだとしたら,まず最初にこの記事を読み返したい.初めて手に入れた911で走り出す前にこの日記を読みかえしてから,それを確かめるように走り出したいと思う.
それが僕の夢なのだし,この記事はそのための布石なのだ.
Posted at 2014/06/10 01:33:12 | |
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