
CBR入院・・・は別途書くとして、代車としてチョイノリを渡された。
店長曰く「俺の愛を注ぎ込んだ”ただ”のチョイノリだ」そうだ。
「ただの」かよ。
スペックは以下の通りである。
エンジン Z401型 49cc 4ストローク
空冷OHV単気筒
内径x行程 / 圧縮比 36.0mm x 48.6mm / 8.4:1
最高出力 1.5kw(2.0ps)/5,500rpm
最大トルク 2.9Nm(0.30kg-m)/3,500rpm
乾燥重量 39kg
SUZUKI チョイノリ。
走る。
ただそのためだけに造られたコイツは、圧倒的に簡便なスパルタンな装備が際立つ、走るためだけのマシンだ。
始動方式はキックのみ。
小物入れの類は一切なし。
豪奢な外装などはなく、フレームにダイレクトにマウントされたシート。
加えてスイッチBOXはBOXと呼ぶにも憚られる単純さだ。
ウインカーレバー、ホーン。以上だ。
ライトのON、遠目の切り替えなども一切ない。
無論レバーにプッシュキャンセルなどの無駄な構造は施されていない。
走るためには単純さによる、軽さと信頼性こそが最も重要だからだ。
そして、最大の特徴である、リジッドマウントのリアタイヤ。
スイングアームなどの複雑な機構を持たないため、非常に軽量な伝達系となっている。
また、エンジンはリジッドマウントによる恩恵で、レスポンスに優れるフレームダイレクトマウント方式を採っている。
最新のスーパースポーツのストレスマウント方式からフィードバックされた・・・かは知らないが、これによってフレーム中央部の剛性は著しく向上しているはずである。
まず、走り出してから感じるのが、そのスパルタンさである。
軽い。
圧倒的なまでに軽い。
乾燥重量僅か39kgの車重そのものもそうだが、ゴチャゴチャした備品がついていないハンドル周りは、10inchの小径タイヤも相まって、頼りないくらいの身軽さを見せてくれる。
体重移動に非常に敏感なシャシーは、ちょっと首を傾けただけで容易に向きを変える。
ステップを踏みつければそれだけでセルフステアの強烈な切れ込みが発生する。
やや非力気味なエンジンによって、そこからガバ開けしたところでタイヤのグリップは不足しない。
完璧なバランス。
完璧なコーナリングマシンである。
そのキビキビ感、ヒラヒラ感といったら、最新のスーパースポーツはおろか、我が愛車CBR250RRよりも軽い動きを発揮する。
このため、例え市街地の退屈な交差点すらもスリリングなコーナリングに変化する。
まさに走るためのマシンである。
何と粋な計らいだろう。
サスのセッティングもとてつもなくスパルタンかつスポーティだ。
リジッドマウントされたリアタイヤからは、路面のインフォメーションをmm単位の小石レベルの変化すら余さずダイレクトにライダーに伝えてくれる。
うっかりマンホールなど踏もうものなら、ライダーの尻が10cmほど飛び上がることになるが、
それはつまり”このマシンにとっての限界”を何ら誤魔化すことなくライダーに伝えているわけで、これもスポーティさに一役買っているはずだ。
フロントサスも、極めてショートストローク+ハード仕様となっており、これも軽量マシンが生み出す強烈なブレーキングのGを受け止めるための設計となっているに違いない。
軽量なシャシーにハードに締め上げられたサス。
これ以上のスポーツがあろうか。
あらゆるシチュエーションにおいて、メーカーはライダーに「走ることはスポーツである」ということを訴えかけてやまない。
何と粋な計らいだろう。
ブレーキは、効きの甘いフロントに対し、強烈に効くリアという、やや特殊な設定となっている。
これは、リジッドサスによる伸び側の追従性の低さを補うため・・・などという理由ではないはずだ。
そう。
コイツは走るためにマシンだ。
恐らく、圧倒的な運動性能を生かすため、リアブレーキによって積極的に倒しこみの向きを制御するスタビライザーとしての性能を重視したに違いない。
恐らくメーカーは、コイツで峠を攻める時はGPライダーよろしく、進入スライドを使いこなせというメッセージを込めているはずだ。
コイツを振り回すことができれば、スーパースポーツのゆったりしたスライド進入など朝飯前だろう・・・と。
何と粋な計らいだろう。
次はエンジンだ。
セル始動など、複雑かつ重量増に結びつくので、必要ない。
これは走るためのマシンだからだ。
よってキック始動のみだが、その始動は非常に軽快だった。
4stという高圧縮エンジンであるはずなのだが、まるでラジコンの紐を引くような感覚でかかる。
察するに相当なフリクションロスの低減に尽力したのだろう。
ゆえに、ケッチンなども怖くない。
そう、ケッチンの恐怖やら、かかりずらいやらで走る前から疲れてしまっては、走るためのこのマシンの存在意義が問われかねないというものだ。
ゆえに、走る前は余計な気を使わずとも良いということなのだろう。
何と粋な計らいだろう。
いざ始動しても、その腹に抱える50cc4stOHVの胎動はほとんど感じられない。
ご近所の目に対しても実に優しい仕様である。
走るマシンも、エンジンをかける度に顰蹙を買っていては走る気も失せるだろう。
そこをメーカーはしっかりと理解しているということである。
また、4stゆえか、スロットルを急激にひねるとカブってしまって全く加速しない。
ジワリとしたスロットルワークが必要なのだ。ジワリとした。
これによって、ライダーは常に神経質なスロットルワークが求められる。
50ccスクーターとしてはいささか非力なほうのエンジンであるため、甘い加速などしていては、
自動車に容易に追い立てられてしまう。
そのため、常にエンジンの性能を最大限に出し切れるスロットルワークが欠かせないのだ。
右折など、シビアなタイミングでダルそうにスロットルをガバ開けしていては、エンジンが息継ぎをしてしまい、ともすれば接触の危機だって訪れる。
そのため、発進時は常にピリピリした緊張感が必要になる。
これは、あらゆる状況において、的確なスロットルワークを必要とされるスーパースポーツと共通点があるとも言えるだろう。
あれらは、少しでもラフな操作をしようものなら、即座に前輪が浮き上がったり、後輪がスライドしたりする。
あれら猛獣を手懐けるためにも、このチョイノリでスロットルワークを鍛えよ、という計らいなのかもしれない。
何と粋な計らいだろう。
最後に乗り心地についてだが、言うまでもなくスパルタンである。
前述したように、前後のサスは存在しないと言っても過言ではなく、ラフなスロットルワークを許さない繊細なエンジン。
しかし、それでもしっかりメーターは振り切るのである。
十分な性能である。
純正メーターがいくつまで刻まれているかは、各自で調べて欲しい。
ただし、30km/hを越える速度を目指し加速しようとすると、リジッドマウントされたエンジンからの凄まじい振動がシートに伝わってくる。
アイドリング時の静けさはどこへやら、エンジンは単気筒らしい凄まじい振動と咆哮を上げて回るのだ。
個人差はあるだろうが、自分は僅か5分ほどで尻がしびれてきてしまった。
はっきり言って、速度を出す気には到底なれない。
しかし、それはメーカーが意図して行ったセッティングなのだろう。
それはなにか?
無論、安全運転、法律遵守のためである。
チョイノリが快適に走れる速度は、必然的に法的に安全な速度となる。
嫌でも本人リミッターがかかるのだ。
何と粋な計らいだろう。
また、並み居るスーパースポーツ勢だって、物によっては20分も走れば背中が痛くなるのだ。
5分で尻がしびれるか、20分で背中が痛くなるか、所詮その程度の差である。
つまり、メーカーに言わせればスポーツするのに5分も20分もあるか。大事なのは割り切りだ、ということなのだろう。
そうだ。モータースポーツには割りきりが必要だ。
メーカーはそのことを身をもって、体験させてくれるのだ。
何と粋な計らいだろう。
以上だ。