2012年05月29日
第6話 本州激走宮城編
第6話
第5話では誤算で秋田竿灯祭りを見ることが出来ました。
ここまで読んできた方は、私の気持ちが彼女に傾いて行っている事は容易に想像つくと思います。彼女の気持ちがどうだったのか、それは秋田で親切にしていただいたお爺さんの会話同様、今でも判らない事の一つです。
今、言える事は、掛け替えのない時間を、一瞬でしたが共にできたということだけです。
第6話 仙台そして東京へ
早朝6時、まだ早いが目が覚めてしまった。彼女と二人で旅を初めて、すでに5日が過ぎたが、普通の時間に寝たのは昨晩が初めてである。12時前には就寝していた。
体力的にも限界に近いものがあった。それは彼女も同じであった。
ゆっくり寝たので肩も腰もかなり楽になっていた。
私は彼女を起こさぬようにそっとガイドブックを取り、地図を確認していた。
国道13号を湯沢へ抜け108号に入り、鳴子で47号と合流して、そのまま一気に石巻まで抜け、松島を経由して仙台に入ろう。そう決め、沿線の情報をガイドブックで下調べしていた。しかし、何か腑に落ちない。距離にして250Km程なので、普通に走れば午後のあまり遅くない時間に松島に着ける。そう思いもう一度地図を見返した。やっと腑に落ちない点が判明した。今日は1日ハードなワインディングである。奥羽山地を横断して日本海から太平洋に出るルートだった。
一人のライディングであれば山道を軽快に流して走れるのだが、タンデムとなると、そうはいかなかった。しかし、彼女も「乗り方」が上達しているのも確かであった。
美瑛の丘めぐりでタンデムを始めてからすでに10日、タンデムシートに毎日8時間以上乗っているのである。「そりゃ、上手にもなるでしょ」と独り言をつぶやいていると、すでに目覚めていた彼女が、傍らで私を見ていた。「何が上手になるの?」「何でもないですよ」私は笑いながら答え、「まだ早いから寝てていいですよ」と付け加えた。
「目が覚めてしまって。何時に出ますか?」「そうですね、9時か10時くらいで良いと思っています」「そう。じゃあまだ余裕あるわね。あなたの話を聞かせて下さい」「僕のですか?」「ええ」「僕の何を話せばいいですか」「そうねぇ、なんで一人旅をしていたの?」
「男が一人旅に出るのに理由なんていらないですよ。ただ、走りたかっただけです」私は少しだけ恰好をつけていた。「うそ」「一人、好きなの?」「・・・どちらかと言えば嫌いです」「ほら、やっぱり」彼女は笑いながら、肘枕で横を向いていた私の額を指で押した。私はそのまま後ろへ倒れ、布団に仰向けになっていた。「・・・私と同じ?」「違います。」
「ごめんなさいね。あなたを私の感情の整理に巻き込んでしまって」「そんなこと言わないでください。誘ったのは僕です」「あら、あなたが黙っているから、乗せて行って欲しいと言ったのは私でしょ。男らしく「乗っていきませんか」と言って欲しかったのに」「それは・・・すみません」
「うそよ。大阪の○○さん達も、神戸の××さんも、あなたのことをカラかっていたのよ。今の私みたいに」
彼女は笑っていたが、私は複雑な心境であった。
朝食をどこかで取ろうと9時前に少し早いが出発した。
まだ9時前だというのに非常に暑かった。北海道と違い蒸し暑い。走っていても汗が滲み出てくる。安全上上着は脱げない。ベンチレートを開け、上着のファスナーも半分開けて走っていた。
しかし、山間に入ると天気が一変した。大きな積雷雲が見え、稲光がしている。
鳴子に入り休憩を取った。昼を回っていたので昼食をとり、再び走り出す。
走り出すと直ぐにバケツをひっくり返したような雷雨になってしまった。
合羽を着る暇もなく、二人ともずぶ濡れになってしまった。荷物は防水のためすべて袋詰めをしてあるので濡れはしないが、どこかで着替えないといけない。
屋根のある所を走りながら探し、やっと廃業したドライブインがあり、そこの軒下に避難した。バイクを降り、軒下に入ると彼女は上機嫌であった。「気持ちよかったね」
彼女は服が濡れて事より、暑さが和らいだ事を喜んでいたのだ。
しかし、20分ほどで清涼タイムも終わりをつげ、真夏の暑さに戻った。
我々は廃屋の陰で着替え、再び走り出した。
標高が下がるにつれ徐々に爽やかさが失われ、真夏の高温多湿の世界に戻って行った。
時刻は17時を回ろうとしていた。日本三景の一つ、松島に到着。バイクを止め観光遊覧船に乗った。湾の中を1時間ほど遊覧し、18時過ぎに港に戻ってきた。
すでに私の体力はかなり失われ、遊覧船の中では、彼女は追いかけてくるカモメに手移しで餌をやれることに大はしゃぎしていたが、私はベンチに横になり殆ど寝ていた。鳴子を出て、雨にあたったあたりから体調が悪い。頭痛がひどく、寒気もする。
港に戻り、バイクに向かう間に、彼女が私の異変に気が付いた。
彼女は自分の荷物から薬を取り出していた。
「アレルギーは?」「特にないです」
「これを飲んで」彼女はペットボトルの水と薬を差し出した。「顔が赤いし、おそらく40度近く発熱してる。あなた、あまり水を飲まなかったでしょ。脱水も見られるし」
そう言い残すと彼女は何処かへ消えた。
私は渡された薬と、ペットボトルの水を一気に飲み干した
バイクの前に座り込んでいると、しばらくして彼女が走ってきた。
コンビニの袋に水を沢山買い込んでいる。バイクから荷物を外し、私に立つように促し「行くわよ」と声をかけ、荷物と私を抱えるように、バイクを止めた公園の駐車場を出て、タクシーに乗ると、「○○中央病院へ」と告げた。
病院では、すでに電話連絡を受けていたようで、受け入れ態勢が整っており、入り口でストレッチャーに寝かされ、ERに担ぎ込まれた。
彼女は、電話帳で病院を調べ、様態を伝え、タクシーを呼んでいたのだ。そして水をコンビニで買い、私に頭からかけ、タクシーで病院に向かったのだ。
数時間後、私が目を覚ますと、病院で点滴を受けていた。傍らには彼女が座っていた。
「まったく世話が焼ける人」彼女は笑いながら小声でそう告げると、看護師を呼びに行った。
看護師が熱と脈を測り、「奥さんの対処が良かったのですよ」と言い病室を後にした。
私は病院に彼女はなんと説明したのかと思いながら、彼女を見ていた。
「転院の手続きをしてきます。明日、新幹線で東京に帰りましょう。バイクは病院の駐車場に移動して預かってくれるそうです」なんと段取りがすべて整えられていた、
病院にはバイク好きの大型免許を持った看護師がいて、彼女がその方にお願いして、すでに私のバイクは病院に移動してあった。彼女は薬剤師として勤務していたが、保健師の資格も保有しており、的確な判断により私は重症にならずに済んでいたのだ。
その日は病院で一夜を過ごし、翌日、仙台から新幹線で東京へと戻った。
第1部 北海道・東北編 完
第2部 「西へ」 に続く
第2部 予告(公開未定)
10日に及ぶ北海道・東北の旅が終わり、最後は私が熱射病になり新幹線で帰宅という幕の閉じ方になりました。
東京に着くと彼女は飛行機で帰宅すると申し出ましたが、どうしても最後まで送り届けたいという私の意思を汲み、最後までバイクの旅に付き合ってくれました。
西日本編では東京を出る前にルートを検討し、先に宿を抑えてから出発したので、宿泊に苦労することはありませんでした(苦労はしてなかったとも言いますが(笑))
しかし、金沢で乱闘に巻き込まれたり、出雲の旅館で盗難にあったり・・・。エピソード盛りだくさんの旅でした。
頃合いを見て、紹介していきたいと思います。
続きが気になるなんて方はコメントください(笑)
ご要望に応じてUPさせていただきます(笑)
また、このツーリングには後日談もあります。かなりプライベートなことなので、UPするかはわかりませんが、これも気になる人はご連絡くだされば、メッセージにてお送りします。(場合によってはUPしますよ)
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Posted at
2012/05/29 18:21:07
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