
FZ1ですが、納車して2週間ほどが経ちました。
購入前に思っていたことですが、このバイクに関する詳細なインプレッションがネット上には見当たりません。
あったとしてもエンジンのお話が中心で、しかもあまり乗れない人が「エンジンのパワースゲーw」って言っているか、逆にレース出身のベテランがYZF-R1と比較して「パワーないーw」って言っているかのいずれかに大別されることが多いようで。
納車してわずか2000キロほどですが、都内への移動の足、箱根ツーリング、椿ライン攻め、スクール、タンデムランなどなど、結構なバリエーションで乗ってみました。
ついでに駐車場で磨き倒したりしているので、いろんな方向からのインプレをしてみたいと思います。
○スタイリング
ヤマハ車全般に言えることですが、まずデザインがいい。
私は常々「機能」と「視覚」のデザインは異なる、と言っているのですが、まさにそれを体現しているのがヤマハ。
「機能美」という言葉がありますが、機械の性能を追求した形状はあくまで機能であり、それは視覚や触覚から感じとれる「美しさ・かっこよさ」とは異なるもの。
これをしっかりと隔離して「機能はこう」「ルックスはこう」とデザインしているのがDUCATIとヤマハではないでしょうか?
特にDUCATIはそのデザインセンスが卓越しており、しかも先進性とか伝統のテイストをきっちりと押さえています。
で、FZ1のデザイン。タンクとヘッドライトを中心とした塊感のあるスタイリングは他のネイキッドとは完全んに一線を画しています。
特にタンクの形状はアスリートの身体のように様々な筋肉が浮き出ているようなデザインとされ、直線と平面を基本に造られ、シャープな印象です。
そのシャープさはヘッドライトを中心に、同心円状に広がってエンドに抜けていく。
スポーツバイクの性格もあるFZ1のイメージを見事に視覚化していると思います。
その一方でたとえば腰をずらして膝をタンク後方に引っ掛けるような乗り方でもしっかりと対応できている。
見た目だけでないのもFZ1の大きな特徴でしょう。
○シート
薄め、扇形のシート形状などからも分かるように、スポーツライディングを前提に作られています。
この形状はメーカーを問わず最近のSS系バイクの特徴。
おかげで815mmというシート高にも関わらず、前乗りしている限りは足つきも問題なし。
新調176cmの私だと両足ともかかとまでべったりです。
ただし、これは178cmの人でも「足がつかない」と言っている人もいるので、個人の体格と体重による差が大きいと思います。
その一方で前下がりとなったシートはブレーキのたびにニーグリップを意識しないとタンクに股間が押し付けられますし、薄いシートクッションはエンジンの熱をしっかりと股間に伝えます(笑)。※1
走っている分にはいいのですが、渋滞では正直堪えます。
○ハンドル&ステップ
一般のユーザーさんや雑誌のインプレッションで乗った人に実際に話を聞くと、共通して評価が低いのがこの2点。
確かにハンドルはフラット気味のバーハンで、普通に乗るにはやや前傾を強いられる一方、スポーツするには後ろ気味です。
しかし、個人的には「絶妙」と思っています。
もしかしたら開発ライダーの体格と私の身体が近いのかもしれないのですが、腕をたたんでの前乗りや、シートの後ろいっぱいに座っての後ろ乗り、白バイのようなリーンイン&タイヤエッジを使うようなリーンアウトだけでなく、お尻がほとんどシートからはみ出してしまうハングオフでも「もうちょっとハンドル位置が・・・」と思いつつも、腕に余裕がある状態で乗れてしまうんですね。
おそらくもう少し後ろだったらフロント荷重がかけにくくなりますし、逆に前だと街乗りで腰が辛くなる。
その塩梅が実に見事だと思います。
ステップも同様。ただしこちらはややストリート向きの設定となっており、取り付けもラバーを介しています。
スポーツをする人からは「ぐにゃぐにゃ」と悪評を受けていますが、感触以前にかなり低く&前位置になっているで、本気で乗るにはバックステップへの交換が必須かと思います。
あと、特筆したいのが足をついたときのステップ位置の悪さ。
腰の位置真下にステップがあるので、足を下ろすとふくらはぎにステップがちょうど当たるんです。
特にまたがったまま後ろに進もうとすると見事に邪魔をされます。
停止時でも足を前に出して止まる癖がないと(多くの人は止まるときに足を真下に出そうとしますね、これ、停止した時には足が後ろにいってしまい、路面が悪いと足が滑って立ちごけの原因となります)、やはりふくらはぎを痛打します。
○ピリオンシート
タンデマー用のピリオンシートはFZ1とFZ1FEZERでは形状が異なります。
具体的にはFAZERにはグラブレールがついているのでベルトがついておらず、シートもかなり前上がりになっています。
一方のFZ1はSS直系バイクの名残なのか前下がりになっており、タンデムベルトのみ。
シートクッションも薄く、はっきり言って実用性はほとんどありません。ブレーキの度にヘルメットの頭突きを食らいます。
FAZERシートの移植も考えましたが、キャッチから交換しないと装着できないことが判明し、断念しました。
※1
○メーター
メーターはアナログの回転計とデジタルのスピード計です。
その他に水温、吸気音、燃料残量、時計などが表示できます。
運転中はあまりメーターを見る癖がないのですが、少なくとも高速などでの視認性は優れています。
○ブレーキ
フロント320φ対向4ポッドダブル、リアは1ポッドのシングルです。
フロントは住友MOSキャリパー、リアはブレンボのOEMをヤマハが作った通称ヤマンボです。
そりゃブレンボのモノブロックキャリパーに比べると弱いですが、少なくとも椿ライン連続10往復でも効き・コントロール性に変化はなく、耐久性も問題ないです。
敢えて言えば私はリアブレーキを多用するライディングなので、リアは対向にしてもう少しコントロール性を高めたい、と思うくらい。
○エキゾーストシステム
国内モデル専用の排気圧可変システムのEXUPを採用。
好みの分かれる5角形のショートサイレンサーだが、個人的には結構気に入っている。
ショートタイプでサイレンサー本体もエンジンに近く、マスの集中に貢献しているのだろう。
面白いのはシリンダー直後のエキゾーストパイプのデザイン。
4気筒ネイキッドのシリンダー直後はパイプとエンジン、フロントサスの間に隙間が空き、横から見ると間が抜けているようになってしまうのが常だが、FZ1では2&3番をやや前よりに曲げていることで真横から見るとこの間を埋めており、デザインの連続性を損なっていない。
排気音は、アイドル時は普通の水冷4気筒のエンジンサウンド。しかし、回していくと他社とは異なる脈動が感じられる。これはヤマハ伝統の5バルブの特徴の一つ。
5バルブとは1気筒に吸気3、排気2のバルブをもつのが特徴(ヤマハの場合)であり、シングルからマルチシリンダーまでFZ系を中心に採用されている機能である。
「音」にこだわりを持つヤマハらしいスペックであろう。
○エンジン
冒頭でエンジンの話ばかりと書きつつ、やはり入れない訳にはいかない。
ベースとなっているのは04のYZF-R1。これをデチューンしてパワーを絞りつつピークパワーをより低速域で出せるようにしているという。とはいえ国内仕様でも最高出力 69kW(94PS)/9,000r/min
最大トルク 80N・m(8.2kgf・m) /7,500r/minもあり、十分すぎるほど。もちろんサーキットに行くのであればフルパワーは必要だし、ツインスパーのアルミフレームやエンジン、サスなどはSTDではオーバースペックすぎるほど。
逆輸入モデルで言われていた全閉から開けた時のドン突きなどもなく、低速からレブリミット直前まで気持ちよく回せる。
といってもクランクの慣性マスが多くなっているなど、回した時の伸び切り感は確かに存在する。
低速時のトルクはCB1300やZRXに比べるとやや希薄と思えるが、あくまで比較した時でありDUCATIのようにUターンでも3000くらい回さないとこけそうになるようなことはない。
クラッチのつなぎかたさえ気を付ければアイドリングでのUターンもこなせる(逆に言えば、全閉でのクラッチ操作は少しシビア)。
回すと水冷マルチシリンダー特有のモーターのように一定のパワーデリバリーで、ものの数秒で100km/hの壁を越えられる。 といってもそんなことは水冷だろうが空冷だろうが、ツインだろうがマルチだろうがリッターバイクではできて当たり前。
言いたいのはR1のエンジンだからと身構えずともよく調教されており、誰でも安心してアクセルを開けられるようになっているということ。癖がなく、回転数によってもフィーリングの変化もない。どこからどうあけても大丈夫。ただし、開けやすいとはいってもやはり早い。低速からパワーが出ているということは砂地や濡れた路面ではいともたやすくスリップを起こすのだ。
ABSやトラクションコントロールといった先進機能がついていない分、しっかりとした基本動作が必須のバイクといえるだろう。
※1 前後ともにシート形状に関しては張替と同時に断熱性に優れた衝撃吸収材を入れ、さらに前上がりにすることで改良済み。シート高は最大部で1.5cm(ピリオンは2cm)上がりました。