
自動車事故は、基本、自動車が起こすものではない。運転している人間が起こすものだ。いわば、使い方を誤ると、ケガをする刃物のようなものだ。だが、しかし…本当に自動車そのものには罪はないのか?
いわゆる安全運転を逸脱し起こしてしまう交通事故以外に、80年代以降に奇妙な事故をよく見聞きするようになった。それは自動車が、あらぬ方向に動いて、立体駐車場から落ちたり、店舗に突っ込んだりするという事故である。
この類いの事故はなぜ起きるのか?なぜ80年代以降から発生するようになったのか?
まず、なぜ起きるかだが、それは一般人が運転する乗り物の中で、唯一、自動車だけが持つ機能が原因だ。それは「バック」である。バイクや自転車では、この類いの事故は起きない。そして、なぜ80年代以降なのか。それはオートマティック・トランスミッション(以下AT)が普及したからである。
この類いの事故の原因として、よく言われるのがブレーキとアクセルのペダル踏み間違いだが、しかし、多くは、そうではないのではなかろうか(報道内容がスポンサーの意向により意図的に変えられている可能性もある)。その根拠は、ATは、パーキングから車を動かすには、ブレーキ・ペダルをまず踏まないとドライヴにもバックにもモード切り替えができないというところだ。つまり、車を動かす最初の手順であるモード切り替え時点で、ブレーキをアクセルと間違えることは解消しているはずだ。アクセル・ペダルをブレーキと間違えて踏み込んだなら、モード切り替えができてないわけだから、単なる空ぶかしで終わる。間違うのはATモードの切り替えである。つまり前進とバックの、真逆の間違いである。
具体例としては、頭から駐車場に停める。これは、なんらかの事情で急いでいるからだ。時間的余裕があれば何度も切り返してバックで停めるだろう。そして、用事を済ませて自動車に乗り込み発進しようとする。エンジンをかけて、モードを切り替える。当然、バックで出るつもりなのだが、ここでドライヴ・モードに入れ間違えてしまう。急いでいるからだ。そして、モードの確認を怠り、一気にアクセルを踏み込む。これも急いでいるからだ。おそらく、この時点で運転者は後方の安全確認をしているだろう。当然、自動車は思っていた方向とは逆の方向に暴走。運転者はバックすると思い込んでいるうえに、後ろを見ているので、ただ驚くだけでアクセルからブレーキへ踏み替えるのが、大幅に遅れる。むしろ、驚きで混乱もしくは硬直し、さらにアクセルを踏み込んでしまうのではないか?間違いに気づくのは惨事が起きてしまってからだ。
運転とは、本来、窓ガラスの外を見て安全を確認しながら行うもので、ATのモード表示を見ながら行うものではないのである。もちろん動かすたびに、いちいち表示を確認すればよいのだけれど、運転者は本能や慣れで、特に急いでいる場合などでは、動かすためのこと以外のことは省略してしまうものだ。特にバックをしようと思っている場合は、後方を見ているわけだから、ATモードの表示は完全に見ることができない。警告音ブザー/チャイムなどは、省略される感覚の部類に入るので、あまり意味はないし、前進しようとして警告音が鳴ればバックに入れ間違えたことに気づくかもしれないが、逆の場合のことはまったく考えられていない。メーターパネルの中にATモード表示があるということは、ないと危険だという証拠だ。窓の外だけ見て運転することが危険だということなのだ。
マニュアル・トランスミッション(以下MT)では、各ギアの位置が明確に違うレバーを操作するので、手の感覚だけで位置の違いを認識し、ニュートラル、バックを含め、今、何速に入っているのかがハッキリとわかる。ATのモード・セレクト・レバーは電気的なスイッチなので、配置はいかようにもできて、マニュアル的な手でわかる感覚を残すこともできるはずだが、多くは一直線もしくは単純なゲートに各モードが並んでいて、表示を目で確認しないとわからない。ここが問題なのだ。
MT車の場合はクラッチとブレーキとアクセルの3ペダルを両足で操作するゆえ、両足の位置を確定させないと運転できないので、着座位置を必然的に正しくさせ、アクセルとブレーキの踏み間違いなども起こらない。さらにMT車は、万が一、右足の操作間違いで自動車が意にそぐわぬ動きをしても、即座に左足で動力を遮断することができた。前進の場合でもバックの場合でも、発進する際の動力を制御する最終的手段がクラッチ・ペダルだからだ。しかし、クラッチ・ペダルを廃した2ペダルのATとなってからは、その一種の安全装置もなくなってしまった。
ハッキリ言うと大衆車のATには欠陥がある。欠陥とは言っても、機械が勝手に間違った動作をする欠陥ではない。運転する人間の間違いを補完できないという欠陥である。
運転とは、人間が歩いたり走ったりする動作を機械で拡張した本能的なものであることを自動車メーカーはわからなくてはいけない。いや、自動車メーカーがそんなことをわからないはずはないのだから、わかっていて知らんぷりをしていると言わざるを得ない。歩き始める都度都度、必ず靴ヒモがちゃんと結ばれているか確認する人などいないのだ。
ATはマニュアルに比べ、操作が簡単で(特に坂道発進と渋滞時の変速の面倒)、より売れるから作る。しかしコストは少しでも下げたいから安直に作る。しかし、それではいけないはずだ。自動車は、ひとつ間違えると簡単に凶器に変貌するのだから。
メーターパネルの表示をいっさい見ず、窓ガラスの外だけを見て安全に運転できなければ、自動車としては欠陥品であると断言できる。
エアバッグだなんだと、うわべの安全装備だけでごまかすのはやめるべきだ。事故したときのことも大切だけれど、それ以前に事故をしないようにすべきだろう。極論すれば、シートベルトやエアバッグよりATモード・セレクトを間違えない工夫が重要だと思う。エアバッグを膨らませるクラッシュ・テストも大切だけれど、クラッシュしないために、メーターパネル表示ブラインド・テストを義務化しないと、この類いの事故は決してなくならないだろう。
筆者のアイデアを述べると、ATモードをバックに入れると、全ての窓ガラスが赤くなる機能(現代の技術なら可能だと思う)、もしくは、全ての窓ガラス内側枠と、窓から首を出して後方確認する場合もあるので、Bピラーより後ろの外側の窓枠全てに赤く光る発光部分があれば、この類いの事故はなくなると思う。加えて、前進モードに入れた場合には、赤色ではなく、5秒間くらい緑色に光るようにすればいいと思う。
このような事故をニュースで見たりしたときに、注目してほしい点がある。それは、どんな自動車が、そのような事故を起こしているかである。ほとんどが安い大衆車であるはずだ。高級車がそんな事故を起こしているところは、あまり見たことがない。
これはなぜなのか。それは、価格の高い高級車になって、はじめて、このような間違いが起きない工夫がされる(コストをかけて作る)からである。安さ至上主義で作られた大衆車は、法定機能を最低限、満たせばいいという、工夫などすべてカットされた、危険な一直線もしくは単純ゲートのATになっているからである。
それに、高級車を所有する一部の富裕層は、当然、自動車そのものと運転テクニックにも興味をもつか、そうでない場合もプロの運転者に運転させるかだから、ますます、この類いの事故は起きない。
このような事故を起こすのは、自分の足や自転車やスクーターなどの延長で、生活のために本能で運転する、自動車そのものにはまったく興味のない一般大衆なのだ。しかも、お年寄りや運転未熟者や多くの女性など、弱者であればあるほどそうなのだ。
生活に便利な道具としての自動車は安いにこしたことはない。安ければ売れる。そのためにはメーカーは手抜きをする。あら、安いわねと買う。危険だとも知らずに。エアバッグなどは事故を起こしてしまったときのためのものなのに、安全の意味を歪曲して話すセールスマンに安全ですよと、だまされて買ってしまうのだ。
加えて言うと、ABSなどの機能は確かに事故を未然に防ぐ安全装置ではあるが、このような一般大衆は、基本、無謀な運転はしない安全運転者なのだ。ABSを作動させる事態を想定するよりも先に、ATモードのセレクト配置や、ペダルの位置や、外を見たままでも前進かバックかがハッキリわかる工夫をすべきではないか。まず最初に、安全運転者のうっかりを想定すべきだ。
この類いの事故は、自動車メーカーの儲け第一主義からくるものであると言えるだろう。
エアバッグやABSなどの目立つ装置は、売り上げに直結するから装備するけれど、地味で目立たないうえにコストのかかることは、安全のために重要である部分であったとしても、メーカーは知りつつ無視しているのだ。加えて、このような基本的欠陥を考察、指摘しようとしない自動車評論家も問題だ。
事故は悲惨だ。特にこの類いの事故は、一生懸命なんとか生活しようとしている一般大衆が悪意なく起こすから、さらに悲惨だ。安い給料で働くサラリーマン家庭が、なんとか幸せを得ようとローンを組んで自動車を買う。これから便利になるねと、なにも知らない妻にも運転させる。ある日、妻はATモードを間違え、自宅の駐車場で目の前にいた自分の子供をひき殺してしまう。もしくは1円でも安く買い物しようと行った大型スーパーの立体駐車場から転落し、妻も子供も即死する。
自動車の構造や運転に興味をもてない者は運転すべきでないとは言えない時代だ。自動車は便利な生活の道具である。しかし、それは正しく使った場合にはということを忘れてはならない。そして、間違った使い方をしてしまう可能性が高い自動車になればなるほど安く、その数も多くなってゆき、間違った使い方をしてしまう可能性が高い一般大衆/弱者に向けて売られているという悪循環も知っておいてほしい。
Posted at 2012/08/27 14:42:07 | |
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