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斉藤実さん、という方が書いた孤闘という本を社内のある方からお借りして読みました。著者の斉藤さんは、ヨット(酒呑童子II)で単独無寄航世界一周の最高齢(71歳)記録を樹立なさった方で、現在も次なる冒険として8回目の世界一周を画策していらっしゃいます。ちなみに世界一周ということは南太平洋・南アメリカ南端・南アフリカ南端を通過するのですが、ここは暴風雨域で航海の難所であり、複数人が乗組む鋼鉄船でも大変なのをひとりで航海する、というのですから恐れ入ります。
この斉藤さんという方は読んでみるとすごいひとで、それをさらっと書いていますが文面はとても熱い。でも普段は淡々としているようです。読後感として幾つか印象に残ったことをまとめて書き連ねます。

[仕事をリタイヤするまで]
・若い頃にモンテーニュの「事を成すは天にあり、事を計るは人にあり」に感銘
→努力を尽くして天命を待つ、と同意義と思います。
・次男として家業を支えたが実家とは深い確執があり、当面は専務として黙々と働き、50歳になって株・退職金をもぎ取ってリタイヤ
→仕事を仕切る判断力は50代以降は衰えるから後進に譲る。そして体力のあるうちに人生を楽しむ

[冒険に対する斉藤さんの考えかた]
・大事を成そうとする精神が大事
→結果が失敗に終わることもある
・各種計器類・操舵装置が故障して気遣う周囲に対して「艇はパニックだが自分はパニックではない」
→一度参加したレースをあきらめない
・絶体絶命の危機でも、状況が好転するのを待ち、生き延びる工夫をする
→艇が転覆して溺死寸前でも"天候に対して"負けず嫌いを発揮
・自分の危険は自分で管理し、他者に責任を負わせない
→商船が居る海域では「相手が避けてくれる」と考えず自分で衝突等の危険を回避

[冒険に対する欧米の考え方]
・不思議な話、美しい光景を追体験したい、という気持ちと冒険
・故障した電装品を無償で修理してくれたウルグアイ海軍、果たして海自や保安庁はどうだ?
・遭難者救難のコストを税金で負担する、海洋国家の豪州
→冒険者に対する敬意を払う国々
・ヨットはレース参加者の仲間間との交信が大事
→行方不明等の遭難事故が多発する命がけの冒険であるから、競争ごとでも仲間意識が強い

[日本人に対する思い]
・義を重んじず情を大切にしない日本人
・\を出して仕上げてもらったり、回航等を自分でやらないお客さん的日本人と、犠装を手伝って自艇の構造を勉強する欧米人
→DIYの楽しむ感覚が少なく、\があれば余計なことはしたくないという日本人は多いかも。
・ヨット購入を勧めるときの見積りより、最終見積りが$20Kも高い！ヨット仲間であり友人だが商売は別の豪州人
→江戸末期の不平等条約を連想してしまいました。これが彼らの論理であり、要は交渉ごと、なんですね
・癒されたいと思う人は競争社会を生きていない
→日本人は甘えている?そういえば「甘えの構造」なんて本があったな。
・ヒーローを認めたがらない日本人
→冒険に対して協賛したがらなかったり、物事を断行するような出る杭を嫌う

[その他]
・チップ要求する役人は動物以下
→働かないラテン系の人たちは効率を下げ、害があるから動物以下

ご自分の実家から日本人のダメさ加減、果てはダメな外人にまでかみつくさまは爽快ささえ覚えます。単なる冒険好きなのではなく、文面の端々から完走・生還に対する執念を感じます。二人で帆走する競技で一緒に乗艇したひとが逃げ出すこともあったようで、何日も寝ずに荒海を航海し続ける精神力には言葉がありません。おそらくは仕事に対しても同じようにやってらしたんだと思います。

これを読んだあとに最近の日本の政治とか見てると、"責任者不在"を強く感じます。税金の件とか社会保険の件とか、誰が言い出して誰がこの状態を続けようとしているのかが見えません。これは江戸時代の"ご公儀"からの流れのような気がします。とにかく矮小なことからでも始めよう、と、私自身は物事を決めるときには「自分がこう思うからこうしたい」というように主体性を宣言してやっていこうと思っています。

ところで斉藤さん自身は決め事が細かい内海レースより単純明快な外洋レースがお好きなんだそうです。これってラリー競技が好きな人の発言と似てるように思いました。これを読んで、またラリーに対する思いがほんの少しだけ熱くなりました。