古いケータイのmicroSDに保存してある写真を見て思い出した。
私には、そのむかし、人知れぬ趣味があったのだ。
5~6年前、都内のそれこそ神田川の脇で仕事をしてた頃の話。
仕事帰りに、月に1~2度ほどの割合で
ひとり立ち寄る秘密の場所がありました。
誰にも言わず、人知れず。
仕事を早めに切り上げて「ちょっと用があるんで」なんつって。
足早に向かった先は、ここ。
銭湯。
会社のある駅から、うちに帰るまでの間
一駅ずつ途中下車しては、銭湯に行っていたんです。
初めて降りる駅に立って
初めて歩く街を抜けて
銭湯を探す。
だいたいの場所は、予め下調べをするけど
あとは、煙突を見つけたり、ニオイを頼りにしたり。
辿りついた銭湯は、でも、どこも
それほど違いはない。
番台があったり、なかったり。
富士山が描いてあったり、なかったり。
そのぐらい。
見知らぬ土地で、観光客でも、ましてや住民でもなく
今すぐに汗を流す必然性もないのに
脱衣所で素っ裸になる。
結構、どきどきするんですよ、これ。
ものすごく無防備で、頼りない感じ。
銭湯に浸かる自分の存在に
まったく根拠がないんですね。
でも、周りの人はそんなこと露ほどにも思わない。
ケロリンの桶に湯を張りながら
少しずつ、風呂場の気配に溶け込んでいく。
知らないおじさん達とお湯に浸かっても
ここにいるべきじゃない人がいることを
自分だけが知っている。
異邦な感じが、なんだか癖になっておりました。
そりゃ、人に言えないわな。
みょーな趣味だ。
何でこんなこと始めたのか、あんまり記憶にない。
趣味で、銭湯評論家みたいなことをしようかな
ってちょっと思ったけど、それが先なのか後付なのか。
ある町の銭湯から出たとき、
脱衣所から、素っ裸の肉体労働者なお兄さんが出てきて
びっくりしたことがあった。
腰タオルだけの出で立ちで、手にはケータイ。
「そうそう、いま銭湯。表に出たからわかると思う」
なんて話をしてる。
どうやら友人を迎えに出たらしい。
ドリフのコントかよ。
東京の下町にはまだこんなところがあるんだって思った。
銭湯からあがって、缶ビールを飲みつつ、駅に向かう。
流行ってない飲み屋とか、路地にある民家とか、人気のない神社とか
そのへんを横目にひとり歩く。
下町生まれなので、雑多な感じがとても懐かしい。
そうそう下町は、隣同士の暮らしの空間が、びっくりするくらい近いんだよね。
裸同士でひとつの風呂につかる、銭湯みたいに
裸の暮らしが隣り合ってる感じ。
駅のホームで電車を待ってると
ほてった体に地下鉄の風が心地よかった。
あの趣味は何だったのかな。
仕事が忙しくなって、行けたのは数か月間だけだったけど
どこの銭湯も良く覚えてる。
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♪ 神田川 かぐや姫
Posted at 2014/03/26 23:24:15 | |
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