太郎は、日本に来たトムを
観光案内することになりました。
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「こんにちは、太郎さん」
「こんにちは、トム。日本にようこそ」
「ここは成田空港ですか」
「はいそうです。ここは日本の成田空港です」
「私は、明日、京都で芸者と遊ぶでしょう。
そして、今日の夜には、成田でピンクコンパニオンと
過ごさなければならない」
「おお、それは本当ですか。
私はあなたが、日本の歴史に興味がある人物であると
見なしています。
今日は、わたしが、成田の歴史を案内するつもりです」
「私は、しばしば成田の歴史に興味があります。
しかし、私は、成田の寺や参道には
あまり興味を持っていません。
あなたは、私の興味を満足させる必要があります」
「私はそれを知っています。
さあ、一緒にでかけましょう」
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―という訳で、太郎に代わって、居丈高なトムを
成田の歴史散策に案内してみましょうか。
白い壁に囲まれた、ちょっと不思議な道。
ここは、成田の東峰地区ってところです。
この壁の向こうは、じつは空港の敷地。
しかも、滑走路なんですね。
で、この異様な道の先にあるのは、これ。
神社ですよ。
ここは、成田空港の2本目の滑走路の南端です。
この先は、2500mの滑走路が続いている。壁で見えないけど。
実は、成田空港には、長い長いすったもんだの歴史があるのです。
3本の滑走路を造ろうって計画された成田空港ですが
1978年の開港時には、1本しか作れなかった。
人が何人も死ぬほどの反対運動があったんですね。
2本目の滑走路が、中途半端ながらも何とか完成したのは
それから24年後の2002年のこと。
四半世紀。いや、ホントなんだって。
その2本目の滑走路の端にあるこの神社は
反対闘争のいわばシンボル的な存在なんですね。
今朝は、いつもの海じゃなくて、なんとなく飛行機を撮ろうと思いまして。
でも飛行機を撮るには、上手な人や得意なカメラがあるのは
重々承知してる。そして自分のカメラじゃ、あんまりだってことも。
それでも、自分じゃないと撮れない場所、GRじゃないと撮れない写真が
あるんじゃないのかな、って思って、ここに来た。
ぐおっ。
頭上すれすれに、轟音を響かせながら飛行機が行く。
轟音、なんて簡単に書いてるけれど、尋常じゃない。
やばい、って思う。
人がいちゃいけないところだ、って思う。
ゴジラが、ビルをもぎ取って、ブンって投げる。
そんな感じで、飛行機は飛んでくる。
ここで、不思議な風を見た。
飛行機の翼の先に、人の腕くらいの太さの
半透明の“たなびく何か”を見たんです。
2mくらいの長さかな。もっとあるかな。
「あ、燃料が漏れてる」
って思ったけど、違う。
飛行機が行き過ぎても、その半透明な何かは
風に吹かれてたなびいていて
数秒で消えていった。
よく漫画である、翼の先端からのびる
飛行機雲なんでしょうかね。
調べたら翼端渦、ってのらしい。
見ちゃいけないものを見た感じで
場所が場所だけに、ちょっと不気味。
日が昇って、朝日に梅がきれい。
ここで飛行機を待って写真を撮ってたけど
壁の向こうには警備の人がいて、しっかり監視されてる。
うかうかしていると私服警官の職質にあう。
私自身が、その警備の人から「私服警官」だと
勘違いされたくらいですから。
「あ、ごくろうさまです。私服の方ですね。いま二人ほど
航空機の写真を撮ろうとしている人が…」とか言われた。
ちがいます、私もその写真を撮る人の方です。
まだ、反対闘争は続いてる。
神社を後にして、今度は東峰地区にむかう。
ここは、いまだ空港建設に反対して
敷地内に住む人たちの集落。
計画では滑走路になってるはずの場所ですよ。
この人たちがここにいることで、2本目の滑走路は
反対側に延ばさざるを得なかった。
莫大な費用と膨大な時間をかけて。
Google Mapで見ると判るけど
ホントに空港の真ん中に人が住んでる。
え、まじで、って感じ。
堆肥のにおいと、梅の香りと、ラッキョウのニオイ(工場がある)。
ヒバリの鳴き声がうるさいくらい。
一見のどかな感じはするけれど
突然の轟音とともに
あり得ないくらい低く飛行機が飛ぶ。
ぐわっ。
一瞬にして非日常の空間。
うわ、ここに住んでるのか。
飛行機が飛び去って、一拍おいてから強い風が吹く。
それが収まって、さらに少ししてから
ぴゅ~って不気味な音とともに、今度は鋭い風が吹く。
風が吹く気配がまるでないのに、風が吹くのって
ものすごく、不気味。
これは言葉では説明できない。
背中に不安が這い上がってくるような
おそろしいほどの不自然さ。
ほら、これ。
あんまりな写真だけど
この翼からのびてるのが翼端渦。
わかるかな。
田んぼにあるカエルの卵の
卵がなくて、ゼラチンだけみたい。
こんなのが、10mくらい先に見える。
不気味でしょ。
東峰地区は、空港の敷地に隣接してるから
あちこちに「入るな」の看板がある。
これなんか、民営化前の空港公団のころのロゴマークだ。
柵が倒れてたのをいいことに
人気がないことをいいことに
少し奥まで進んでみよう。
ここ、歩いていいのかな。
地区住民の土地なのか、空港の地所なのかわからない。
行き着いた。
明らかにこの先は、行ってはいけない場所。
誘導灯があるだけだ。
建設に反対しているひとも
それに乗じている極左のひとも
お国も空港会社も
最早、まるきり話がかみ合わない。
話し合いをする余地なんてない。
落としどころがないんだから当然だ。
ただただ、飛行機の両翼からのびる
翼端渦みたいに、ずうっと平行線。
ひこうき雲みたいに、伸びるだけ伸びて
いつかは消えてくんだろうけど。
どちらが良いとか悪いとか
歴史がどうとか、手段がああだとか、信頼がこうだとか
そんなのもうわからない。
ただ、こうして異様な光景はある。
集落の近くにはバス停があった。
市内を巡る循環バスも走ってる。
非日常な環境ではあるけれど、行政は集落として対応してる。
成田には、歴史ある寺や、世界に誇る空港のほかに
こんなところもある。
トム、わかったかい。
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♪ ひこうき雲 荒井由実
Posted at 2014/03/19 00:13:45 | |
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