
私が仕事で体験した中国での製品製造時に起こった事を書いてみます。
それまで、2年間ほどの付き合いのある中国の工場がありました。
少量かつ価格が厳しく、品質への要求がうるさくないお客さんの製品をその工場で作っていました。
先日、某地方公共団体の仕事を落札しました。
これは、
大量かつ、価格がとても厳しく、品質への要求はとても緩いお客さんです。いつもと異なるのは、量がとても多いという点。
何度か行った事のある中国のその工場ですが、これほどの量(これまでの実績のおよそ500倍)の量を製造するのは初めてです。
中国の工場とは15社ほどと取引がありますが、今回は価格を重視してこの工場に決めました。

これはその工場を初めて訪問した時の写真です。
門にブタの頭が干してありました。
工場の管理レベルの低さがここからも伺えます。
その工場のシルクスクリーン印刷用の版の写真です。
下2枚は接写してみました。
泣けてくる品質の版です。
このまま印刷すれば、どんな事になるかは印刷齧った人なら一発で分かる事でしょう。
さて、今回は社員さんを連れて行く事にしました。
今回の目的は校正用のサンプル製作まで立ち会う事。
社員さんを連れて行った理由は、原料の仕入れを行う必要があったからです。
今回の仕事、量が多いので輸出手続もあり、日本系の商社を通しました。ですが、彼らは製品についての知識は一切ありません。
中国には問屋というシステムがありません。
例えば、日本でビニールの問屋に行けば、各種ビニール製造元の色々な規格のビニールを購入できます。合成皮革の問屋なら、国産のほぼ全ての合成皮革が購入できるでしょう。それはポリエステルでも、ABSでも、ポリエチレンでも同じです。
中国には、この問屋という業態が無いので、仕入れは製造元から個別に直接購入する事になります。といっても、製造元は中国全土にばらばらに存在します。
ただ、そうした地方の工場に出向くのは買う方にとっても大変です。
そこで、そうした地方の工場は上海に小売店とかショールームを出しています。
同じタイプの店ばかりが集まった小売店が集合した~~街みたいなエリアが上海には沢山あります。
消火器ばっかり売っているエリアとか、ペット用品ばっかり売っているエリアとか、椅子ばっかり売っているとか。といっても、日本でイメージするそれとは違って、基本的には各小売店は、ある特定の工場の製品のみ扱っています。
こうしたエリアに自ら出向き、今回製造する製品に使用する原材料を探します。
この原料探索作業は本当に大変で、この手助けのために社員さんに1人動向してもらいました。さらに日系の商社の人2名も一緒。商社の人は原材料の質の判断なんかは一切できませんが、支払い、納期、輸送なんかの交渉を御願いする事になります。
ちなみにこちらは商談に使ったランチの中華料理のお店。
いわゆるローカルの店、すなわち、中国人向けの店です。
中国人の会社経営者なんかが商用で使う店ですが、日本人向けと比べると価格は1/5。ただ、写真を見てもらってもわかりますが、いきなりテーブルに汁がこぼれてます。レストランでこんな状態でも全然平気。そしてこの生のエビを酒につけた料理(写真左側)日本人が食べるとまず間違いなくお腹ぶっこわれます。
さて、およそ半日かけて原材料を売っている店が見つかり、その店の親である工場から原料一式を製造現場である上の写真の工場へ輸送してもらう手続きを終えました。幸いにも在庫がふんだんにある原料だったので、私の滞在期間中に工場への搬入ができました。

上は印刷に使った版の保存場。基本的に野ざらしです。
そもそも、シャッターとか扉といった物が無いのが写真から分かるでしょうか。
柱、壁が三方向かニ方向、そして天井です。床は土ですし、扉はありません。

これは加熱用の釜。
燃料は石炭です。
中庭に石炭が野積みしてあって、それを運び込んで燃やしています。
この工場の倉庫に、今回の製造に使う原材料一式を搬入しました。
これで、サンプル製作に取り掛かる事ができます。
仕様書とデータ類は事前に渡してあったので、ここから製作開始。
上海が始めての社員さんは観光に行き、私はクラブの女の子と遊びに行きました。
結局滞在期間中にはサンプル作成は間に合わなかったものの、日本への帰国翌日には製品サンプルが届いて一安心。
エンドユーザーになる某地方公共団体にチェックを受けて、大量生産に入りました。
この仕事は納期は90日ほどあり、初回生産ロットは30日ほどで上がってきました。
全量のおよそ1/3の量が届きましたが、このクオリティが非常に低い!
歩留まりは25%ほど。すなわち75%は不良品でした。
中国で完成品にして遅らせた製品でしたが、この75%の不良品の内訳は、半分ほどは仕様書の指定を守っておらず、日本で加工しなおしても製品化できないレベルの不良品でした。
これまでこの工場の製品でこうした事は無かったので、びっくりして商社に連絡。これまでは歩留まり90%ほどはあった事、初回ロットの日本での検品結果から、どこを直す必要があるのかを指示し、二回目以降はこの指示を完全に守らせる事を厳命しました。
さてそこから、全く製品が上がって来なくなりました。
およそ5日ほど、納期にサバを読んでいたのですが、もう中国から発送していなければならないという日になっても、音沙汰無し。
「おはようございます。どういった状況でしょうか?」
「業者に9時の約束で 確認取ってるので もうしばしお待ちください 中国時間の9時です」
「今もう上海、AM9時ですね」
「はい 電話が来ることになっており 9時3分に催促の電話をしました」
「そもそも製品が出来ているのか まずはそれを最優先で知りたいです」
「もちろんです 同じ気持です。」
「今日、日本に着ける事が可能かどうか、それも検討して下さい」
「はい わかっております。」
「今日、大阪空港まで車で伺う事は可能です」
「ありがとうございます。もう少々お電話 お待ちください」
「はい、お待ちします」
「しびれを切らして電話していますが ずっと担当者が電話中です」
「今日のスケジュールですが、工場と連絡がついてから製品を取りに行くのですか? 現在、工場には商社の方は誰もいません?」
「これ、今日の飛行機で一緒に乗ってきてもらう場合、タイムリミットが近いんじゃないですか?」
「 はい
だから ものすごくあせってるのです
すみません
現状
報告来ました
製品できていません」
後々の証拠のためにやり取りを全て記録してあります。
結果
納期には間に合いませんでした。
一体何が起こっていたかはその日の午後に分かりました。
上記の工場(今はもうありません)は、
私の会社が原料を工場内の倉庫に搬入して、その場で製品サンプル製造まで行ったにも関わらず、私の帰国後にその材料を全て下請けの会社に運び、そこで製造させていたのです。
その結果が初期生産ロットの品質の悪さでした。
そして、その検品結果の指示書に従ってやり直しを繰り返し、原材料が不足してしまった。私の会社からの支給の材料だったため、原材料を追加で購入する事ができず、それ以上の生産が出来なくなり、
納期まで放置した。
そこから、その工場での製造を諦め、日本の工場で5日間で全量を製作する事に決めました。そのコストは全額中国工場に負担させる事を約束させて、即座に東京の工場で製造開始。納期には全量、日本製の製品を納品できました。
このお金の回収にはそれから約7ヶ月が必要になるのです……。
*この工場はもう無くなりました