今回は、私の記事を読んでいてくれる貴重な方々に、隠れた世界をお伝えしたくリバイバルで過去の記事をサルベージさせて頂きました。
お時間の許す限り、CHAN YOKO WORLDを堪能して頂けたら幸いです。
そう、これは限られた者だけが知りえる情熱の国が送り出した、たった一台の自動車のよもやま話・・・。
世界中には、数多の自動車が存在する。
その数ある中から1台の旧いイタリアの自動車を、その中でもFIAT BARTHを、そして更にセイチェントベースのTC CORSAに興味が出てしまい所有したくなったとしたら・・・。
そんな奇遇稀な事が起きてしまった時の為に、ショートガイド書いてみた。
とは言う物の、こう言った類のイタリア車には、プロ・アマチュア問わず研究家がいる物である。私などが、ロクな知識もなく知ったかぶりをすると痛い目を見るのは、火を見るより明らかで、特に歴史的背景の事など言うに及ばず、恥かきの称号を頂く事になるだろう。そこで、余り日本の雑誌でも紹介しないような部分に的を絞って書いて行きたいと思う。
FIAT ABARTH 850-1000TC CORSAは皆さんも知っての通りレースカーである。850TCSer.Ⅰ時代ではベルリーナと呼ばれる、特にレース専用と言う訳ではない車両だった。だが、開発当初よりストリートとレースの両方を念頭に入れて結果を出す事を前提とした車づくりであった。750時代より培われたチューニング技術を余すところなく取り入れ、更なる改良も進められ、1960のデビュー当時より既にフロントディスクブレーキを採用するなど、このクラスの車両では中々例を見ない存在であったはずである。1960~1962当時までは、ヒルクライムなどの公道レースに多く出場していたTCだが、1963辺りからヨーロッパ各地のサーキットで開催される、ツーリングカーレースにアバルトワークスとして出場する様になって行くのである。その頃より850と1000との2クラス体制になった。1964と1965の過渡期を経て、いよいよ1966にアバルトはTCにベルリーナと呼ばれるストラダーレを販売しなくなるのである。その年よりTCはFIAT ABARTH 850TC CORSA.FIAT ABARTH 1000TC CORSAになり、全てレーシングカーになる。
それはもう怒涛の勢いで、ワークス・セミワークス問わず色々なレースに出場して行くのである。
Chanpionato Italiano 1966
ⅡCoppa Epifania.Vallelunga,
Coppa Fisa.Monza,
La 4 Ore del lJolly Club.Monza,
Governor's Cup 4 Ore Turismo.Sebring,
ⅩⅩⅩⅡCoppa Gallenga.Roma,
ⅨCoppa Primavera.Amalfi,
ⅡCoppa A.C. Bologna.Imola,
Easter Races.Goodwood,
Coppa Turismo Primavere.Vallelunga,
ⅨStallavena-Boscochiesanuova.Verona,・・・etc
1966に出場したレースを書きとめようと思ったのだが、余りにも多く途中で断念させて頂いた。
実に103戦ものヨーロッパ各地におけるレースに出場していたのである。(850TC及び1000TCのすべてが参戦した数)如何に当時各地でレースが開催されていたのか良く分るものではあるが、ここまでTC CORSAが出場していたと言う事は、やはりそれなりの結果を過去もたらした証拠でもあろう。
さて、そんな1966のTC CORSAをしかも1000TC CORSAをクローズアップして行きたい。
私は、過去850TC CORSAなら2台ほど実物見て、1台には乗った事がある。だが、1000TC CORSAと言うのは、実車を見た事がない。非常に数の少ない特に出荷時のノーマルタイプのヘッド搭載車は世界でも稀な存在では無いかと思う。それは何故か・・・この後ABARTHは、ツインキャブ用ヘッド通称テスタラディアーレを開発する。これは、既存の車両にも取り付けが可能で、アバルトもそれを供給した。各チームもこのヘッドを採用し車体はそのままで参戦して行った。即ち車体はそのままで、所謂TCRになって行ったのである。勿論、フェンダーやリアのアーム類も供給をした。それがアバルトがデリバリーしたTCRよりも後にTCRが増えてしまった理由である。生粋のTCRはリアはマルチリンク(4リンク)式になっており全くの別物と言っても過言ではない。話がそれてしまったが、それほどTC CORSAは、しかも1000は貴重な物ではないかと私は考えている。
それでは、そんな貴重な1000TC CORSAを手に入れるのだとしたら、一体どこを確認したら良いのであろう。ABARTHの現存する車両は、もはやデリバリー当時の姿を残している物は、ほんの一握りであるはずで、とても危険な言葉ではあるが、美術館に所蔵されているような物でもそれは例外ではない。世の研究熱心なマニアの方々は、どれだけABARTHのパーツが付いているかで、その車体をABARTHとして認めると言う風潮がある。だが、これはレースカーである。ごく一部の例外を除いて、レースに出場して、クラッシュも経験する様な車両である。レースに勝つためには、改良も進めて行くに違いない。
文章を書いている私でさえ吐き気がしてくるようなこの謎を、分り易い部分だけでも迫って行きたいと思う。
まずは、誰しもが見るエンジンルームを覗いて行こう。
これは~1965 850TC CORSAのエンジンルームである。
注意する部分はこの年はまだ、ラジエーターがリアにもあったと言う事と大事な部分はインテークマニホールドである。丸みを帯びた物が付いているのが分る。CORSAである為キャブレターはWeber 36DCD7。
そしてこれが1966 1000TC CORSAのエンジンルームである。
ラジエータが廃され替わりにウォーターキャッチタンクが備わる。インテークマニホールドが角ばった大きな物になったのが分る。このインテークマニホールドには冷却水が循環され長くて気化し辛い混合気を温める構造になっている。勿論吸気ポートも大径化されている。こちらもキャブレターは勿論Weber 36DCD7。
インテークマニホールド拡大写真。
写真中央の物がTC CORSA用。
ピストン。
ピストンは右下の形状の物がTC CORSAで使われている物だと思う。上中心の非常に尖ったピストンはTCRの物である。
そしてギアボックス。
TC CORSAと名の付く物にはほぼ例外なく5速ギアが搭載されていた。
そのギアの組み合わせは夥しい数で、1速ギアは1種、2速は4種、3速は5種、4速も5種、5速は6種にも及ぶ各サーキットを網羅する物で、中にはニュルやルマンなどの高速サーキットに対応しており1000TC CORSAで実に最高速が計算上284km!!にも達する物まで用意されていた。(写真のCVジョイントはTCR用)
勿論の様にL.S.Dも用意されている。
個体にもよるのであろうが、当時より既にCVジョイントを採用されていた。写真上の物が標準?(レースカーに標準もないのでは)の1000TC CORSAの物である。写真下のTCR用だと言われる物もリアアームアップライト等を変更されていれば、勿論取り付くので、個体によっては付いている物もあるであろう。
フロントロアーアーム。
これはペンドラーレと呼ばれるロアーアームで、クロスメンバーとAアームを一体化させたTC CORSAで有名な説明不要パーツ。とは言え、標準型TCでは横置きリーフスプリングである。
TC CORSAのブレーキ。
良い写真が見当たらなかったのでリアは少し違うはずである。写真右がリアだが、ハンドブレーキ用のキャリパーは、リアキャリパーに取り付く構造になっているはずなので、参考までに。キャリパー自体はガーリング製で前後とも3Pot(外側2内側1)である。後述のパーツリストを確認。(リアディスクローターのベルハウジング部分の軽め穴に注目)
クーリング関係。
写真は色々出てはいるが、ABARTHによって作られた物は真鍮製である。フロントノーズを正面より見て右側(車体左側)に小さな丸穴が開いている、その部分にエア抜きのコックが取り付けられているので、その部分を確認すると真鍮か判断しやすい。
ウォーターキャッチタンクは左上の物が付く。
これはオイルキャッチタンクとタワーの上部。
写真には無いが赤い筒が右側にあるはずである、それが外環式オイルフィルター。
この部品自体はABARTH用と言う訳でもなく、ランチャなどにも採用されている。
車内に目を移して行こう。
シフトの前にニーグリップパッドの様な物が付く。
写真はオリジナルではないが注目してほしいのがアクセルペダル。しゃもじの様な形をしている。勿論これもTC CORSAなどに付く物。あくまでも形だけを覚えておくと良い。
シートはこの様な物が正しい。
そしてこれは、中々気付かない物だがリアシート前のフロアにある5速ギアボックスのサービスホールのカバーである。こんな物までABARTH。
ざっとではあるが、分り易い部分について説明して行った。ABARTHに関しては、SNSに私の様な者が、書いていい物か非常に悩んだ。全てが合っていると自信を持って言えるわけでもないし、正確なデーターであるかも分らない。きっと「これ間違ってるじゃねーか!」となる方もいらっしゃるはずで、緊張は未だに解けない。だが、逆に考えると、間違った知識を修正できる場であるかも知れない、と思う事もあり私としては良しとした。
最後にFIAペーパーとパーツリストを見づらいが掲載して終わりにしよう。
***あとがき***
如何でしたでしょうか、興味もない方々にとっては、楽しさも何もなく、読み物としてもまるで新聞を読み流すようなものに違いありません。
ですが、素晴らしい自動車と言う物は、世界各地に数えきれないほど過去ありました。
そんな中で、唯一一台に的を絞ったこの拙い文章が元で、新たな趣味を開花させる事が出来たなら私は幸いです。
文と写真CHAN YOKO
尚以下による
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THE ORIGINAL ABARTH GUID Compiled and written by Alfred S. Cosentino
ABARTH Catalogue' 1949-1986 AUTO MOBILIA
ABARTH 850TC e 1000 GIORGIO NADA EDITORE
ABARTH gold portfolio 1950-1971 BROOKLANDS BOOKS
BERNI MOTORI 1998
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