この時期 アイスバーンをそろりそろりと走行していると
思い出されることがある
時を遡ること24年前
平成2年1月22日の夜の出来事だった
何故に我は正確に日時を覚えておるか
社会人初年度に迎えた初めての誕生日の夜だったからである
仙台市内にて友人に楽しく祝ってもらい その帰り道のことじゃった
おりしも気温は氷点下
道路をスケートでもできそうな テロテロのアイスバーンだったのだ
当時は まだスパイクタイヤから スタッドレスタイヤに移行したてで
現在のスタッドレスタイヤのように高性能ではなかった
現在履いているMICHELIN X-ICE XI3のように進化したモデルではない
それはそれは 当時のスタッドレスタイヤは心もとなかったのだ
今夜の路面は危険だ 本能的に感じた
タクシーもグンとスピードを落としておるのに気付き 我も震えがきた
こんな時にカーブでブレーキなんぞ踏んだら スピンするかもしれぬ
そうなったらハンドルが利かない 終わりなのだ
一緒に誕生日を祝った
我と同じ年月日に生まれた女友達は無事に帰宅できただろうか
危ないからと注意喚起はしたが 心配であった
我とても 恐くてブレーキを踏めない状況なのだ
制動はエンジンブレーキで減速しないとカーブでは滑るぞ
などと考えつつ 広瀬川にかかる愛宕橋を渡り
南側の左カーブを通り過ぎたところで
なんと クルマが一台無残に潰れておるではないか
!!! なんということだ 我は息を呑んだ
車道に停まっておる フロントは潰れておる 自爆したか?
回りに人気はないのだ 我が第一発見者のようだ
なんと無残な潰れ方だ 運転手の生死は?
すぐさま 確かめねば…
あまりのことに胸が苦しい
とっさに我は 初代流星号 ランサーGSRを路肩に停め
状況確認へ向かった
コンパクトカーだ 前席に 綺麗なお姉さん2名を確認 二十歳前か二十代
閉眼持続し 呼吸はしておる が… 明らかに負傷しておる
運転席のお姉さんはなんとか意識はあるようだが
息も絶え絶えだ 刺激を入力しないと開眼しない 苦しいのだろう
一方 助手席のお姉さんは失神若しくは傾眠状態に近い模様
頭を打ったか JCS 二桁 動かすのは危険と判断した
二人とも体温が低下しておる バイタルは頻脈気味だ 唇の色が悪い チアノーゼ+
出血はあっても そちらは 命に別状ないレベルとみた
しかし 体内はどうか わからんのだ なんせクルマがこれだけ潰れておるのだ
運転手に確認すると 救急車は呼んだとのことだが
返答が いまひとつはっきりせぬ 意識混濁が生じているか
当時 すでに巨大な携帯電話は普及しておったのだ
通りすがりのタクシーが
『バカ野郎!こんなところに停めやがって!事故が起きたらどうするんだ!』と
我らに 罵声を浴びせ通り過ぎて行く いや すでに事故は起きているのだ
一緒に救助にあたってくれれば良いのだが…と思いつつ
確かにここへこのままはマズイのだ 追突される危険性がある
至急 動かさねば 二次災害は避けねば…
誕生パーティー帰りのウキウキ感などは とっくに消し飛んでおった
まず事故車を動かし追突を防ぎ 安全確保 次に通報だ
やることが決まった
まずは 運転手のお姉さんを流星号に移した 我の服を被せ暖房の出力を上げる
次に事故車を路肩に移動し 三角表示を設置した これで追突は免れよう
助手席のお姉さんのシートを倒し 私の服を被せて体温の低下を防ぐ
ふと後部座席で潰れているケーキが視界に入った 胸がずきりと痛んだ
このお二人もお祝いごとの帰り道であったか…
ご家族ご友人が知ったらどんなに心配することか
でも なんとしても 助けるからのぅ それまで我慢するのだぞ
安全確保ができたので 警察に通報 詳細な場所と大まかな容体について伝える
早く救急車を回してくれるように重ねて頼んだ
これで打てる手は打ったのだ 待ちの時間に入った 今夜はやたらに冷え込むな
クルマから出て 救急車が来ないか度々確かめながら
二人の負傷者の容体を確認する
あちこちで事故が発生しておるのか
なかなか警察も救急車も来ないものだ
ぐったりしていくお二人を励ましながら
我も内心気が気ではなかった
遅い…早く来ぬか…容体が心配なのだ
一分一秒が惜しい
待つこと40分ほども経過したろうか
実際には30分くらいかもしれないが
我にはとてつもなく長く感じられた
そして ようやく サイレンの音が遠くから接近してきた
この時ほど この音が頼もしく感じられたことは かつてなかったのだ
ようやく救急隊員が到着
よかった。 身体から力が抜けていった…
駆けつけてくれた救急隊員に状況を説明する
警察も来てくれた 警察官は開口一番
『それで 貴方がぶつけた相手なのかい?』
? 通りすがりの我の通報内容を聞いておらんのか?
言うに事欠いて 我がぶつけた相手だと?
口の聞き方をこれから存分に学ぶがよいぞ 宮城県警よ
とにかくすぐにお二人を病院に搬送して欲しかったので
我はぐっとこらえて『 いえ 私は通りすがりのものです 』と返答した
その一言でどうやら 失言に気付いたようだ 『 失礼しました 』とのこと
わかればよいのだ
救急車に運ばれていくお二人を見送りながら
入院は免れないだろうが 早期に回復してくれることを切に願った
すると 意識のある方のお姉さんが我を呼びとめ 名前を訪ねてきたのだ
さて どうしたものか
『 名乗るほどの者ではありませんよ では 早く 元気になって下さいね 』と
我は名乗らなかったのだ
お姉さんは 『そんな…それでは 』と驚いた様子だったが
そのまま 搬送されて行った
後日 一緒に誕生日を祝った 連れからは
バカじゃないのナメタちゃん
それじゃ相手は お礼がしたくてもできないじゃないの
何をカッコつけてるの(怒) とたしなめられた
家族にも話したら 名前を告げなかったことで 非難轟々であった
このバカ者と言われたものなのだ
その後 ラジオ番組や 地元のテレビ番組で
お礼をしたいので我を探しているというメッセージが流れてきたと
周囲から知らされた
それでも 結局 我は 名乗り出なかった
我は 人として やるべきことをやっただけなのだ だから 名乗り出なかった
男の美学なのだ
しかし あれから四半世紀が経過し
齢を重ねた今では 誤りだったかもと感じておる
救助された お姉さんお二人が回復されたのは 望ましい限りなのだ
でも あのお二人は 元気になった姿を我に見て欲しかったのかも知れぬ
そして お礼を述べたかったのであろうか それが心残りだったか…
若き日の我は 名乗ることが見返りを求めるように感じてイヤであったのだろう
しかし そんな我のワガママで 相手に気を遣わせてしまったのであれば
素直に名乗っておけば よかったの…と思われる今日この頃である
こうして公に伝えるのは 初めてのことなのだ
もしかして この記事が幸せに暮らしておられるだろうお二人の目に留まることも
あればよいなとちょっぴり期待しつつ 掲載することにしたのだ
どうぞ お二人が元気に過ごしていて下さいますように!(^^)!
初代流星号
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