「しまった!」
予想はしていたが、寝坊をしてしまった。
取り急ぎ準備をして、現場に向おうとすると、リビングのテーブルに一通の手紙が。
「洗濯物を干して置いてください。妻」
こんなときに限って家の用事を押し付けられる。
仕方ない共働きでどちらかが休みの日は家のことをするのが当たり前だ。
「だからといってこんな日に…」
思わず口に出てしまった言葉に辺りを見回した。
妻がいたら気まずい空気になるからだ。
とりあえず家の事を済ませ、現場に向うことにした。
少し時間がずれると人が溢れかえる通勤路。
人ごみを抜け、現場に着くと、突然人の気配が消えた。
そう、ココは通勤時間でも人通りが少なかったのだ。
そして、目的の駐車場近くに近づいたとき、聞き覚えのある声がした。
そっと覗いてみると、なんとそこにいたのは剣持警部。
携帯で誰かと会話をしているらしい、
今ならばれずに先に進むことができるだろうと踏んで、
素知らぬ顔で横を通り抜けた。
普段着だし、髪型も少し変えていたのでばれずにその場を凌げた。
事件にかかわる自分物でもある本人が
こんなところに朝からいると怪しいので
できるだけ事件に関わる人物とは
会わないようにと通勤時間を選んだのだ。
なのにどうして剣持警部がこんな時間に
しかも仕事中も私服だから仕事なのか私用なのか?
気になるものの今は自分の用事を先に済ませようと
駐車場の敷地内に入ろうとしたとき、
駐車場奥の道路脇から飯田夏美が現れた。
前回会ったときとは違い私服だ。
帰宅するのかと思いきや駐車場に向っている。
まだこちらには気づいていないが、
このままではこちらと出くわしてしまう。
特別あってはいけない人物ではないが、
こんなところであってしまうと何かと後が面倒だ。
只野は急ぎ隠れる場所へ
「いつから逃げる立場になったのだ?」
自分の行動がますます怪しくなっているのは
気づいているもののどうもタイミング悪いようだ。
物陰に隠れていると、飯田夏美が駐車場敷地内に入ってきた。
「車で来ているのか?それともこの辺りに住んでいたのか?」
しばらく様子を見ていると、どうも行動が怪しい。
何かを探しているような動きだ。
少しした後、遠くから剣持警部の声が近づいてきた。
まだ電話をしているのだろうか、明らかにこちらに向かってくる声の大きさだ。
「また敷地内に会いたくない人物が増える。」
このままここにいることがばれるとますます怪しい立場になってしまう。
と、飯田夏美も剣持の声に気づいたのかどこかに隠れようとする。
だが、隠れる場所が見つからないせいか辺りをキョロキョロするだけだ。
するとこちらの物置き場に気づき飯田夏美がこちらに向ってきた。
「げ!まずい!まずすぎるこの状況!」
だが、只野はココから身動きが取れない状態になっていた。
隠れていた場所にあったホウキが、
倒れ掛かっていたのをずっと支えていたのである。
今コレを動かすと不自然な動きになり、
最悪剣持警部にまでばれてしまう。
すると飯田夏美が物置の裏にたどり着いた。
当然、只野と目が合い驚いたと同じに声を出そうとする。
だが、飯田夏美の口を只野はホウキを持っている反対の手でとっさに押さえた。
「しーっ!静かに!今はとりあえず隠れていよう。」
飯田夏美も空気を読んだのか
とりあえず黙り只野と向かい合った状態で物置の裏に隠れることにした。
剣持警部は辺りを見回しながら携帯電話越しの相手とまだ会話が続いている。
「大丈夫だ!今は誰もいない。で、どこにあるんだね?例のものは?
アレにたどり着くまでが大変だったよ。
早く例のものを私にくれないか!ここで待っているからな!」
少し苛立った口調で話していた電話を切り、
剣持警部も駐車場敷地内に滞在することがわかった。
只野は様子を見て隙があるならとりあえずこの場から離れようと考えたが。。。
「最悪だな…」
どうゆうことなのか飯田夏美が寝ている。
「こんな状況でありえないだろ。」
向かい合った状態で立っていたので只野に抱き付く形で眠っていたのだ。
どうしようもない格好になってしまったので、
しぶしぶばれない限り待機しようと決断した。
当たり前だがココまで接近した状態で
飯田夏美を見たことがなかったのでいろいろと気づかされることがあった。
意外に背が高かったり、思ったよりスタイルはよかったのだが、
少し胸を強調するような、ラインの出る服を着ている。
それと少し香水くさいことに気づいた。
背が高く見えるのはヒールのせいではなく単純に背が高いのだ。
「もう少し年が若ければ、今時のモデル風だな?
それにしても。。。本当は、胸がないんだな。」
ほしのあきに3割にだったけど、今では2割5部だ!
「減った5部が胸とかそんなんじゃないけど?」
誰に言い訳しているのかわからないが、
そんなことを頭の中で考えていると、飯田夏美が目を覚ました。
自分が眠ってしまったことに気づき小さな声で
「すみません、私ついうっかり。。。」
10分程度寝ていただけだが、いろいろ気づけたこともありなぜか満足していた。
そうこうしていると、また誰かがやってきた。
少し強面のがたいのいい男だ。
どうやら剣持警部と話をしていた相手のようだ。
「コレが例の金だ。」
剣持警部が白い封筒に入ったものを渡す。
中身を見るまもなく強面の男は、茶色い封筒のものを剣持警部に渡す。
「ちゃんと入っているんだろうな?」強面の男が聞き出すと。
「気になるなら数えればいい20枚くらいあっという間だろう。」
剣持警部は今までにないにやけ顔で強面の男と話をしている
「残りの80枚も後で頼むぜ!」結局中身は数えずに
強面の男がすぐに駐車場敷地内から出て行った。
その後を追うように剣持警部も出て行く。
只野はなんとなくだが、今回の事件と関係が有るんじゃないのか?と疑いぶった。
すると今度は、≪55分の男≫が現れた。
誰かが隣にいる。大きなしゃべり声で女性だとは解った。
「トオルゥ~この前の鞄買ってよ~」
少し頭が弱そうな印象を持たせる女性が≪55分の男≫に向って
トオルと呼んでいる。どうやら名前はトオルらしい。
「あぁもう少し待ってなこの前の事件の保険が
降りるからその金で≪エミリ≫に買ってやるさ。
ふっ!それにしてもうまくいったな。
おっと…あまり関係ない話はしないようにしよう。」
途中で会話を止められたがかなりの情報量は手に入ったと確信した只野。
しかしこれも事件と関係があるのか?少し解らなくなってしまった。
悩んでいるとあのトオルという男は助手席に女性を乗せて出て行ってしまった。
≪シルビア≫
「おかしい。。。なぜシルビアが今動ける?
ガラスが取られていたのはもう直ったのか?」
今はすぐに思い出せないが何かすごいものを見落としていることには気づいた。
ようやく誰もいなくなったので、
とりあえず飯田夏美に抱きついているのを止めてもらった。
そして素直にここは聞いておこうと。
「何かココで探しものをしていたよね?」
ストレートに聞き出しすぎたのか、飯田夏美が少し戸惑う。
だが、観念したのか話し出す。
「実はこの辺りでお金を落としてしまって…」モジモジしながら言う彼女に只野は
「小銭?いくらぐらい落としたの?
それなら隠れなくてもよかったのでは?一緒に探すよ。」
モジモジしていた姿のせいもあったのか、
大金ではなく小銭程度だと勘違いしてしまった。
「小銭じゃないんです。ちょっと大金でして…
その…金額も100万…ほど…なくしたというかこれから拾うというか…」
何を言っているのかさっぱりわからず頭の中にはまさに「…」だった。
「これからってどういうこと?」
「実は。。。」
飯田夏美が話をしようとしたその時
後ろから突如声がした!なんと剣持警部だ!
「やはりな!途中、飯田夏美を見失ったのはこの辺りだったからな。
それに只野!お前もな!」
なぜ自分まで呼ばれたのか、そもそも剣持警部は何しにここにいるのか。。
何が何やら、理解ができないまま、剣持警部は二人の前に歩いてきた。
不敵な笑みで。。。
先ほど強面の男と会っていたときのような裏のあるような顔つきだ。
するとそこにさっき出かけたはずの55分の男トオルが≪シルビア≫に乗って戻ってきた。
トオルは3人に気づかないまま駐車場に止め車から降りこちらに向ってくる。
トオルが剣持警部に気づいたとき、「あっ!」と女性と二人で立ち止まった。
剣持警部も少し驚いた顔はしたが、すぐにニヤリとした顔をした。
女性も一緒に立ち止まっていたのでよく見てみると、
なんと、昨日ドーナツを買ったところの店員だった。
その洋菓子屋のエミリがこちらに気づく。
だが、昨日と打って変わって冷たい顔つきだ。
隠し事がバレた時のような気まずい顔にも見えるがこの際どうでもいい
偶然が偶然を呼び合い、今ここには事件にかかわる人間が集まっている。
皆々が思っているこの中に犯人がいる。
その人物を合わせ全員が揃ったということだ。
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只野のメモ:
ココから先、急展開があり犯人がわかります。
さて今回の犯人は。。。
ポイント
1.事件のあった午前中シルビアのフロントガラスがなかったように見えた。
2.帰宅中、只野はシルビアに近づいた際、何者かに襲われ気を失っている。
3.シルビアはフロントガラスを取られ車内にあった現金が盗まれている。
4.只野が来た時間8時半からトオルが戻ってくる時間はおよそ20分。
5.トオルが戻ってきた頃には、只野はすでにいない。
6.8時半過ぎに飯田夏美が只野を保護している。
7.剣持警部は強面の男と取引をしている。
8.飯田夏美は現金を探していた。
9.トオルのシルビアの様子がおかしい
10.助手席に乗っていたエミリは意外に冷徹だ。
11.只野は普段からお金に困っていた。
12.駐車場から病院まで徒歩で5分かかる
13.駐車場は朝でも暗い
今回の事件は単独ではなく、二人の人間による犯行の可能性がある。
以上が只野が考えた犯人発覚までのポイントだ
