2013年09月20日
車のお話、今日は「曲がる」に触れてみます。
最初にお断りしますが、車が曲がるためには、動く、つまりは走ることが必要です。
理論については、推進力とタイヤの摩擦力と遠心力の関係になり、説明が面倒なので、省略します。
推進力である走ることについては、別に触れたいと思いますが、曲がるについては、ある程度の速度が前提であることを理解しておいてください。
曲がるについては、専門的にはステア特性というものがありまして、曲がっている状態で速度をあげると、更にステアリング(ハンドルのこと)を切ってやらないとふくれていくのがアンダーステア、逆に戻してやらないと内側に向いていくのがオーバーステアといいます。
アンダーからオーバーへあるいはその逆に変化するのをリバースステアといいます。
市販の車の場合、安全面を考慮して、ほぼ100%の車がアンダーステアになるように設計されています。
と書くと、味も素っ気も無いのですが、実際は1台1台味が違います。
私が最初に運転したのは、通称箱スカと呼ばれている日産スカイライン2000GTXでしたが、この車、パワーステアリングもなにもなく、しかもフロントに重い6気筒のエンジン(L20型というとにかくタフなエンジンでした。)を積んでいたこともあってか、ステアリング自体も重いこと重いこと、その上クラッチもアクセルも重く、運転しているだけで、いいトレーニングになりました。
特性もかなり強いアンダーステアで、当時レースで活躍していた(生沢徹がドライバーで、式場壮吉のポルシェとの一騎打ちで最後まで好勝負を繰り広げたレースが有名。)こともあって、イメージ的にはスポーティーだったかも知れませんが、実際は決してスポーティーな車ではありませんでした。
しかし、アンダーステアながら、カーブでスピードを上げても粘り腰で相当なスピードまで何とかなるのが美点でした。
当時このスカイラインを運転しているとよく絡んできたのがトヨタのセリカで、こちらはDOHCエンジンの名器18RGUを積んでいました。
一度パーツショップでオーディオを取り付け中のこのセリカを運転させてもらったことがありましたが、全てが軽く、ステアリングも軽く切れてよく曲がりますし、エンジンも軽く吹き上がりますし、この車が私の鈍重なスカイラインに負けることが信じられませんでした。
次に乗ったのは、同じスカイラインの2000GTXES(通称ケンメリS)で、この車はレーシングカーのGTRと同じサスペンションをおごった、知る人ぞ知る名車でした。
40年近く前の車ながら、非力な2000CCエンジンに対して圧倒的に性能の高いサスペンションの組み合わせでしたから、曲がることに対してこれほど安全な車は、現在でも余り無いと思います。
この車で、京都市内の北白川から綾部近くの実家までの75キロの公道を、50分で走る無謀としかいえないことをしたのですが、周山街道のワインディングロードのカーブに60キロオーバーの速度で不安なく突入し、かつそこからカーブの曲率に応じて更に加速することまでできたのですから、曲がることに関しては本当に素晴らしい車でした。
このケンメリSが大変安全な車であったのに対し、当時はなばなしくデビューしたマツダのRX7は、危険と背中合わせの面白さを持った車でした。
中年暴走族の母が、面白がって買ったのですが、私は周山街道を運転してみて、感心するとともに恐怖も覚えました。
この車、ステア特性からいうと、アンダーでもオーバーでもないニュートラルといわれるもので、アクセルを踏んで前進している限り、タイヤの限界までステアリングを切ったら切っただけ曲がる車だったのです。
これで、スカイラインのように非力なら安全な車だったと思うのですが、積んでいた12A型ロータリーエンジンはパワフルで、思わぬスピードが出たのです。
普通の車なら、カーブ手前で十分減速し、アクセルを踏みながらカーブを曲がっていく限り、それほど動きが破綻することはないのですが、この車に限っては、十分減速してからでも、カーブに進入してアクセルを踏んでいくと、加速してオーバースピードになったのです。
そこで初心者は、慌ててアクセルを戻します。
すると、この車のステア特性が牙をむくのです。
急激にステア特性がオーバーに変化し、車が内側を向き、ひどいとスピンしたのです。
私は、当時免許取って2年ながらも既に走行5万キロ近いベテランで、逆ハンを切ってドリフト状態でコントロールすることができましたから、危険な反面何と面白い車だとも思えましたが、初心者に運転させたらカー・オブ・ザ・事故になるなとも確信しました。
実話ですが、大阪のマツダの販売店で、このRX7に試乗した客が、万博記念公園の周回路に流入するカーブで、上り坂だから大丈夫と思ってアクセル踏んだらオーバースピードになり、慌ててアクセル戻したらものの見事にオーバーステアになり、内側のガードレールに突っ込んだことがあったのです。
実際、評判はよかったものの大変事故が多かったことも事実で、モデルチェンジの時にステアリング特性を大分マイルドに修正していました。
私は、母と免許取立ての妹に、この車は私のスカイラインと違って非常に危険な面があるから、運転する際には十分注意するように念を押しました。
すると母、「よくわかったわね。私カーブで1回転したわ。」とこともなげに笑っていましたが、彼女はT型フォードで練習し、女性ドライバーが大変珍しい昔から運転していたベテランだったため、経験と勘で何とかなっていたのです。
しかし、兄のいうことには反発する妹、私が注意した3ヵ月後、カーブで対向車線に突っ込んで死にかけました。(実は、前述の京都から実家までスカイラインで50分で帰ったのは、この事故の時だったのです。)
つぶれた車を見たら、よく生きていたなあと思いましたが、疑問に思ったので、病院で妹に付き添っていた時に確かめました。
「現場は上り坂だったし、ハンドルさえ切り続けていたら曲がれたはずではないか。それから、骨盤にひびが入るほどの重傷だし、フロントガラスも運転席側のガラスも割れているのに、何故顔には傷一つないんだ。」
答えは恐るべきものでした。
「スリップしかけたから、ハンドルから手を離して、顔に傷がつかないように顔を隠したの。」
命よりも顔が大切なのが女心なのでしょうか。
しかも、対向車の運転手にも怪我をさせておいて、車のせいにしたのです。
車は悪くないし、こんな人間には、運転する資格はないと我が妹ながら思いましたが、さすがにこれで懲りたようで、その後事故ったという話は聞きません。
その後就職して、しばらくは車を持たない生活を送っていましたが、自分の稼ぎで最初に手に入れた車はホンダのシティでした。
この車大変非力で、スピードが出ませんでしたから安全でしたが、下り坂では結構踏ん張って面白い車でした。
何といっても印象深かったのは、初めて手に入れたベンツの190で、単に試乗しただけで感動したことは、後にも先にもありません。
何に感動したかといえば、国産車とはものが違うとはっきりわかるしっかりしたボディー、絶妙に路面の状況を伝えるとともに、実に自然に切っただけ曲がるステアリング、そっけないながらもかけ心地のよいシートなどで、試乗が終わったあと、思わず言ってしまいました。
「この車凄い。これ買うわ。」
この190、ステアリングの特性及び感触としてはスカイラインのケンメリSに近く、大変安全な特性をもち、かつ無理も利く車でした。
その後、ベンツに乗り続けていますが、しっかりかつしっとりしたステアリングの感触は共通で、気に入っています。(しかし、人間贅沢なもので、最初の感動はありません。)
当時はバブルの頃で、バリバリ働いて稼いで、家庭を省みなかったこともあり、妻の車として、ベンツと平行してBMWの3シリーズも4台乗り続けました。
こちらもよい車でしたが、ステアリング特性はベンツとは大分違っていました。
イメージ的には、ベンツよりもBMWの方がスポーティーですから、シャープなステアリングであるかのように感じている人が多いと思いますが、実際はベンツの方がシャープだったのです。(今のBMWではありません。当時のものでの比較です。今のBMWは、アクティブステアリングという気持ちの悪い?ステアリングで、シャープですが、不自然な感触があり、私は嫌いです。)
相当なスピードまで、弱いアンダーステアを保ち、ベンツよりもステアリングを余計に操作させることで楽しさを演出する面ももっていましたが、限界付近になるとオーバーステアに変化する特性があり、RX7ほどシビアではありませんから、腕が伴えばドリフトさせることもできる車でした。
運転してみると、BMWが運転することの楽しさ、喜びを前面に出しつつ、ドライバーのトレーニングが必要として積極的に教育しているのも必要があるもので、その思想がよくわかりました。
しかしBMW、挙動に敏感なところがあり、楽しい反面疲れる車でもあり、市内限定で運転が好きではない妻も、乗り比べるとベンツの方がいいといいましたし、子供たちも巣立っていったため、ベンツ1台だけにして現在に至っています。
その妻が、本当にいい車ね、とわかるぐらい、現在のE300はいい車なのです。
Posted at 2013/09/20 11:41:49 | |
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