新　書類選考どころか応募資格を有しません

　昔から縁結びの神さまは、出会いを欲するst昼行灯に「焦るな、ちょっと待て」と言い続けてきた。素直なst昼行灯はいう通りに待った。でもただ待っているだけではいけないだろうと本気をみせるつもりで機会があれば色々な地に赴いてみた。だが引きはなく、ホームグラウンドでも10年に一度ぐらいの間隔でしか魅了される姫君との出会いはなく、それも書類選考でさっさと落とされ、オーディションに参加できたのは２人ぐらいしかいなかった。そしてそれもしっかり落とされた。
　st昼行灯はぐずぐずと引き摺る方だ。言い訳すれば出会いの数が少ないので本来移行するはずの新たな対象がいないため、去っていこうとする背中が目立ってしまい、しがみつこうとしてあがくがあっさり振り落とされるの繰り返しであった。いつしか同世代は順調に片付いていって、姫君達とst昼行灯の間はどんどん開いていった。だが残念ながらst昼行灯はそれに気づけないでいた。縁結びの神さまの「後でくるよ」が支えだった。そんなst昼行灯を姫君達は怪訝な表情で、距離を保ってみて、厳しい選考をかけていた。敗れたst昼行灯に縁結びの神さまは相変わらず「ん....まぁ待て」を続けていた。
　st昼行灯の記録装置には5,400を越える音楽が入っている。ジャンルはめちゃくちゃで、st昼行灯には「次に何が出てくるかわからない」のが楽しいが、他の人に聞かせると「なんだこれ」になる。ただやはり和洋共に愛を唄う歌が主流で愛の刹那さや素晴らしさを美しく歌い上げ、それはst昼行灯の憧れであり、慰めでもあった。st昼行灯はそれを聞いて新たな舞台に夢を馳せ立ち直ろうとする。
　最新の落選に同僚は「職場内でそんなことされたら雰囲気が悪くなる。もうその年なんだから配慮してくれ」ときつめに叱ってきた。だが今回のは「応募したいなぁ。でもなぁ....」と思いながら、実は主催者と一緒にオーディションの準備を手伝っていたところ、いつのまにかオーディションはすでに行われていて、他の人に当選が決まったことが主催者から急に発表されて、びっくりして受け止められずパニックになってしまったものであって、叱られるのもちょっと納得いかない。ちょっと喧嘩になり、孤独を獲得して信用を失った。
　st昼行灯はボォーと愛の歌を聴いていた。そしてある違和感に気がついた。愛の美しさを讃えるその歌に憧れや癒しを感じられないのだ。言葉は並んでいるがイメージが付いてこない。言葉は傷ついたst昼行灯の心の穴をそのまま通過していく。いつもだったら付いてきたイメージが膨らみ穴を埋めていくのだが、その手応えがないのだ。
　st昼行灯は書類選考やオーディションでいつも落とされているから本当の愛の美しさ、楽しさ、刺激、後から出てくる問題、それに伴う試練、乗り越えた時の喜びなどをリアルには知らないのである。だからその曲に込められた本当のイメージを思い描けないのだろう。これまでは憧れで埋めていたが今回自分よりずっと年下がリアルを知っているのに自分はまだ憧れ頼りになっていることに気づかされ、いつまでも中学生レベルで動いている愚かさが見えてより大きなショックを受けさせらているのではないだろうか。
　明日から孤独な世界の住人だ。さて今回はどうやって立ち直ればいいのだろうか。次のオーディションには応募できるのだろうか。答えが出るのにはさらに時間がかかりそうだ。その時俺はどうなっているんだろう。