
1986年(昭和61年)12月28日13時25分頃、香住駅より浜坂駅へ回送中の客車列車(DD51形1187号機[100]とお座敷列車「みやび」7両の計8両編成)が日本海からの最大風速約 33 m/s の突風[注釈 6]にあおられ、客車の全車両が台車の一部を残して、橋梁中央部付近より転落した。転落した客車は橋梁の真下にあった水産加工工場と民家を直撃し、工場が全壊、民家が半壊した。回送列車であったため乗客はいなかったが、工場の従業員だった主婦5名と列車に乗務中の車掌1名の計6名が死亡、客車内にいた日本食堂の車内販売員3名と工場の従業員3名の計6名が重傷を負った[102][103]。なお、重量のある機関車が転落を免れたことと、民家の住民が留守だったことで、機関士と民家の住民は無事だった。しかし事故後、機関士の上司は責任を感じて自殺した。
この橋梁からの列車の転落は、橋の完成以来初めての惨事だった。国鉄の記録では、事故の時点で風による脱線は全国で16件あり、そのうち鉄橋からの転落は3件あったが、鉄橋からの転落で死傷者が発生したのは、1899年(明治32年)10月7日に日本鉄道(現在の東北本線)矢板駅 - 野崎駅間箒川橋梁からの客車の転落で20人が死亡45人が負傷した箒川鉄橋列車転落事故以来87年ぶりのことであった[104]。
風速 25 m/s 以上を示す警報装置が事前に2回作動していたが、1回目の警報では指令室が香住駅に問い合わせたところ、風速 20 m/s 前後で異常なしと報告を受けたため、その時間帯に列車がなかったこともあり様子を見ることにした。2回目の警報が作動した際には、列車に停止を指示する特殊信号機を作動させてももう列車を止めるためには間に合わないという理由で、列車を停止させなかった。こうした理由により、突風の吹く鉄橋に列車が進入する結果となった[102]。
事故後、のべ344人の作業員を投入して枕木220本とレール 175 m の取り替えを行い、事故の遺族からの運転再開容認を31日10時30分に取り付けて、15時9分に事故後の最初の列車が鉄橋を通過した[105][106]。
1987年(昭和62年)2月9日に松本嘉司東京大学教授を委員長として「余部事故技術調査委員会」が発足し、国鉄分割民営化後の1988年(昭和63年)2月5日に調査報告書がまとめられた。調査では、橋に取り付けられていた2台の風速計のうち1台が故障しており、もう1台も精度が落ちていたことが判明した。また風速計による警報が出た後に、指令員の判断を介して列車に停止の指示をする仕組みであったことも問題視され、自動的に停止の指示を出せる仕組みにするべきであるとした[105][107]。報告書では当時の最大瞬間風速を 35 - 45 m/s と推定し、車両の転覆限界風速は約 32 m/s であったと推定している[101]。これらにより、車両転覆の直接の原因は転覆限界風速を超える横風によるものと結論づけられた[101]。
一方、当時吹いていた風速 33 m/s では計算上客車が転覆することはなく、また橋の上のレールが風の向きとは逆に海側に曲がっていたことを指摘して、事故の本当の原因は客車に対する直接の風圧ではないとの主張もある。それによれば、昭和40年代の補強工事で縦横の剛性比の考慮を欠いたまま水平方向の部材のみを強化してバランスを崩し、また橋脚の基礎をコンクリートで巻き立てたために主塔の撓み量が減少して、風によるフラッター現象を起こしやすくなっていたとする。そして、当時の強風によりフラッター現象を起こしていた橋に列車が進入した結果、機関車が蛇行動を起こしてレールの歪みを生じ、両端の客車に比べて軽かった中央付近の客車が脱線して、両端の客車を引きずるように転落に至ったのが本当の事故原因であるとしている[108]。この主張は他の書籍などでも紹介されることがある[109]が、指令員の責任を追及した刑事裁判でも、事故の調査報告書でも一切触れられていない[110]。
1988年(昭和63年)5月から運行基準が見直され、風速 20 m/s 以上で香住駅 - 浜坂駅間の列車運行を停止し、バス代行とするよう規制を強化することになった[111]。列車を停止させなかった責任を問われた福知山指令室の指令長および指令員計3名に対しては、1993年(平成5年)、禁固2年から2年6か月の執行猶予付き有罪判決が出され、確定した[112]。
1988年(昭和63年)10月23日に事故現場に慰霊碑が建立された[113]。また事故後毎年12月28日には法要が営まれてきたが、2010年(平成22年)が25回忌の節目となったことと、新橋への切り替えが行われたことから、同年12月28日に遺族会により行われた合同法要が最後となった[114]。
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2016/12/16 10:26:40