
BMWオーナーなら一度はこの地を訪れなければならないと思い、特別な1台の試乗を予約して行ってきました。
当日は週初めに南岸低気圧によってもたらされた大雪の一部がまだ残っており、路面の状態にやや不安を感じながらM6のステアリングを握りましたが、そんな心配をよそにクルマは爽快に駆け抜けてくれます。
現地に到着すると、目の前に広がる光景にここはBMWの聖地ではないかと思いました。
広大な敷地にBMWとBMW Miniがたくさん並んでいます。
試乗車もそうそうたる顔ぶれです。
受付で手続きを済ませると、予約したM760Li xDriveが用意されます。
車両価格はBMWの中では破格ともいえる2,520万円。
標準仕様に違いはありますが、750Liより700万円以上も高額な価格が付けられています。
やはり、V型12気筒エンジンが車両価格に大きく影響しているのでしょうか。
M Performanceだけあって、7シリーズとしてはかなり威圧的な顔立ちに仕上がっています。
スペックもラグジュアリークラスのセダンとしては第一線級です。
最高出力:610ps/5,500rpm
最大トルク:81.6kgm/1,550~5,000rpm
0-100km/h加速:3.7秒
最高速:305km/h (M Driver's Package装着車)
もはや、直線勝負となるとE63M6では道を譲らざるを得ません。
キドニーグリルは電動で開閉するエア・ベントを備えているとのこと。
エンジンやブレーキの冷却のためにエンジン・ルームに外気を取り入れる必要がないとき、エア・ベントを閉じて空気抵抗を減らします。
逆に、エンジンやブレーキの冷却が必要なとき、エア・ベントを開けて空気を取り込み冷却に活用されます。
写真では分かりにくいですが、マットブラックに仕上げられた外装はかなり汚れが目立っています。
ちょっと残念な表情をしたのを読み取ったのか、マットブラックのクリーニングは素人が綺麗に仕上げるのは難しいとの説明をナビゲーターから受けます。
定期的に業者に頼んでいるそうです。
折角のラグジュアリー・セダンなので、オーナーとしてはいつも綺麗にして乗りたいところですが、マイカーとして選ぶならそれなりの覚悟が必要のようです。
リアシートは至れり尽くせり。
ロングボディなので足元のスペースは十分にありますが、助手席を前に倒せば足はゆっくりと延ばせます。
シートにはマッサージ機能も付いていましたが、エアバックのみで揉み玉は付いていないので、凝りがほぐれるというほどではない感じ。
何と運転席にも付いています。
フロントシート用とは別にリアシート用にもサンルーフが付いています。
窓ガラスにはカーテンも掛けられます。
白黒のバイカラーにコントラストステッチで纏められた室内は、スタイリッシュなデザインが奏功しているせいか、華美というより質実な印象です。
メーターパネルは液晶画面で表示はとても見やすいです。
メーターの外枠は液晶表示ではなく、フレームの型を実際に取り付けて立体感を出しているのが面白いアイデアだと思います。
コントロールディスプレイは指の動きだけでコマンド操作が可能なジェスチャー・コントロールが備わっています。
ディスプレイの前で指をクルクルと回すと音量の操作が可能です。
タッチパネルの先にある技術が使われています。
エンジンスタートしたときのエキゾーストに注目しましたが、威圧さは感じません。
V12エンジンであることを誇張せず、脚色のない自然なエキゾーストから底力を感じさせることを意図したのかもしれません。
このクルマには、Mスポーツ・エキゾースト・システムを搭載させておらず、昔からの伝統的な手法で官能的なサウンドにチューニングしているようです。
シートは適度な張りがあり、座り心地は快適。
V12エンジンであることを意識することなく、クルマをゆっくりとスタートさせる気になります。
Dレンジに入れてブレーキペダルから足を離してもクリープしません。
スロットルペダルを少し踏み込むと、クルマが瞬時に応答して前進し始めます。
10km/h前後の低速域でもスロットルペダルに対する反応が良く、Alpina B5 Superchargeのことを思い出しました。
敷地から路上に出て走り出すと、ふわっとした実に心地良い快適な乗り味であることが分かります。
試乗は1周1km強の区画を2周するのですが、コンフォートモードとスポーツモードの2種類で乗り比べしてみました。
Sport modeにするとComfort modeよりも明らかに足回りが締まりますが、それでも硬くなって跳ねるような動きはありません。
少しアップテンポで走るのであれば、Comfort modeは心許なく感じますが、好みや慣れもあると思います。
意図的にスロットルペダルを踏み込むと、滑らかに加速が始まり、あっという間に制限速度に到達してしまいます。
同時に室内にはラグジュアリー・カーらしからぬ勇ましいエキゾーストが轟きます。
このあたりは、760LiではなくM760Li であることの証なのかもしれません。
好みでいえば、同じエンジンでもエキゾーストを制御して底力を感じさせるRolls-Royce Ghostには高い品位を感じます。
ただし、スロットルペダルの踏み込みに対して、ターボラグを感じず、立ち上がりからスムーズに加速を始める点はM760Liに分があると思います。
気になったのは、歩行者を優先するため交差点付近で低速での走行を余儀なくされたときのステアリングの切れ。
これだけ大きなボディのクルマで緩いステアリング操作をすればラインが膨らむはずです。
ところが、xDriveというインテリジェント4輪駆動システムのなせる業なのか、思った以上にクルマが内側に入ってきます。
交差点を曲がって3車線道路の真ん中狙いのつもりでもこの状況なら少し外側にはみ出るだろうと切り増して調整すると、当初ラインよりもむしろ内側に食い込んできてしまいます。
少ない動きで曲がれるのはメリットではありますが、この操舵性には慣れが必要です。
このクルマを少し乗れば良さはすぐに分かりますが、BMWのフラグシップとはいえ2,500万円超という価格を理解するのは容易いことではない気がします。
法人名義で購入するならいざ知らず、個人資産で購入するならBentley Continental Flying Spurとか、もう少し頑張ってGhostというほうが分かりやすい。
M760Liを運転できたことは大きな収穫でしたが、かなり限られた条件下での試乗だったので、特長を掴んで整理するにはあまりにも情報が不足している気がします。
また長くなってしまったので、残りは後編にします。
ここまでお読みいただきありがとうございます。