
昭和43年○月○日 愛知県豊田市トヨタ自工会議室にて
製品企画室からニュークラウン(4代目)担当の
デザインチームに開発にあたっての説明がおこなわれて
いた。
今のクラウン(3代目・50系)は高級車として実にふさわしい
形をしておりスタティック?な豪華さをもった車だ。
だが、今度のクラウンではさらにもう一歩前進して乗って
走る豪華車というイメージを持った車に脱皮させたい。
それが昭和46年の自由化・国際化に対処する道だと考えている。
製品企画の説明会は終夜に及びそして最後にデザインチームに対し最終的なテーマが与えられた
それは今までのクラウンのイメージを気にしないでこれからの時代にふさわしい車をデザインして
もらいたいのだ。新しいクラウンには3つの大きなテーマがあるこれにそって全員努力せよ。

いいか、ニュークラウンのテーマを発表するぞ。
(1)空力的に優れたデザインであること
(2)2000ccクラスの車にふさわしい豪華さを持っていること
(3)安全なデザインであること

社員・岬さん・・流行のウエッジライン取り入れるのは空力的に有利だがクラウンにはちょっと・・・
社員・天知さん・・ウン、それに安全なデザインという見地からは好ましくないんじゃないか?
社員・岬さん・・そうだウェッジを極端にすればつきささるようなイメージになりかねないな・・・
トヨタ自工デザイナーの岬 謙治は車を運転しながら、安全なデザイン・・安全なかたち・・・と
考えていた。そのときだった信号で停止中に車の左側に立つ女性の腕に子供の投げたボールが
当たった。それを目撃した岬は、今のがボールではなくブロックや硬い物だったら・・・
ん!これだー!!キタ―
早速、会社に戻り報告。部長!分かりましたよ安全なデザインがついに!!
安全なデザインというのは、まるい型ですよ~だからまるい車をつくればいいんですよ。(何か単純
それを聞いた他の社員は・・・しかし、2000ccクラスでまるい車というのは・・・ザワザワ
部長・・岬くん、でかしたぞもっと詳しく説明してくれたまえ。
岬・・安全なデザインといっても色々あります。頑丈そうなスタイル・安定感のあるすたいる・・・
どれも安全なデザインにつながります。しかしそれは安全そうに見えるイメージにすぎなかったん
ですよ。
部長・・君の言う丸い車はもっと実質的な安全性を持っているというのだな・・・
岬・・そうです。対人間への安全性を考えた場合、箱とボールではどっが安全と思いますか?
部長・・ウム・・机の角が丸くなっているのと同じ理屈だな・・・
岬・・安全のためには車の突起物はなるたけ少ないほうがいいのも常識ですよね。
車のコーナーも突起物なんです、対人間性の安全性を考えた場合このコーナーという
突起物を取り去るべきなんですよ。
キャビンを含め車全体をカプセルと考えれば・・・今までのクサビ型でもコ―クラインでもない
まったく新しい未来的なデザインが出来上がると思いますよ。(それがスピンドルシェイブ)
部長・・まるい車・・・カプセル・・・よぉし!それだ、それでいこう。
そして、カプセルデザイン・・・それからのデザインは丸い車をめざして急速に進展していったとさ。
バンパーも突起物なのでカプセルのうちに含め、一体化した。(しかもカラードバンパー)
前面投影実験から、空力的にもまるい車は有利だった。強度の面でも四角よりも強かった。
三角窓もとりのぞかれ、フロントピラーもロールオーバー方式によって細くされて前面の視認性が
大幅に向上された。
さらにランプ類は独立式、後方からの視認性を良くすることで安全性を高めた。
だが、全てが順調ではなく大きな問題もあった。それはキャビンの広さとドアの形状だった。
限られたスペースの中でキャビンを広くとりたいので、ドアの厚さをできるだけ薄くする必要があった
しかし、まるい車なので薄いドアだとカ―ブドグラスが使えなくなる・・・
垂直なドアなら強度の点をクリアできれば薄くするのにさほど問題ないが・・・うーん??
何か、いいデザインはないのか?キャビンの大きさを変えずにいかにドアをふくらませるか?
ここでデザインチームはデッド・ロックに乗り上げてしまう・・・
しかし毎日のようにディスカッションが繰り返されて、ようやく問題を解決する新しいデザインが
みつかったのであった。
フロントからエンジンフードを通って、サイドに抜けていく一種のアクセントラインがそれであった。
数千枚のラフ・スケッチ、いくつものクレーモデル。こうしてニュークラウンはひとつの新しい形を
あらわそうとしていた。
昭和46年2月16日、ニュークラウンはヒルトンホテルで発表された。

豊田英二社長より、トヨタはこれでGMやフォードがノックダウンでやってきても恐れることはなく
なった。クラウンこそが安全で豪華なこれからのハイオーナーカーである。