
いつのまにか自分の中でシリーズ化した「知る」シリーズ第三弾。
第一弾 ロードスターを知る
第二弾 マツダのハッチバックの歴史を知る
今回は「Be a driver. Experience at FUJI SPEEDWAY」で行われていた講演。その中でも自分が面白かった「マツダデザインの挑戦」について抜粋して残しておこうと思う。読まれる皆様、参考程度で。
登壇されたのはデザイン本部 KAI CONCEPTチーフデザイナーの土田 康剛氏とブランドスタイル統括部 田中 秀昭氏。
まずは魂動とは?という話から始まった。

魂動デザインが目指すのは「クルマに命を与える」こと。クルマが単なる移動手段ではなく、家族や友人のように身近に感じられる“愛車”となるには何が必要か。そこから導き出したのが人の魂に訴えかけるということで「魂動」という言葉が生まれた。

そして生命感のあるカタチとは、と考え注目したのが野生動物の中で一番のスピードを誇るチーターだった。
そしてそれを真剣に考えてご神体と呼ばれるオブジェができた。

そしてこのご神体から生まれた車が「SHINARI」

「SHINARI」が好評を得たことはよかったがそこで問題になったのがアテンザだった。
アテンザのデザインはすでに出来上がりかけていたが、それは以前のデザインを引き継いでいたもので

みなさんこれ欲しいですか?と問われたが…
うーむ…笑
結果的にはアテンザのデザインを一からやり直すことに。
その時にはもちろん大混乱を招き、その時援護したのが最近会長を退かれた金井さんだったそうだ。
3ヶ月でやり直すと宣言してなんとか了承を得たものの、当然3ヶ月なんかでは終わらなかったらしい。笑
そんな大変なこともあったが「SHINARI」から「TAKERI」に落とし込み、アテンザができた。
そしてそのアテンザも好評を受け、次のアクセラはどうするか?
当時アクセラのリードデザイナーを務めた土田さんからのお話がおもしろかった。
アクセラの開発がスタートしたのは2010年、SHINARIが好評を得て社内は“SHINARI化”その方向へ行くぞ!となった。アクセラはどうするかとなり最初アテンザをそのまま小さくしてみたら…

土田さん:「これ、人の頭出ちゃいますよね。」
会場:笑
これ、本邦初公開だったらしい。
人が乗れないほど低い車になってしまったということでそこから考え、1年から1年半後発想を変えることができたそうだ。
前後に伸びやかなSHINARIに対し、アクセラのようなコンパクトハッチは伸びやかな乗り心地ではなく、キビキビ走るイメージを表現する為に上下のリズミカルな動きに変えた。

そしてアテンザは3本のキャラクターラインに対しアクセラは2本にしてリズミカルな動きの表現にした。
そして開発当時、音で動きを例えたらどうなるかということも考えたとのこと。
例えばアテンザだと低音の音、チェロ、伸びやかな音。アクセラだとトランペットのような、リズムのある、スナップの効いた音を表現。デミオだともっとテンポよく小刻みに。というように。
今までSHINARIからアテンザまでしか描けなかったのが、アクセラ、デミオ、CX-9からCX-3までであるとか、大きなスコープで描くことをアクセラの開発で見つけて今の世代ができている。そういう意味でアクセラの存在は大きいという。
続いて色について。
マツダは世界シェア1.5%ほどの会社、存在感を出すためファミリーフェイス、マツダ家の顔を統一している。そしてブランドカラーも赤で統一した。
ブランドカラーが赤な理由とは?
田中さん:「カープが赤だから、とか言われますけど…」
土田さん:「さっき人見さんが三期続いた赤字を忘れないようにする為に赤に決めたって笑。違いますからね。」
会場:笑
昔ヒットしたマツダの車、マツダは何度も潰れかかっているが潰れそうになるとヒットする車がでてくるっていう、それがみんな赤い車だった。
ファミリア、ロードスター、FDのRX-7、MPV…
でも赤は難しいところがあって、
田中さん:「他のメーカーさんだとお客さんの好みの色を考えて作るというのが一般的だと思うんですが、マツダはいかに陰影を際立たせるかで考えています。だからカラーも造形の一部って言っているんですが…」
そして例として出てきたのがソウルレッドクリスタルの開発について。
カラーリストが次のソウルレッドはこういうふうにしたいとアピールしたのがこれ。

アクリルで作った透明なものでライトを当てると厚みがあるところは黒く落ちて厚みが薄いところはすごく明るく鮮やかに見える。

真っ赤なバカラのグラスを買ってきてプロジェクト会議で見たりして「これを作りたい、この色を作りたい。」とか話したりして。ちなみに4.5万するのに買うのよくOK出したとざわめいたらしい。
塗料は何ミクロンしかないのにこれを表現するにはどうしたらいいのか?
マツダにはいかに量産に結びつける“共創”という文化がある。エンジニア、生産技術やサプライヤーが一体となって量産化をやろうとした。
これもSHINARIができたおかげでみんなが同じ方向を向くようになった成果だと言っていた。
田中さん:「エンジニアも探究心が強くて、できないようなものを与えられるのが快感になっちゃっていて…」
土田さん:「変態系笑、できないと言わない笑」
でやろうした時に物理や化学の世界で考えてソウルレッドクリスタルを完成させたという話だった。
次のお話。

2台の車がある。RX-VISIONとVISION COUPEだ。共に“VISION”という名前がついている。
この2台の車は凛と艶というそれぞれの方向性を示したという。

この2台がマツダの次世代の“幅”を示している。マツダではこれをブックエンドと呼んでいる。
そしてさらに大切にしようとしているのが日本の美意識。
マツダは日本の文化をデザインで表すことが必要ではないかと考えた。
それが“引き算の美学”

その切り口の一つとして余白。

見る人の想像力をかきたてるようなことをするのが日本の独特な美意識としてある。
車で表現するには、と考えた時、キャラクターラインを設けない代わりに光のリフレクションをキャラクターライン的に使うことをした。その結果かえって際立ったりするという。
そして日本には四季がある。
四季それぞれに色々な光や影の種類があって、その“移ろい”が美しく感じられる。

そしてインテリアの考え方では“間”
具体的にはインパネとコンソールがぶつかるところを敢えてぶつけず、抜けの表現を作る。それによって空気が抜けていくようなイメージを大事にした。
ドライバーは前進感を感じて落ち着く。助手席は横に広がるダッシュボードがあって開放感が感じられ両方にとっていい空間になっている。

田中さん:「最後に自慢話にはなりますが、RX-VISION、VISION COUPE共に世界一美しい車という評価をいただいたので、これから出る車も大丈夫かと思っています。」

最後、魁 (KAI) CONCEPTについて。
ここについては
オートモビルカウンシルの中で聞いた内容と重複するので割愛させていただく。
一目惚れする車を作りたいという想いがあって作ったというが、まさにこの車に一目惚れした人は多いのではないだろうか。
僕もその一人であるが。
最後に土田さんのお言葉。
土田さん:「なんでマツダが生命感のある車づくりにこだわるのか?これから自動運転、カーシェアが広がっていきます。それはつまり車を所有する必要がなくなるということであり、人と車のつながりは希薄になっていくということです。そんな時代だからこそ、人と車のつながりをより感情的に結びつけたい。最後の自動車会社になっていいという想いでやっています。これから2台のブックエンドの間に色々な車がはまっていきますので、これからのマツダにご期待下さい。」
これにて終了となった。
実は今日のお話、自分は知っているところがたくさんあった。
というのも2冊の本を読んでいたから。

「MAZDA DESIGN」と皆様ご存知前田さんの「デザインが日本を変える」
特に前田さんの本はもっと細かい裏話が載っているのでまだ読まれていない方、ご興味ある方は是非とも読むことをおすすめしたい。
KAI CONCEPT チーフデザイナーである土田さんはつまり、もうすぐ出てくるであろう次期アクセラのチーフデザイナー、ということになるだろう。
さらに土田さんは初代からアクセラにも関わられた方だ。
その方の講演を聞いて、その考え方に強く共感した僕はその人の想いを是非買いたいと思うのである。
次期アクセラのことを考えるとワクワクが止まらない日々が続きそうだ。