熊本および、九州における一連の地震で被害にあわれた方にお見舞いを申し上げると共に、1人でも多くの方の命が救われ、いち早い復興がなされることをお祈り申し上げます。
昨年、お仕事でお世話になった方々の多い地域も被災しており、何か出来ないかと思う一方、何もできない自分が歯がゆいです。取り急ぎは、ちゃんとしたところを通じて義援金を送るくらいでしょうか。。。
さて、最近、「気持ちは分かるけど、それ違う」というブログをみたので、前回、ブログに書いた
「自動運転のセカイ」と比較するものとして「現実セカイ」を書きます。
※長文です。苦手な方はエスケープを
※フィクション…と言いたいところですが、デフォルメノンフィクションです。仕事で関わった部分もあるのでぼかしていますが。
高齢者の運転による事故が増えているという。新聞記者のマキタは、デスクに言われ、高齢化率(65歳以上の人口割合)が高く、高齢者による事故に悩んでいる地域に取材に向かった。
その地域は、〇〇県と▲▲県の県境に位置する農村地域で、現在の人口は1.5万人あまり。過去には複数の村と町が存在したが、平成の大合併で一つの市に統合されたという。
マキタはまず、市役所に足を運んだ。担当者から高齢者の運転について話を聞くためだ。
市役所担当者:「いや、市でも高齢者の運転問題には頭を悩ませておりまして…特に75歳以上の後期高齢者ですね。もう危ないので、運転を辞めてほしい、とは思っているんですが、交通の便を考えると、そんなことも言えないのです。一応、免許を返納した人には、タクシー台とバス代が10%オフになる返納者パスを市から交付はしているのですが、なかなか返納される方も増えないですね」
一通り取材をし、次の取材先に向かおうと駐車場に向かった。すると駐車場で何回も切り返して停めようと頑張っている車があった。軽自動車である、大きくはない。しかし、障碍者用の大きな枠になかなか入らない。…しかも車体はベコベコだった。大丈夫かな、と思っていると、何とか枠内に停めたクルマからドライバーが降りてきた。
…高齢者である。マキタは早速、話を聞いてみる。
高齢者:「いや、今日はウチの婆さんの介護の相談で市役所に来たんだ。え?年齢? 俺は83、婆さんは…いくつだったかな82?81?かな。婆さんの方が若いんだけど、婆さんは足が悪くて歩くのが大変なんだ。それに…認知証にもなっちゃってね。。。車の運転は、息子にも辞めた方がいいとは言われてるけど、婆さんの介護もあるし、クルマが無いと生活できないんだよ。息子?息子は東京で働いてる。こっちに居たって仕事もねぇかんな」
インタビューに答えてくれた大変そうなドライバーの男性と、その横でニコニコしている“婆さん”、対照的でありながら、マキタは切なくもあり、どこか微笑ましくも感じた。
次の取材場所は病院だった。事務局長の男性から、話を聞く。
病院:「通院の患者さんも運転、大変ですね。実際に病院の駐車場での事故も多いですし。ただ、バスとか、タクシーを使えって安易に言えないんですよ。ここまで来るバスもありますが、本数が1時間に1本あるかないか…しかも、バス停まで歩いて30分なんて方もいますからね。タクシーも片道で2000円以上かかる方も多いですし。え?病院でバス? 確かに、前に病院で通院バスを走らせようとしたんですが、地元のタクシー会社とかバス会社の反対もあって頓挫しましたね」
タクシー会社とバス会社が、病院の通院バスに反対? 既得権益の匂いを感じたマキタは、バス会社の事務所に向かった。運が良いことにバス会社の事務所には、たまたまタクシー会社の社長も来ていた。
バス会社社長:「バス停が少なく不便であるという声も聴いてますし、運行しているわりに乗車人数が少なく、空気を運んでいる、なんて言われていることも知っています。少しでも利用率を上げるためにダイヤの改正や新しいバス停の新設も毎年、検討・実施しています。ただ、市の予算の都合上、限界があります。バス事業はここ十数年、ずっと赤字です。いや、大都市圏以外の路線バス会社で事業単体で黒字が出ているところなんて、ほとんどありません。みんな、公共交通として、自治体の補助をもらって、カツカツで運営しているんです。市の予算の中で、最大限できることをやっているんです。病院のバス? ああ、それは反対したのではなくて、ドライバーを出してほしいと言われたのですが、人が居なくてお断りしたんです。今、バスの運転手の確保も非常に大きな問題なんですよ」
タクシー会社社長「病院のバスは、俺は反対したよ。だって、無料で走らせるっていうんだ。こっちが商売できなくなっちゃうもん。あ、俺を守銭奴だと思っただろ?違うよ。正直、俺はもう会社を畳みたいんだ。儲からないし、年金で食えるし。でもさ、うちの会社にちっちゃい子供がいる社員が2人いるんだよ、あいつら食わさないと、さ。本当にさ、うちの収益、いまギリギリなのよ、病院の無料バスで客が減ったら本当に存亡の危機なわけ。で、うちが潰れると、もうこの市にタクシー業者なくなっちゃうのよ。そうすると、病院以外に行きたいお客さんとか、赤ちゃんいるお客さんとか、バスが入れないくらい狭い道の先に住んでる人とか、タクシー使えなくなっちゃうのよ」
マキタは、ここまで取材して、上司である両備編集デスクに電話した。
「高齢者の運転に関する問題は深刻です。事故も多く、運転を辞めるべき人も多いと思われます。しかし、主要な交通インフラとして自家用車しか選択できない地域があるのも事実です。
クルマが無いと買物も、通院も、介護も出来ない…
かと言って、バスやタクシーを強化する、ということも単純に実施することは難しいと思われます」
両備デスク:
「だろうな。やはりテクノロジーの進歩も重要だ。完全な自動運転が実現すれば、この問題は解決される。そこまでいかなくても、現在の一部車種にあるようなブレーキや車線維持、駐車に関するアシストがあるだけで高齢者の事故を減らせるかもしれないからな」
マキタ:「あんまり色々と便利になると人間が退化するような気もするのですが」
両備:「違うよ。便利になるのは必然なんだ。道具は常に便利にアップデートされていく。それを人間がどう使うか、が問題なんだ。コンピューターが出来て、人間の頭脳は馬鹿になったか?、人類の知恵は後退したのか?」
マキタ:「そう言われると確かに…。でも、そうしたら、高齢者の運転問題はテクノロジーの進化で解決されるのでしょうか?」
両備:「最終的にはそうかもしれないが、実際は高齢者の運転問題は個人の運転技術の問題ではなく、地域交通の問題であったり、介護の問題であったり、買物に関する問題であったりもするんだな。だから、大切なのは、『年寄りは危ないから運転を辞めろ』ってことではなく、『運転が危ない年寄りが運転をしなくても生活していける社会システムをどう作るか』ってことなんだと思う」
了
ということで、今の現実をデフォルメして書いてみました。
実際には、有償福祉輸送とか、デマンド交通などもあるのですが、説明すると長くなるので割愛。
あと、公共交通の多くは、市町村合併の「効率化・合理化」と撤退規制緩和で減少しているのが現実です。
社会って、難しいんですよね。
とりあえず、前回と今回のブログを通じて個人的に言いたいことは、
いつまでも、クルマ好きがクルマを楽しめる世界であって欲しいということと、社会的インフラとしての自動運転と、クルマの趣味性とか、文化的なクルマの価値が共生できる社会になってほしい、ということでした。
Posted at 2016/04/17 06:50:49 | |
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