いわゆる「案件」なんだろうけど、Youtubeを見てもブログを見てもベルハンマーなる高価な油のインプレがたくさん上げられています。私は小学生のころ…モータロイとかマイクロロン全盛のころ…から父親のオートメカ誌を読んでいたせいかオイル添加剤に興味がある変な少年でした。のちに自分で車両を所有し整備しいろいろ試した結果、ガチなのはGRPだけかなぁと。ただ、現在は大メーカ製(石油メジャーや潤滑油専業メーカ)の油脂類の性能もバリエーションも大きく広く向上しているため、特殊な嗜好でもない限り安価で信頼性に富む一般市販の油脂を用い、あえてスペシャルな要求を満たすならその中でも高級品を使うだけで十分すぎるのではないかと考えるに至りました。
偏愛嗜好のためにはオイルにはGRPとグリスにはチキソグリースの使用でもう添加剤遊びはいいかなと思っていたところに、数年前からベルハンマーなる添加剤の名を目にするようになりました。当然昔からの添加剤オタクの私は調べ、使ってみました。感想は「??」よくわからない。
効果を「体感」で評価することは不可能で、アルミテープとかアーシングとかSEVみたいな宗教の話になってしまう(ちなすべての宗教は洗脳装置です Byゴータマ・シッダルタ)。
いやしくも技術者を生業としている私は、性能は「規格」にのっとって「測定」して「数値」で表現するのが最も正確な評価方法だと考えます。特に機械装置に用いる油脂類の性質はASTM手法とかNLGIなどの規格で測定・評価方法が定まっています。
私は今グリースについていろいろ調べているので、グリスの話に絞りましょう。ベルハンマーグリス2について定量的な性能を調べると、極圧性を表すシェル4球試験と摩耗試験の結果が見つかりました。潤滑には様々な状況があるけれど極圧性とは金属同士が高い圧力で押し付けられ、グリスでは潤滑が油膜ではなく極圧添加剤の作る膜が主に潤滑を担う過酷な状況を言います。この性能を測るにはいろいろなやり方がありますが、グリスでよく用いられるのは「シェル高速四球耐摩耗試験」というもの。
この試験は4つの鋼球をグリスの中で力をかけ続ながら摺動させ、焼き付く寸前の力を測るもので数値が大きいほど性能が良いとされます。ベルハンマーグリス2のシェル高速四球耐摩耗試験WLでの結果は2452N(ニュートン:力)。
一方、広く一般的に使われている極圧性を備えたリチウムグリース(ホームセンターで500円くらいで売られているアレ)相当のエピノックグリスAP(N)2だと、この数値は3090Nでベルハンマーより優秀。同じくホムセンで売っているモリブデングリス同等の、モリノックグリースAPでは3923N。
私が使用しているチキソグリースでは7350N以上です。正確には改良版のウルトラスーパーチキソグリースを愛用しているのでもっといいと思いますが、測定限界で測れないとのこと。
潤滑は極圧性能だけで決まるものではないものの、安価なホムセングリスよりも極圧性が低いというのはどうかと思います。価格は数倍するのです。例えばホイールベアリングなどに用いられる軸受けに充填される場合、極圧性は重要です。
次に耐摩耗性能ですが、ASTM D2266で規定され、四球試験のときにできる傷の大きさ。当然小さい方がよい。
ベルハンマーグリース #2 0.41
idemitsu エポネックスIM 0.40 (一般的なリチウム極圧グリース)
チキソグリース #2 0.30
Youtube「カーネルヨンダース」さんの動画のなかに、ベルハンマーグリスをサーキットでテストしたものがあるのですが、むしろパフォーマンスが若干落ちていることがわかります。
これはさもありなんと思います。日本製のベアリングに用いられるグリースは非常に高性能なエステル系などの基油+高性能な添加剤が使われて日本製ベアリングの高い信頼性を支えています(例えばマルテンプSRL)。そこらの安いグリースが入ってる訳じゃないのです。
気になったのがカーネルさんの動画にあるように油分が分離している様子が見て取れること、またカタログデータの稠度(柔らかさの程度)データの値が柔らかすぎるように思う。#2稠度を謳う割に柔らかさは325という数値で、これは稠度の規格でいうと本来なら#1。
以下は私の妄想。以下はベルハンマーグリスの話じゃないです。
大手メーカの作る極圧性のあるリチウムグリスに、油状の減摩剤(有機モリブデンとかZnDTPとか)を混ぜたものを作る。ベースがしっかりしているから致命的なクレームは来ない。でも混ぜてるだけでベースから調合してる訳じゃないから稠度が下がるし、油分離も悪化しちゃう。稠度が低ければ粘度が低いことに近く、低荷重状態での見かけの粘度が下がって抵抗が減り性能がいいように「見える」。
私の意見としては一般的な軽い極圧リチウムグリス相当の性能であって特に尖った特性はないがおそらく致命的な欠点もない。ただ価格は高いので同じ金額を出して協同油脂とか日本グリースとか出光やENEOSの高レベルのグリス(たとえばマルテンプシリーズなど)をモノタロウやAmazonで買った方がよいのではないか、ということで冒頭の見解に帰着してしまいました。偏愛趣味者はチキソグリースをどうぞ。
以上妄想終わり。
売り方はうまいと思わせる。ガチ性能のGRPの真逆の戦法で、実戦で性能が劣れば即クレームか取引停止のBtoBのシビアな世界ではなく曖昧なコンシューマを相手にする(GRPは工業用途しかほぼ相手にしてない)。インフルエンサーに製品を渡し、Positive評価をしてもらう、ホムセンに売り込み棚を確保して目につかせる、など。今どきの売り方というかTEMUなんかと同じですね。
この売り方には既視感があります。ちょっと前までサビ転換塗料について調べていたんだけどサビ〇〇ーoooとそっくり。OEM元は歴史と技術のある塗料メーカ。BtoCに力を入れてやっぱりサビ取り系Youtuberに無償提供して売り込んでる。よく調べてみてください、同じ性能のものが2/3の値でひっそりと売られてますよ。
ブログ一覧 |
整備 | 趣味
Posted at
2025/03/07 13:39:54