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2025年11月10日 イイね!

READY TO RACE

READY TO RACEKTMのキャッチフレーズがこれだ。各メーカがマーケティングのために様々なキャッチフレーズを用意しているが、割とふわっとして単なるイメージに過ぎないよね、ってのはままある話。

KTMのそれもそんな類だろうなと考えていたが、彼らの作品(690SMCR)を入手して実際に乗り、そしていじってみるとこのコピーが伊達ではないことに気が付いた。彼らはマーケティング用の見せかけではなく、本気で狂っている。

たとえば軽量化。ステップを交換してみて大変驚いた。多くのメーカは、ステップを支持するシャフトには6mmφ程度の軟鉄のピンを用いている。KTMはエンデューロでの過酷なジャンプなどライダーからの衝撃が頻繁に加わることを考えてか、ここに10mmφの鉄のピンを使っている。完全オンロード仕様としていじりたい僕には強いけど重いよね。ということで、ここを交換できないかと考えた。軸受け部にアルミのパイプ状のカラーを入れて内径には6mmφのショルダーボルトを入れてUナットで固定することを考案し、まずは構造を知ろうと純正をばらしてみて衝撃を受けた。

ピンが無垢の鉄棒ではなく、中央が抜いてあってパイプとなり軽量化されている!これに感銘を受け、ピンの交換はやめ、Aliexpressあたりにある色褪せたオレンジの粗末なステップだけを換えた。

ピンは標準機構部品と呼ばれるもので、市販品がいくらでも手に入る。ねじも同じだ。ところが、KTMはねじにもピンにも標準品を使わない。コストも納期も圧倒的に標準品のほうが優れる。自動車産業のピラミッドは強大で、欲しいものは何でもあるはずなのに、こだわったオリジナル品をここに使うのは・・・

日本人の設計者では絶対にありえない考え方だ。

意匠にこだわるドカでも基本は標準品を使っているというのに。もう一つの驚きのネタはボルトナット、すなわちネジ。JISやISO、DINなど標準品は腐るほど多種多様に豊富に流通しているのに彼らは自社製の特別なものをかたくなに使っている。

KTMのM8のネジの直径を実測したら、日本製(日産ネジ)のものよりも40umも細かった。締結の感じもかなり違う。日本製のネジは割としっくり締まるが、KTMのネジは舐めそうな嫌な感覚が付きまとう。

6角ネジでねじ山のないリード場所の太さを見ると全然違う。日本製のもののほうがずっと太い。ネジは転造といって、丸棒を削り出すのではなくダイスの上で押し潰すように転がし、素材自体を鍛えながら山と溝を形成する工法を取るので、ねじ山のないリード部分の太さがもともとの丸棒の太さだ。この太さがKTMとISOねじで全く違うとはどういうことか?!日本製のものも、ネジ山部とリード部では部材の太さを変えてあるのではあるが、むしろ軸力保持のために太くしてある。それなのにKTMは細い。ネジの重さも明らかに軽い。手で持ってみてはっきりわかるほどに。

そこまでしてKTMは軽いオリジナルネジを製作して用いている。機会があれば実測してお示ししたいと思うが、5%以上は軽いだろう。鉄鋼はクロモリ鋼SCM435らしいので強度的には問題ないだろうが、ねじ山が痩せているので相手がアルミだったりするとオーバートルクがかかれば、アルミ側のねじ山を一発で崩してしまう危険な仕様。首の部分が細いのでトーションバーのような働きもしてしまい、あの今にも舐めそうな嫌な感覚を生む。



(追記)重量を実測してみた。
*日本製キャップボルト 12.9強度 M8x40㎜ ジオメット 19.40g
*KTMボルト M8x40㎜ 16.20g
実に17%もKTMの方が軽いという結果。(追記終わり)

こんなに過激に軽量化したもの、本来はレーサーでしか使っちゃいけない部品。耐久性以前に軽いことが優先。素人は手を出すな、ネジは使い捨てして再使用するな、適切な潤滑と時にはねじロック剤を用いて正確にトルクレンチを常用しないと保たず、時々チェックを行わないと緩みかねない厄介な代物だが、本来レーサーとはそういうものだ。

ここに気づいてから改めてKTMのキャッチフレーズに触れると、その看板がただのはったりではないことに気づく。母材側にねじ山を掘りたがらず、貫通部分を作ってナットで締めたがる構造も、レース時に破損しても簡単に直せるからだ。母材にねじ山が掘ってある場合、そこが舐めたらもうレース継続はできない。

で、その乗り味も、特に690SMCRはまさに正気がかろうじて残る狂気、と言える。爆発的なレスポンスとトルクは常に一触即発の緊張感とともにある。車体は125ccレベルで軽くスリムで、いかようにも振り回せるが、サスペンションの懐は深くギリギリまで粘ってくれる。ところがバンク中に不用意に右手をひねれば、後輪は簡単にズルズルと滑り出す。しかしながら紙一重のところで安定性とコントロール性が勝る車体で、シャープではあるが一瞬の「溜め」のある挙動によりライダーのパニックをかろうじてなだめ、制御する。

恐れ入った。奴らは本気で狂っているというか、「冷静に狂気を設計している」のだ。ここまでやっているバイクだから、合うあわないは顕著に出ると思う。保守的でケチな人、乗りっぱなしの人、モノを大事に大事にするような人種にはきっと我慢がならない。でも、KTMでしか得られないものが確実にある。誰でも安価に本気のレーサーに乗れるってことだ。これが理解できればKTMは強い輝きを放ち始める。彼らがMOTOGPに拘泥するのも非常にわかりやすい、彼らからレースを取り上げたら死んでしまうのだ!彼らなりの設計哲学の発出なのだと思う。

たかがピン、ネジと言うなかれ。設計で一番目が届きづらく、これにこだわってもぱっと見の商品性が上がる部分ではない。設計でも標準品を想定した強度計算はできず、全てカスタム値を用いなければならない。他部分の設計もこんな感じだろう、一事が万事、全体から細部まで偏執的に本気の設計でないとこういう気の狂ったことはできない。

わかる奴だけ乗れ、わかればクッソ面白いことは保証する!でもレーサーだからな、故障がどうとか維持費がうんたらみたいな貧乏くせえ連中はこっちから願い下げだぜ!って挑戦をキャッチフレーズは突き付けている。

さて最近、KTMはバジャジの100%子会社になりインド色が強まるという観測がある。このままインドがオーストリアの狂気を理解してくれればいいのだが。

ネジが標準品になってしまったとき、その瞬間がKTMという狂気の終焉なのだろう。
Posted at 2025/11/10 10:00:36 | コメント(0) | トラックバック(0) | 日記

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