
KTMの692cc単気筒!というかなり極端なエンジンのオートバイを入手した。私としては初めてのオフロード形態をしたオンロードモデル、つまりモタード/スーパーモトというジャンルのもの。
持論として「乗りやすいオートバイなんぞ滅んでしまえ!」という極端すぎるものを持っている私なので、乗りやすさは100%無視して選んだ。LC4というコードのエンジンを搭載している。
今でさえDucatiが追従し698monoという類似品(味付けはかなり違う)を2024年に上市してはいるが、それまでこのLC4は世界唯一の高性能単気筒エンジンで歴史はドカのものより圧倒的に長く、約30年にもなる。
ドカのそれは試乗経験があるので暇だったら私の書いた
試乗記を読んでみてほしいが、そのシンプルな車体構成からくる楽しみはとても大きく、軽量な車体・右手直結で即発するトルク・スリム・ある程度の高重心からくるその乗り味は、ロックのリズムに乗ったダンスのようだった。
ただしドカのエンジンは昔のドカのものとは様変わりしており、妙によく調教されている。おそらくAudiの血が混入してしまった為だと思うが、整然としすぎており元気で脳天気なイタリア娘という雰囲気ではなく、どこか真面目さ、説教臭さを感じる。最近のノンデスモのV2など、その代表のようなもので僕は買うことはないだろう。デスモはブランドのシンボルであった。
(最近発表されたMonster V2は SV900? VT900? と感じるようなモデルだった…)
さて698monoに試乗してから悶々と考えていた。「このエンジンのオンロードモデルを出してくれないだろうか」しかし、出ない。噂すら出ない。KTMには690DUKEシリーズというモタードとネイキッドの中間みたいなものがあったのだが製造をやめてしまった。
なぜだろう?
KTMもドカも本来こだわりの強いメーカだ。俺たちが乗って楽しいバイクだけを作る。理解できない奴は乗るな、というキャラクターで、特に日本車のH,K,Sのようにマーケティング先行型のオートバイ作りには背を向けたメーカだったはずだ。ドカはその色が最近急激に褪せてしまったが、内部にはまだ気骨のある技術者もいるはず。
そういう「うるさい」連中が出した回答がモタードだという事実には一考の余地がある。私のようなミーハーは過日のSuperMonoみたいなオンロードウエポンを!と妄想してしまうが当然KTMもDUCもそれは検討はしたんだろう。しかし他の多気筒オンロードスポーツと比べると突出した面白みがあまり出せなかったのではないだろうか。特にドカのMonster、YのMT07あたりはおそらく強力なコンペチで、やはりそこそこスリムで軽く、速い。こことガチンコしても馬力表示で劣るし、オンロード構成にすれば重量も増えてしまい面白みはそがれる。また、マーケティング屋としてのAudi目線だと、690DUKEが撤退した市場はダメで、コンペチ(690SMC,701SM)がいる市場のモタードのほうがシェア食えるからそっちだね、と言う臭い話でもあるんだろう。
しかしながらモタードという乗り物はオンロード屋から見るとダサく見えはするが乗ってみると
極めて面白い。視界の広さ、単気筒エンジンに由来する軽量スリムさ、タンデムをほぼ無視できるから軽い車体、エンジンのレスポンスの良さとその制御性。
日本車の並列4気筒モデルとLC4を比べると、木刀とサバイバルナイフくらい切れ味が違い、いつもきわめて俊敏に反応する。低速から発生するトルクがクソでかいのがLC4、低速はあえてトルクを絞りスムーズさを演出してるのが698monoと言う感じだが、双方4気筒なんか比較にならないほどシャープに右手に応えてくれる。低速トルクがでかすぎて、3000rpm以下で使いづらいところを修正したのが698monoという感じ。
ただし、2,3,4気筒で700ccくらいあれば、100~130ps位は表示馬力が出せてしまうので、カタログスペック75馬力と言うのはしょぼく見えはする。これは乗ってみないと面白さがわからないので、購買層に対しそこは弱い。
さて本題に戻る。オーストリアという本邦からは「音楽の国」くらいしか知られていない国からなぜこんなに極端なモデルが上市されたのだろうか。本邦にもSRX6というモデルがあったにはあったが、愚鈍なSRの血統であったため一触即発のような緊張感に満ちたレスポンスがあるものではなく、「あの当時(バブル前夜)のSRの再解釈」のようなテイスティとかオシャレに振ったものだった。
オーストリアは極めて苦しいバランスの上で大国に翻弄され続けてきた歴史を持つ。以前は広い領土と強固な力を持つ帝国であった。東をむけば常に侵略の意図を持ったロシア、西と南には同じく覇権を求めるドイツとイタリア。これらの国の間で時には占領されたこともあった波乱の歴史を持つ国だ。しかし帝政オーストリアの血は流れ続けている。本来俺たちはこんな扱いを受ける国じゃないんだ!
内陸欧州は土がやせており作物が乏しく、常に食糧不足の圧力もあったと聞く。そんな中で鬱屈し、だがその誇りと情熱はいかんともしがたく文化・学問へと発散される方向に花開いたのがモーツアルト、シューベルト、ワーグナーなどの音楽の巨人たちだ。また、フロイト、アードラーなど心理学を拓いた偉人、シュレーディンガー、パウリ、ボルツマン、マッハなど近代物理学の天才たちも生んできた。
だが音楽や学問はインテリ層のもので、労働者層はオートバイに乗ってぶっ飛ばしたかった。そのエネルギーは上記した有名人と変わらないものだったろう。果たして、その狂気にも近いものがKTMを生み出したと考えている。
LC4は世界でも類を見ない、そのKTMの中でも極端なエンジンなのだと思う。
Posted at 2025/10/23 04:18:10 | |
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690SMC R | 日記