S4に漏れなく付いてくるスーパーチャージャー(以下SCと省略)
マッドマックスをリアルタイムに見ている世代としては、ちょっと懐かしくもあるデバイスだが、あの時代はボンネットからパワーバルジが張り出し、プーリーとかむき出しで、マッドマックスの乗ってる車などは必要な時だけSWオンの作業まで必要というしろもの。
一方S4のSC、運転していてもそれらしい音もしなければ臭いもしない。当然パワー的な応答遅れも無いし、知らなければ大排気量NAにでも乗ってる感じだ。
確かに初めてころがしたときには低速からの図太いトルクに感動したものだし、街乗りでもちょっと本気で踏めば、踏んでる本人がギョッとするほど早い。これは後述するデータでもトルク曲線の立ち上がりが結構急峻なんだなぁということにも関係しているかも。
しかし、このS4君 燃費はビックリするほど悪い!
燃費記録も見て欲しいが、チョイノリだけなら確実に5Km/lを切る。
なんか最近チョイノリだけでガソリンを空にすることが多く、
「満タンでたった250㎞しか走らないのか・・」
燃費の悪さの第1は車重が原因、なんとこのサイズで1.8トンもある。
先代のインスパイアがちょっと幅は狭かったが1.5トン程度だったので、300㎏は重りを載せて走っているようなものだ。70㎏の大人4人分相当である。
そういえばインスパイアに4人ゴツイ(私も含め)おっさんが乗った時、なんて加速が悪いんだと思ったので、当然だが重量はものすごく効く。
しかし、このS4君、そんな重さは全く感じさせないほど動力性能が素晴らしいのだが、反対に考えればそれだけ燃料がぶ飲みしているわけで、加減速の多い道は駄目、まあ高速流せばあっさり10Km/l超えますのでロングドライブ向きかと。
で、気になるのがスーパーチャージャー回すのにどんだけ燃料使っているのかという疑問。
SCのメリットデメリットなどはあちこちに説明があるし、車乗りならそんなこと常識だが、じゃSC回すのに必要な動力は?とか聞かれたらその筋の人じゃないと分からないだろうし、そもそも聞かれちゃ困る話なのかもしれない。
と、前振りが長すぎるんだよな・・・
S4のSCは
米国イートン社製、型式TVS R1320 ということはすぐに分かる。
イートン社というのは自動車部品から始まったようだが、今では航空宇宙から石油掘削関連とか訳の分からないプロダクト群で「大丈夫?」とちょっと心配になる。
<S4のエンジン>
V6のバンクの空きスペースにキレイに収まっている。
この絵は
米国AUDIが作成したものらしく、内容のあるエンジン資料が見つかった。
以後参照元が無い資料はここのPDFから抜き出した画像です。

実装はうまいな~と感心、なぜならこのSCはインタークーラーが付いている。
ちなみに6000RPMまで回した際の最大過給圧が1600mbar(絶対圧で1.6atm)
その際の断熱圧縮された空気温度が気温20℃時で80℃程度に上昇するから
やはり無いと過給の効果も落ちる。
で、ここでイートン社の技術資料を調べてみるが、先のリンクにあるようなマップがあるだけで、これだけでは損失動力は分からない。
ところで、このTVS R1320って何式?コンプレッサーか?
メーカーはルーツブロワーだと書いているが、原始的なルーツブロワは羽?ベーンというのかが軸方向に並行なのに対し、イートン社の製品はベーンに全てスキューというか捻れが掛かっている。
一方リショルムタイプというコンプレッサーもあり、ユーノス800とかが使ったタイプで、これも見た目はイートンのルーツにそっくり
何が違うんだ???
簡単に言うとリショルムは内部圧縮があってルーツはそれが無いということらしいが、
ルーツブロアの基本形はこれで、まゆ型のローターが噛み合った状態で回転し、容積が移動するだけ。 ルーツが内部圧縮しないというのは分かり易い
参照元
このロータを全体に捻ると、吸気と排気を軸方向へ両端に配置できるようになる。
これがS4が積んでいるイートン社のルーツブロワになる。吸気が軸方向に配置できると全体のレイアウトがすごく楽になる。
よくアメリカのドラッグレーサーがボンネットを突き破ってSCを載せたりしているが、これは先の単純なルーツブロワーの構造によるもの。(まあそれがカッコイイという人もいるが・・・)
見分け方は、ルーツタイプは2対のローター断面形状は同じである。
一方リショルム(Lysholm)ブロワーは見た目が似てるが、ローター断面が凸凹で噛み合う形状となっている。下図の左下断面図をよーく見てください。
参照元
リショルムが内部圧縮があるというのは、上図で経路容積を黒で示されているが、この移動容積が下から上に進む方向で減少していることで圧縮を実現している。
ハウジングがないので分かりにくいが、両ローターの外周は僅かなクリアランスで密閉されている。
最近の冷凍機やエアーコンプレッサーにはこのリショルム式が沢山使われおり、名称はスクリューコンプレッサー等と呼ばれているが、これに関係する文献や技術詳細は殆ど見つからない。
で、いつのまにかスーパーチャージャー講座みたいになっちゃったけど、知りたいのはSCを回すのにどれだけの動力を使っているか?だった。
で、色々技術資料を探すが見つからない。
唯一見つかったのがLysholm社の資料
なんか頭痛がするチャート・・・・
まあ、イートンTVS R1320のマップと比べてみると、吸入空気量似てるので、これを参考にしようと思うが、メーカー名がLysholmなのでリショルムタイプのコンプレッサーかもしれません。(写真見るとルーツのようにも見えるしはっきりしません)
S4のプーリーによる増速比はAPRというチューニングメーカーから増速用プーリーが出ており、この
データが参考になり標準で2.4程度の増速となる。
で、先ほどの米国AUDIのPDF資料にエンジン回転数と過給圧の関係図が出ており、こんな制御をしている。
前図のコンプレッサーマップに水平方向太い水色の線は私が入れたもので、問題はこのチャート回転数の表示が抜けており、推定で一番右の縦線が15000RPMと考えると、増速比が2.4なのでエンジン回転数6250RPMとS4の最大出力近辺となる。
この時、この頭痛のするマップの消費動力のラインを読むと35KWとなる。
馬力にすると
約46馬力
結構でかい・・・
ちなみにエンジン回転数3000RPM程度だと、このS4のSCはバイパスバルブを全開に開けて過給していない。
S4の実際のトルク曲線が2500RPM程度でフラットになることから、一致はするが何故もっと低い回転でも過給しないのか?
SCのメリットがエンジン回転数が低くても有効な過給が出来るはずでは?

これがS4に載ってるTVS R1320のマップデータになるが、SCで7000RPMのラインより右が断熱効率が高く、左側(より低回転)での効率は下がっている。(チャートの青色が濃い方が高効率領域をしめしてます)
ここで言う断熱効率とは、コンプレッサの理論効率に対して実際出来た空気圧縮の結果を比率で表したもので、効率70%と言うのは10馬力使って有効な空気圧縮に使えたのは7馬力だけ、残りの3馬力はケーシングの隙間からのリークとか熱損失だとおもわれます。
何故SCの効率マップがこうなるのかよく分かりませんが、とりあえずチャートで言うと圧力比1.6前後、空気流量700~800m3/hr程度が最も効率が高い領域となる。そのときのSC回転数が9,000~12,000RPM程度
つまりエンジン回転数で3000RPM程度が過給の始まりとして最適な設定ということだろう。SCの駆動は固定サイズのプーリーで行っているので、増速比を大きくしすぎるとエンジン低回転での圧力比をあげられても、高回転時にSCの回転限界を超える結果となってしまうので、おのずと増速比の設定には限界がある。
ちなみにSCは常時回っているわけで、OUTの空気をバイパスバルブを開けてそのままINに吸わせているというのは、SCをただ回しているだけで圧縮仕事をさせていない状態になるが、SCの回転抵抗や空気の流動抵抗は損失にはなる。
結果チョイノリで市街地をウロウロ走ると燃費は非常に悪いという結果になる。
AUDIの次期3Lエンジンはツインターボになるようで、SC使うエンジンもこれが最後だろうと思う。
しかしSCに喰われてる40馬力相当、これがターボ化されればそのままエンジン出力に上乗せされるのかと思えば、次期エンジンも333馬力とか・・・
余裕で残してるのか、SCエンジンが悪かったと思われたく無いのか・・・
しかし過給エンジンは難しい。
なにか良い技術書とか参考文献ご存じの方教えてください。