2023年12月29日
貧乏がお金持ちに勝つとき
わたしも若い頃、とくに学生時代はほんとにお金がなかった。
バイトはしてたけど楽器とかスタジオ代に出ていくし、生活は交通費も含めて一日500円。
食べものは一日1個のヤマザキの肉まんだった。
新宿のガードレールに腰掛けてて「ごはん食べない?」ってナンパされたら、消防士さんの緊急出動より俊敏に「はいっ」とどんな人にでも笑顔でついていき、お腹が満たされているときは誰に声をかけられても見向きもしない。
その生態が同じであることから、仲間からは「野生の虎」と言われていた。
まあ遠い昔の話なんだけど、この間テレビを観てたらこんなCMが突然流れてきてびっくりした。
むかし若かった頃のrisaSpecに新宿でご飯を食べさせてあげたのに、なんだかんだとけっきょくうまく逃げられてしまうなどしてまったくその見返りがなかった人を探しています。
このときのご飯代のことを過払金といい、過払金は戻ってくる可能性があります。
たとえ「てんやの並天丼1杯」「コンビニおにぎり1個」のレシートでも構いません。
どんな小さなものでも泣き寝入りせずお電話ください。
電話番号は局番なしの0120ーリサ クイニゲ
24時間お電話を受け付けています。
おい、ふざけんなよ。
それは民法第95条の動機の錯誤により契約はそもそも無効なんだよ。
てゆーか契約すらしてねーし。
さて、前回のブログはわたしの文才のなさゆえうまく伝わらなかったので、でも今わたしはどうしてもみんなに伝えたいことなので、もうひとつ妄想ストーリーを考えてみました。
君には東京で暮らす娘がいる。
娘にはお金の苦労はさせたくないから、大金持ちでなくてもいいけどそこそこの安定した収入のある男性と結婚してくれればと願っていた。
ところが娘が突然「結婚したい人がいる」と男性を連れて東京から帰省してきた。
高いお金を払って私大を卒業させたのに、男は高卒で工場勤務。年収は200万円前後だという。
まじめそうな男ではあったが君は反対した。
そんなことを言ってあきらめる娘でないことは父親の君がよく知ってるはずだが、「結婚するならもうこの家には二度と戻ってくるな」と言ってしまった。
しばらくして妻から、娘に子どもが産まれたことを聞かされたが、そのときも孫の顔が見たいというよりは、これで娘は不幸な女になってしまったと思い、旦那にも貧乏なくせにやることは一丁前にするのかという怒りのほうが強かった。
それから6年経って定年退職した君に、孫が小学生に入学したという知らせが来た。
リタイアしてみると君でもなんか人恋しくなって急に娘と孫に会ってみたくなった。
そうなると君は元来カッコつけたがりなので、到底娘夫婦の経済力では買うことができない最新のゲーム機と小学生が喜びそうなソフトを聞いて何本か買った。
横浜から、工場の工員たちしか利用しないような電車に乗って君は娘のアパートを訪ねた。
想像したとおり築50年くらいの旧いアパートで、外階段は海風にさらされ錆びて崩れ落ちそうだった。
何年かぶりの娘を見て君はちょっと驚いた。
あのバカ娘がなんだか大人というか母親の顔になっている。
一緒に住んでた頃は誕生日だとかクリスマスだとか言っては高い洋服やバッグをせがんできたあの娘が、襟がくたくたになったTシャツを着て、額の汗を拭っている。
娘は君をアパートに招き入れるんだけど、どこか恥ずかしそうに見える娘の顔にちょっと悪いことをしたような気になった。
お茶を出してくれたけど話すこともなく、「そのふすまの向こうが寝室なのか」と意味なく聞くと、「それ、押し入れなの。」と言われた。
じゃあこのひとつの部屋でご飯食べて寝てるのか。
そしてまた2人は黙ってしまい、君は部屋を見渡した。
とても丁寧に暮らしているのがわかった。
旧いアパートだが、とてもきれいに掃除されていて、君が来るからとあわてて片付けたわけではないのがわかる。
高校生の頃、あんなに片付けられない娘で、何度も君は怒鳴ったのに。
そこへ孫が帰ってきた。
人見知りすることなく「おじいちゃん!こんにちは」と真っ直ぐの笑顔で言われた。
ほんとなら産まれるとき病院に駆けつけなきゃいけなかったのに、6年もほったらかしにしてた君に。
会ったばかりなのに、この子に好きになってもらいたい、この子にいろんなことをしてやりたいと君は思った。
そしてそのための用意は、もうある。
君はさっそくゲーム機の入った紙袋を持って、孫を外へ連れ出した。
なんだか娘の前では渡しにくかった。
ふだん孫は夕方まではひとりで、よくこの橋の上に来るらしい。
橋の上で、君は孫から「これおじいちゃんの」って日本酒の栓を渡された。
「こっちを上にして川に落とすの。いい? 1、2、3!」
言われるままに栓を落とした。
孫も落とした。
すると「おじいちゃん早く!」と孫は橋の反対側に走って川を見下ろす。
君も川面を見ると2人が落とした日本酒の栓が仲良く並んで海のほうへと流れて行った。
孫が興奮して「おじいちゃん初めて?」と聞くので、「うん初めてだよ」と言うと、「おじいちゃん天才だ。月桂冠は普通もっと遅いのに!」と目をかがやかせるのだった。
そして。
そして君は。
ゲーム機の入った紙袋をそっと背中に隠した。
ゲーム機の重さがそのまま恥の重さのように感じた。
今まで人生で恥ずかしい思いは何度かしたが、人間としての根幹を揺さぶられる恥ずかしさだった。
いったい自分は何をやってるのか。この長い人生で何を学んで偉そうな顔をしてきたのか。
まだ旦那は帰ってきてなかったけど、君は横浜に予約しておいたホテルに戻った。
帰り際、娘が「来てくれてありがとう」と言った。
そして「こんな暮らしだけど、わたし幸せだよ」と、そう言った。
君は少しでも力を抜くと娘の前でだらしなく大声で泣き出してしまいそうで、黙って頷き、「あの子は、いい子だ」とだけ言った。
橋から振り向くと安物のTシャツを着た娘は、まだ玄関に立って君に手を振っていた。
そして橋を渡り切って、やっと娘が見えなくなったとき。
君は。
初めて自分の娘に向かって深々と頭を下げた。
金持ちの心が醜くて、貧乏人の心が純粋だなんて、そんなこともちろん言わない。
言わないし、そんなこと思ってない。
むしろその逆のほうが多い。
しかしそれと同じような話で、仕事でも正しさを追い求めると、なぜだか組織では浮く。
わたしもずいぶん言われてきた。「組織で動いてることを理解しろ」と。
でも組織の長になった今だからはっきり言おう。
組織の論理なんて、それはそんなことを言ってる1人とか2人のエゴイズムを通す詭弁のことなんだよ。
お金があるとかないとか、組織で浮くとか浮かないとか、娘をどんな学校に行かせてどんな教育をしてきたかとか、そんなことどうだっていいんだ。
問題なのはただ「まっすぐ」かどうかだけなんだ。
今回タイトルを「貧乏が金持ちに勝つとき」としたけれど、ほんとはその二元論ではなく、「まっすぐ」かどうかの一元論なんだ。
わたしはけっきょく子どもを産まない人生だったけど、若い頃、わたしは自分に娘が産まれたら「きよしこの夜」の歌を教えるつもりだった。
そうしてこう言ってあげるつもりだった。
あなたは自分が思うとおりに生きていきなさい。
あなたが行きたいところに行きなさい。
だけど、もしもそれでどこか知らない街で寒いクリスマスの晩に冷たい雪の中でひとり凍えることがあったら、何も思わずこの歌を小さな声で歌いなさい。
あなたがどこにいても、必ずわたしがその声を頼りにあなたを助けにいく。
そんなふしぎなふしぎな歌なんだよ、と。
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Posted at
2023/12/29 00:19:08
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