あれは昭和21年。
わたしが進駐軍に追われて闇市を走って逃げていたときです。
ふいにおじさんに腕をつかまれ引っ張られました。
「娘、こっちへ来い」
「痛い!何しやがんだい!離しとくれよっ!」
そうしてわたしは今の銀座あたりの小さな小屋に押し込まれたのでござんす。
「いいか、娘。もう闇ゴメを盗むのはやめて真面目になれ」
「いいじゃないか!コメがないなら闇ゴメ盗んだって!あるところにはあるんだろっ」
「娘。ここにコメがないならあっちから・・そういう進次郎のように短絡的な考え方をしているからダメなのだ。おまえさんは今日からここで鰻を焼くのだ」
これが東京大空襲の最中でも鰻を焼き続け、その煙でB-29を1機だけ追い払った伝説の鰻職人、辰吉さんとの出会いだった。
そうしてわたしは「うな辰」の看板娘となり、昭和30年にはスマホで鰻の予約ができるシステムも開発し、うな辰の名を全国に轟かせ、あれから80年経って17歳になったわたしは史上最年少の鰻職人として殿堂入りしたのでござんす。
しかし昨今、みんカラ民は、車のパーツにお金がかかり、鰻を食べられないと聞きました。
そこで今日はその鰻一筋80年のわたしが、80円でできる鰻丼のつくりかたをお教えいたします。
以前、スーパーの鰻を、専門店の味に変える方法を紹介しましたが、今回はそもそも鰻すら必要ない鰻丼です。
まず鰻は買ってこないで、キッチンでつくります。
はんぺんとお豆腐(木綿)。
いやいいから。ちょっと黙ってろ。わたしを誰だと思ってるのよ。
これに鰻の脂としてラード、そして、かつおだしを入れます。
これだけでもう不思議と鰻の香りです。
これを混ぜるんですが、フードプロセッサーでもいいけど、ラードが入っててあとで洗うのが面倒なので手でこねます。手でこねるというか、泡立て器で混ぜました。
次にこの「身」を「皮」になる海苔に載せます。
剥がれないように海苔に片栗粉をまぶしてから身をのせて形を整えます。
そしてペティナイフで切り込みを入れます。
これは鰻の骨の跡をイメージしてみたんですが、ただ見た目だけではなく、食べているときにこの切れ込みで身がほぐれる感じが鰻そのものなのです。
これを焼いていくんですが、まずは身のほうから。
身が柔らかすぎてひっくり返すたびに崩れるので、もう少し焼き色つけたかったけどここまでにしておきます。
ここに秘伝のタレをかけてしばらく煮詰めます。
とにかく柔らかすぎたので、切り込みも、かたち整えるのも、フライパンでひっくり返すのも、盛り付けもうまくいかなかったので、お豆腐はもっとしっかり水切りしたほうがよかった。
なので盛り付けても崩れまくりだけど、でもペティナイフの切り込みで、崩れかたがもう魚でしょ?
みなさん。
これはマジで鰻です。
本当に鰻です。
、、てゆーかね。
これのニセモノが鰻です。
すごく不思議なのは、海苔の味や食感が、本当に鰻の皮なのです。
まあ、君たちがさ。
鰻を食べたいのはわかるよ。
でも今や鰻は高級食材で手が出ない。
しかしそれでもなぜ鰻を食べたいのか。
鰻を食べると鰻の何についてどんな満足感が得られるのか。
その要素を一つずつ取り出して、それをパズルのように再構築することを考えよう。
これはわたしがお仕事でどうしても行き詰まってしまったときによく使う水平思考法なんだ。
すると姿かたちは違っても、問題は取り除けて、かつ、達成すべき目標は果たせてる。
君たちはモニカ・ベルッチやアンジェリーナ・ジョリーと付き合ってみたいでしょう。
でもモニカ・ベルッチなんかイタリアの宝石だからね。
ブリヂストンがほしいけど今回はアジアンタイヤにしようかなあなんて考えてる君には無理だ。
でもさ、モニカ・ベルッチのどこがいいのか、モニカと会えばどんな満足感があるのか、そのエレメントを一回抜き出して組み立て直すと「なんだ、risaSpecでも充分満足できるじゃん」ということに気がつくだろう。
ただね、君にとっては「risaSpecでも充分満足できるぞ」とお手軽感は増したのだろうが、君にはそのrisaSpecでも無理なことをよく心に刻んでほしい。
この鰻丼はびっくりするほどの低カロリーなのでダイエットにもいいです。
材料費は一人前で約80円。
そもそも君たちがお金ないのは思考がダメなのよ。
おいしいものを食べるなら、お金を出さなきゃという垂直思考がダメにしてる。
おいしいものを食べたいなら、おいしさのエレメントを抽出して水平思考で再構築すれば、80円で体にも良くておいしい鰻丼が食べられるのだ。
Posted at 2025/11/09 18:59:21 | |
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