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2023年03月27日 イイね!

東京

ランチでおそば屋さんに行ったんだけど、混んでてカウンター席に座った。
すこし遅れてすぐ隣に初老の男と青年の2人が座った。

「さっき見た部屋のほうが新しいけど、収納は少ないよね。その前の古いアパートでいいかな」

「がんばって東京の大学に入れたんだ。家賃のことなら気にしなくていいんだぞ?」

みんなは東北訛りのこの会話でこの2人の関係や今の状況がわかるだろうか。
わたしくらいになるとこれだけの会話でこの2人のすべてがおそろしいほどにわかってしまうのだ。

父の名は権蔵。
青森の工業高校を卒業し、大きな工場に就職。
ずっとがんばって働いてきたのだが、子どもが産まれてまもなくリーマンショックで工場が倒産。
それでも小さな町工場に転職し、より一層仕事に励む権蔵であった。
しかし妻の涼子は、そういう地道な権蔵とのくらしに不満を抱き、週末には仙台のホストクラブに通い権蔵のお金を使い果たした挙句、若い男と夜逃げしてしまったのだ。

涼子がその後どうなったかは、さすがのわたしでも「さっき見た部屋のほうが新しいけど、収納は少ないよね」「家賃のことなら気にしなくていいんだぞ?」という会話だけではいまいちわからない。
ただ「収納」と言っているので、若い男の名前は修造であることくらいはわかるのだが、射手座なのか天秤座なのかがわからない。

息子の竜也はそんな権蔵を尊敬しており、グレたり反抗することもなく、中学の頃、建築家になりたいという夢を持った。
それは権蔵に、いつか自分が設計した家をプレゼントしてあげたいと思ったからだ。
そこで工業高校の建築科に進学しようと考えたが、権蔵は工業高校への進学を強く反対した。
なぜなら権蔵は工業高校のときに初恋をし、その相手こそが商業高校の涼子だったからだ。
そこで普通高校に入り、この春、東京の大学の建築学部に合格したのであった。

権蔵が席を立ち、トイレに行って戻ってきたとき、わたしの座っている椅子にすこし体を当ててしまい、あわててわたしに「すみませんすみません」とぺこぺこおじぎをしてそのせいで今度は自分のお茶をひっくりかえしてしまう。

わたしは彼に「そんなそんな」と言いながら、立ち上がってすばやくカウンターにあったティッシュでこぼれたお茶を拭き、「だいじょうぶですか?」と衣服にお茶がかかっていないか気遣うと、親子はとても驚いた顔でわたしを見た。

そして「東京にもこんなにやさしい女性がいるんだねえ」と父親は息子を振り返った。
そして「今も東京の地下鉄できれいな女性ばかりで驚いてましたが、心の中まできれいに見える女性は1人もいなかったです」と言うのだった。

いやいや。そんな勘違いをされてしまっては東京の女たちもかわいそうなので、わたしはちゃんと言ったよ。

「東京にもいろんな女性がいるんですよ。でも東京でやさしい女性って、じつはわたし1人なのです」

「そうでしょうねえ。私たちは田舎者なんで、どうも東京の女性は冷たいという思い込みがあるんですが、やっぱりそうなんですね。あなただけなんですね。ただきれいな女性は確かに多い」

いやいや。この誤解も解いておかなければならない。

「東京には芸能人もたくさん住んでいます。モデルさんも女優さんもアイドルも。でもじつはほんとうにきれいな女性は・・」

すると息子のほうがすかさず「おねえさんだけなんですよね!」と口をはさんだ、

そこでわたしが「いやあこれは一本とられましたな。わっはっは」と笑うと、周囲のお客さん達もみんなが「ちげーねーや」と笑うのでした。

食事を終えて立ち上がると、お父さんがわざわざ立ち上がってわたしにおじぎをした。

「これからいろいろたいへんでしょうけどがんばってください。権蔵さん」

「ええ? ど、どうして私の名を・・・」


東京に、また春が来た。
スマホのMAPを片手にきょろきょろしている若い子を見ると、わたしもかつて初めて東京に来た日のことを思い出す。
そのとき胸に抱いていた夢はいつか東京の道路の脇に紙くずと一緒に吹き溜まり、いつかこの青年も父親の「元気でやってるのか?」というLINEを既読スルーで、寒い東京の街をポケットに手を突っ込んで急ぎ足で歩くのだろう。
人に傷つけられ、人を傷つけ、そしてそのどちらにも苦しみながら、いつか新宿の横断歩道を人にぶつからないないよう自分でいやになるくらいじょうずに渡っていく。

ちがうんだよ。
都会の生きかたとか、東京ではこう生きるんだとか、社会ってこうだとか、そいうこと考えたり言ったりしてるヤツこそがもっとも社会や都会に呑み込まれた東京の負け犬なんだ。

わたしは東京に来た頃、あと1人しか乗れなさそうな満員電車に乗ろうとしたときサラリーマンに突き飛ばされて横取りされた。
だからかろうじて電車に乗ったその男の髪の毛つかんで再びホームに引きずり出したんだ。
こういうときわたしは上履きを隠されてしまった少女のようにうつむいて力なく小さく笑ったりはしない。
「おいこらおっさん 何かましてくれてんねん」ときちんと言うのだ。
何しろ東京でたった1人の礼儀正しく心やさしい女なのである。

都会のカルチャーに合わせるな。
もっと自分を信じろ。
東京に、自分のカルチャーを押し込むんだよ。
Posted at 2023/03/27 18:59:48 | コメント(10) | トラックバック(0) | 日記

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