信じられるのは自分しかいない。誰も信じられない。自分のことは自分でやってきたと思ってた。
でも動き出した電車の窓にふるさとの風景が後ろへ後ろへと流れたときに込み上げてきた涙に、君は初めて「そうではなかった」と知る。
地元ではミスなんちゃらとか言われ、仲間達からは東京行ったら男に気をつけろよとあんなに言われたのに、道玄坂で声をかけられたら宮下パークへの行き方聞かれただけで。
「田舎から出てきたばっかでわからないです」と答える短いスカートが悲しい。
いつも大人たちを小バカにして、「あんなふうにはなりたくない。わたしは突き抜けるんだ」とかっこよく東京に来たけど、乗り換えの山手線のホームではその大人たちに次々に突き飛ばされて乗りたい電車にすら乗れない小さな小さな存在でしかないことを知った。
いいかクソガキ。
東京という巨大な街では君が思うとおりの行き先へ向かう電車になんか、君は乗れないんだ。
わたしはけっして若い君たちの追随を許さない。
君たちが小バカにする、誰かの顔色を伺いながらビクビク生きる、右の拳を左手で包んで寂しく笑ってそれが大人だとか笑う、まるで勇気のない時代の川柳が歩いてるような大人というカテゴリーに、わたしを入れるな。
それでも。
だけど。それでも。
どうか。
「サスティナブルな事業」がどうとか、「女性独自の視点で」とか、そういうふざけた話はずっとずっと遠くに聞きながら、黙々とシャベルを地面に突き立てて、傷だらけの体で閉まりかけるシャッターに次々と滑り込んで。
<あの長い長い長い冬の中で死んでしまいそうに凍える魂をたった1人で泣きながら必死で温めて。>
そしてまたお尻の埃をパンパンとはらっては、くたばってた路地裏から泥だらけでまたメインストリートへ何度も何度も何度も全力で走って行け。そうして、いつか。
そうしていつか。
今から遠いいつか。
その日、ぬくもりの奥に冷たさがあるような、それとも冷たさをぬくもりが包むような、今日のような春の風が吹く年老いた丘の上で。
もう主人公ではなくなってただの風景のような姿になったわたしは君を待ってる。
君がわたしと同じ瞳で来ることを、信じてる。
君はきっとそこへ来るだろう。
だって君は遠い遠いあの日の、わたしと同じあの道を駆け抜けてきたわたし自身だから。
そのとき初めてわたしが君を褒めるから。
だからどうか君に。
どうか世界の誰より愛しい君に、もう冷たくなっていくわたしの身体を最後にそっと抱いてほしい。
「あなたがわたしでよかった」と。
<あとがき>
わたし、天才?
Posted at 2024/03/05 01:46:48 | |
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