
今回は自分の中ではホットな話題だったアルキルナフタレン(AN: Alkylated Naphthalen)について。
ANはAPI GroupⅤに分類される基油ですが、その他という扱いなのであまり意味がないですね。
(KING INDUSTRY, KR Series 商品説明書より)
KING INDUSTRYの資料ではその他の基油との比較では上記の通り、酸化安定性、熱安定性、加水分解性、添加剤との相性、膜安定性全てにおいて良好な性能を有しています。
(ExxonMobile Chemical, ExxonMobile Advaced Synthetic Base Stocksより)
唯一VIのみが他と比べてやや劣るとされています。実際に上記はExxonMobileの商品のデータになりますが、PAOに比べると粘度が低いです。Synthetic 12であれば丁度良さそうなのですが、基本的にautomotive向けとされているのは粘度の低いSynthetic 5の方です。理由は調べきれていません。
(ExxonMobile Chemical, ExxonMobile Advaced Synthetic Base Stocksより)
また、Esterとの比較では共に添加剤の溶解性は良好ですが、Esterのように極性によって電気的に金属に吸着しないため添加剤の性能を阻害しないとされています。具体的には金属表面で効果を発揮するFM剤についての記載と思われます。
ANの特徴はその驚異的な劣化耐性にあると言えそうです。
下の3つのデータはKING IndustryのKR Seriesの商品説明書からの引用です。
熱酸化安定性

150℃の高温と空気、鉄・銅の触媒を混合して行う、熱酸化安定性を見る試験の結果です。上が酸化物質の経時的な量の変化、下は粘度増加の変化を表したグラフです。
ちなみにベースオイルは劣化すると粘度が上昇していきます。その成れの果てが乳化したオイルですね。
これを見ると経時的に見てもANが酸化されにくく、粘度も殆ど変化しないことが分かります。一方で面白いのはdiesterが酸化物が増加しても粘度増加はマイルドなこと。酸化防止剤(AO: AntiOxydants)を配合したGroup Ⅲの性能が意外に良いことです。勿論、他の基油も酸化防止剤を入れれば性能は上がるんでしょうが、結構良いじゃない⁉というのが個人的な見解です。
Group Ⅲ oilへの添加

このデータはANをGrup Ⅲの基油に配合したときの熱酸化安定性を測定したものになります。縦軸は酸化までの時間、横軸はANの配合率です。
当然ながら配合率が高い程酸化には強くなりますが、50%付近で効果が鈍化することが分かります。コストとの兼ね合いですが50%以上配合するのはコストパフォーマンスが悪くなりますね。
酸化防止剤との配合

Group Ⅲの基油とANにそれぞれ0.2%酸化防止剤を配合した場合の酸化までの時間です。
左から酸化防止剤無し、DTBP (Di-Tert-ButylPhenol)、ZnDTP (Zinc DialkyldiThioPhosphate)、DPA (DiPhenylAmine)を配合したものになります。
どの酸化防止剤もANとの相性が良いようですね(特にDPA)。ANを配合することで酸化防止剤の性能をboostできるかも知れません。
ANの配合率
(ExxonMobile Chemical, Synthetic lubricant base stocksよ formulations guideより)
ANはベースストックとしても非常に優秀ですが、コスト的に現時点では添加剤的に使用するのが主流のようです。
個人的にはANの最大の効果は熱酸化安定性にあると思います。また、酸化防止剤などの添加剤のboosterとしての効果もといったところでしょう。そういった観点からは添加することで寿命を延ばすことが最大の効果と言えるでしょう。
問題はどの程度添加するかと言うところですが、一つの答えが上記の資料だと思います。exxonmobileのformulationではANの配合量はエンジンオイルでは10%、ミッションオイルでは20%となっています。
となると、エンジンオイルでは自分の交換サイクルを考慮して5%位から始めて、交換までに劣化が気になるのであれば配合量を増やすのが良いのではないでしょうか。ただし、自動車用はVIが低いので配合量が多くなると柔らかくなるので注意が必要です。
長々と書いてしまいました。ANも購入してみたので、そのうちに実験してみたいと思います。
Posted at 2020/01/25 15:51:53 | |
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