
A君が生息する地域は国内でも屈指の,車好きの人口密度が高い地域。
晴れた日曜の朝ともなれば,鼻先に馬蹄,豹,ロレックスみたいな王冠,四つ葉のクローバー,三ツ矢と輝く蛇腹の排気パイプがいっぱい,どでかい航空機エンジンを搭載したの・・・といった戦前の主立ったグランプリ・レーサーすら犬の散歩の如く,オイルの焼ける匂いを漂わせながら,ごく自然に走っていた。
牛馬ですら正に「牛馬の類」といった風情で,さほど珍しくもなかった。
雑誌の表紙を飾った,本来は博物館で鎮座すべき歴史的価値の高いものや,輸入開始直後のニューモデルそのものが,ごく自然にスイスイと走っていた。
私でさえ,それらのステアリングを自ら握って,遠出する僥倖にあやかったこともあった。
表紙から飛び出した車達がそこかしこに走り回り,時代と国境を超越した情景が繰り広げられていた。
「カエル」に至っては振り向かれることすらない。1年生の頃に比べ,すっかり大人の領域にまで行動範囲が及んだA君としては,その領域でもインパクトを及ぼし得るウェポンが欲しかった。
当然ながらそういう目的としては,昨今と同じく馬が最有力候補になる。しかしその頃の馬の12頭立て主力モデルは,スタイルこそ流麗でありこそすれ,あまりにもまとまりすぎで落ち着いており,似合う年齢層が上過ぎた。
そんなころ,馬の因縁の対決相手,牛との最高速競争での首位奪還を果たすべく,衝撃的なモデルが発売された。挑戦的なスタイル,レーサーばりのレイアウト,官能の排気音,世界最高の性能,どれを取っても,「赤いベベ着た号」はA君のウェポンとして,全くケチの付けようがないものだった。
「これだ! 待っていたのは」
A君は即決した。
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通学快速 | クルマ
Posted at
2007/02/15 21:18:45