
乗ってはいけないものに乗ってしまった。
以前からCE☆LS☆Iさんから「C6」と聞く度に,おっさんの脳内にはこっちのイメージが浮かんでいた。
「そうそう。CE☆LS☆Iさんの愛車はこっちじゃなくて・・・」
と毎回,脳内イメージをクリアして,マッスル・アメリカンに描き直す。毎回この操作をしている。
現在,唯一の仏大型セダンであるC6である。
「全長 4,910・・・長い」
「全幅 1,860・・・う~~ん」
「ホイールベース 2,900・・・腹擦りそう」
普段使いの取り回しの判断材料として,全長・全幅は直感で判るが,ホイールベースは使って初めて判る盲点だ。
ロング・ホイールベースで最低地上高の小さな超高速巡航用欧車は,グルグルと坂を回って上がる立体駐車場では,スロープの頂点で腹を擦りやすい。
頂点ではドアを開けたまま,車体の底とコンクリート間の隙間を手探りで計りながら,怖々しずしずと登ることもある。
デパートなんかではよくあるタイプの駐車場だ。混んでいて最上階までなんてなると厄介だ。ただしコイツには他の車では真似のできない特技がある。いざという時にはスイッチ1押しで車高を10cm上げられる。
やはり足車としてスーパーの駐車場には
「でか過ぎる」
理性で打ち消しても,どうしても頭の片隅から常時離れない「こっち」に先日,接して来た。
で,感想は
「乗らなきゃ良かった」
ショールームの中ではさすがにデカイ。
が,路上に出すとそうでもない。可愛らしさすら感じる。成熟したダイナマイト・ボディって言うより,成長の早い女子中学生って感じか。
「大きい=偉い」の風潮ゆえ,このセグメントでは実寸よりさらに大きく見せる押し出しをユーザーは求め,デザイナーもそれに応える。
それに反し,このメーカーは「獰猛」「押し出し」「偉い」にはまるで無頓着で,とにかく創業時から「他と違う」を押し出している。私の心の琴線にも触れる。
外観も写真で見るよりイイ。不思議なデザインだが意外と日本の風景にも溶け込む。「噛んだろか!」と歩行者の血肉に飢えたかの如くの,歯を剥き出したマスクが時流だが,唇を閉じてそっと微笑んだつつましいマスクだ。反感や妬みも買いにくいだろう。
室内は圧巻。・・・私にとっては。明るいベージュで開放感に溢れる。このメーカーの従来を思うと質感も十分。北欧のシンプルで垢抜けた家具を思わせる。
ダッシュボードもウェスト・ラインもとても低く,明るい開放感に溢れる。両者の繋がりもデザイナーのセンスを窺わせる。
後席に乗っても閉塞感は全く感じない。ルーフはCLSを思わせるラインだが,後席に乗り込むと,あっちは「役立たず」と舌打ちしたくなるが,こっちは「誰か運転して,どっか遠くまで連れて行ってくれ」と言いたくなる。室内高に不満はなく,抑圧感は感じない。盛り上がった天井中央部が,さらにゆとりを強調している。
カタログの写真と数値狙いで,後席シートの前後長を詰めて,足元の広さを強調した姑息な国産高級車も多いが,足元は基よりシートの前後長も極めてゆったりしている。
後席の背もたれを倒せば,トランクとも繋がる。座面は前に起こして立て掛けられるのは伝統的な美点だ。それもリンクで前方に。
惜しむらくはトランクと後席との仕切の開口部が変形した楕円形で,さほど開放的ではなく,90x180cmの合板の搭載はきつそうで,タンスは無理だ。ワゴンもどきの実用性ではトランクの上下高を含めC5に分がある。DIY好きというか経済的に強いられる身分としては,ホームセンターで90x180cmの合板が,すんなり入るか否かは大きな判断材料の一つだ。
酷なことにオプションでリヤ・シートのリクライニングを選べば,この機能はなくなる。無理難題ではあるが,トレード・オフするには惜しすぎる。
本当はもっと少なくして欲しいが,現代の基準としてはスイッチ類も少なく,メーターはとても控えめだ。
「メーターやスイッチがいっぱい = 充実した装備」
の呪縛はナンセンスだ。
座った途端に「喧しい」と怒鳴りたくなる,グチャグチャとこれらが散りばめられた高級車が実に多い。航空機ですら「グラス・コックピット」化が進んでいて,高価なものほどメーターやスイッチは少なく,驚くほどすっきりしている。
最大の売り,乗り心地は「DSの再来」と期待が大きすぎたためか,走り出した途端
「ん? 意外に堅いな」
「出来のいい金属バネと変わらない」
何をしても「ゆらーり」のCXに比べても差は大きい。一般路ではコンプライアンスを奢った,金属バネの高級セダンと同レベルだ。いやハイドロの弱点,突発的なゴツゴツでは負けるかも。ピンと張ったクッションの堅い革シートも災いしている。太くてロープロファイルのミシュラン18インチ・ラジアルもだろう。レグノに代えればましになるかも。
ただし,今回は高速道路を走っていないが,もし高速道路を長距離を走れば,路面のうねりを見事に消し去るハイドロの最大の美徳を,きっと感じられると思う。荒れた区間で前車が上下にひょこひょこしても,こっちの目線は全く変わらないのは,ハイドロならではの美点だ。
エンジンはこの車の性格としては,必要にして十分。ATもアイシン製でZFより遙かに信頼がおける。外界からの遮音性は極めて高いが,エンジン音は存在を感じさせる。私は気にならないが,もしかしたら同価格帯の他車オーナーは,これだけで高級感に欠けると切り捨てるかも知れない。乗り換えはあまり考えられないが。
スピードに乗るまでは時間が掛かるが,一旦巡航状態に入れば,無類の直進安定性と正確なステアリングで,超快適にいつまでも最高速付近で巡航を続けられる・・・というポリシーとしては,むしろ小排気量のほうが知性を感じさせる。日本では3L V6のみだが,本国仕様では2.2L,2.7Lのたー坊ディーゼルもある。
総括として非常に出来はいいが,いかんせんグローバル・スタンダードを意識しすぎたきらいがある。ライバルとの比較なんぞ元々しない,DSの再来を望む物好きも,少なからずいると思う。
コーナーで「大丈夫かいな?」と思うぐらい「グラーッ」と傾いても構わない。「こんな非力でも,こんなに早く疲れずに着いた」がこのメーカーの真骨頂だ。
希望を言えば
○ファブリックのフカフカのシート
○小排気量で非力だがタフなエンジン。フル加速時には壊れそうな音でも構わない,かえって頑張りが感じられる。
○ハイトの高い細くて踏面の柔らかいタイヤ
(キャリパーとの隙間からして,1インチ,うまくいけば2インチの「インチ・ダウン」はできそうだ)
○電子制御は最小限に
(やはり壊れた時のことを考えてしまう。電子制御でいじくり回すのは他社に任せておいて,土台で勝負)
○タンスでも気軽に飲み込むスペース・ユーティリティー。できればブレーク・モデルも
で,エントリー・モデルは4束後半の価格。後席においてもSクラスのロングを凌ぐ快適性を1/3の価格で実現できれば痛快だと思うが。
余談だが,日本のカタログ上では制限されているが,仕様についてはある程度の融通は利きそうである。例としてボデイ色と内装色の組み合わせとか。
「全てを忘れて,どこまでも走り続けたい」
手持ちの金を使い果たすまで帰らない。現実逃避には持ってこいの車だ。「走って行ける」車は多いが,やはり「走り続けたい」とは根本的に異なる。できれば後席でデレーッとして。
期待が大きすぎた反動で辛口のインプレッションに終始したが,やはり欲しくなってしまった。
「乗らなきゃ良かった」
Posted at 2007/02/03 01:55:49 | |
ハイドロ | クルマ