
年齢の近い男兄弟は仲が良く,小さい頃から遊ぶ時も行動を一にすることが多い。そんなある男兄弟の話。
二人とも無類の車好きで,同じ大学に通っている。一台の車を共同で使っているため,通学も遊ぶのも一緒にが,どうしても多くなる。
ある日,車を買替えることになった。どの車種にするかは趣味もセンスも似通っている二人,比較的スムーズに決まった。ところが,どうしてもお互い譲れないことがあった。
ある夜,普段から殆ど喧嘩もしない二人が,夕食後に何やら揉めている。最初はぼそぼそ声で始まった言い争いが,徐々に熱を帯び,お互い声を荒げている。
離れていた所で,仕事から帰りくつろいでいた父親が,何事かと二人の間に割って入った。段々とエスカレートし,一向に収まる気配がなかったからだ。
今回の購入車種は,アメリカ人の間でも「キャディ」つまりキャデラックと同時所有するのが,成功の証とされているスポーツ・カーである。大排気量アメ車の中でも特に高額な車種だが,それを購入すること自体は父親も承認済みだ。
「二人共,何を大きな声で喧嘩しているのだ?」
家庭内の揉め事が大嫌いな父親まで,巻き込んだ事態に兄弟は少し後悔した。でも譲れない一線でもあった。
興奮で顔を赤らめた弟が口を開いた。
「兄貴がどうしてもオレンジ色にすると言って聞かない。白のほうが絶対似合う」
「何,言ってるんだ。白なんぞありふれていて,面白くもない。オレンジに決まっているだろうが」
「あんなケバケバしい色のどこ良いのだ。ケバイのは女だけにしとけ」
中古車なら状態とか価格を優先し,色は後回しになるのだが,新車購入ということで,選択肢が広いのが災いしている。双方一向に譲る気配はない。
普通の父親なら,今回は兄貴を立てて次回は弟の好みを,ジャンケンで,真ん中を取ってクリーム色,いっそ橙白のツートン・カラー,左右で塗り分け・・・とかを提案するだろう。
しかしこの父親は息子達でさえも,考えが及ばなかった解決案を提示した。常識ではまず考えられない。
「何をつまらないことで揉めているのだ」
「たかがそんなことで喧嘩するな。大事な兄弟,これからも仲良くしろ」
かくして,大学の近辺で一心同体かのごとく,ぴったりとくっついて,走り回るのが見かけられるようになった。ただでさえ目立つ大型スポーツカー,腹にも響く合計16気筒のインパクトは二倍どころではなかった。
その頃の私はもっぱら解体屋さん巡りをしていた。
もし私がそのお宅に生まれていたら,2台分を1台にまとめてお馬さんにグレード・アップし,もう一度喧嘩をおっ始めていたかも知れない。
Posted at 2006/12/11 16:54:39 | |
通学快速 | クルマ