
入学とほぼ同時に免許を取ってすぐに,おむすびがクルクル回る車を買って貰ったA君。国産車の中では比類無き高回転のスムーズさ,パワー,燃料消費量を誇っていた。
ダッシュは国産最強。とても速かった。真っ直ぐ走る限りにおいては,動力性能には何らの不満はなかった。曲がったり,止まったりさえしなければ。
A君が所属する体育会は少し特殊な種目で,練習や試合には広大な敷地を要する。従って毎日の練習場所は遠くの山の中。日没前に練習を終えた後には,A君には毎日欠かさず遂行しなければいけない大事な任務がある。決められた時間までに戻り,遅れは決して許されない。
道中は山あいのワインディングで信号も通行量も少なく,かなりのペースで走れる。真っ直ぐの1本道なら「通学快速 おむすび号」でも間に合うのだが,当然曲がったり,コーナー直前ではブレーキングも必要だ。
車の能力いっぱいを使っても遅れる日が目立ってきた。今と異なり携帯電話のような文明の利器はまだ無かった時代。遅れを知らせる通信手段は狼煙ぐらいなもの。
遅れるとA君は強烈な叱責を受け,その後の予定もキャンセルされることもしばしであった。
「通学快速 下駄号」は曲がる,止まるに関しては要求水準に合致するが,いかんせん非力で直線区間では「おむすび号」の後塵を拝する。
「通学快速 牛号」はかなりの水準だが,いかんせん幅が広く山道ではペースが鈍る。舗装の荒れた所ではお腹を擦ってしまう。何より練習時に必要な道具を載せるスペースがない。
「通学快速 秘密諜報員英国海軍中佐御用達号」も,今一そのコースには不向きだ。当時メンテとパーツ供給に不安があり,一旦工場入りしたら退院時期はおぼつかない。またその車体の特殊構造ゆえ,クラッシュしたら国内での修復はほぼ望めない。
A君困った。
Posted at 2007/01/11 06:13:28 | |
通学快速 | クルマ