
将来,経営者の座を確約されているボン達は,就活なんぞ下須のやること,卒業後留学することが異常に多かった。
当然ながら,それに増して,夏休みに短期留学や海外旅行する者は多かった。
なお,私はそんなのとは無縁な生まれ育ち。当時は日本全体が危機の時代,「本年度採用予定無し」が常識で,就活も思い切り苦労した。内定後も自宅待機全盛の頃だ。自宅待機の新入社員をまるごとキャンセルして放り出すことや,他社に売り飛ばし。何でもありの時代だった。
B君は入学早々,帝王学を学ぶ手始めに,夏休みに大英帝国にに短期留学することになった。
ちなみにあちきは,アリスの歌そのまんまで「飛び散る汗と,炎の中で~~♪」の歌詞通り,昼間は溶けた鉄を浴びながらのバイト,夜は家庭教師と,殆ど死に体だった。
車好きのB君,留学先で暇なときには車屋巡りに明け暮れた。
ふと立ち寄った店に,まさに「それ」があった。ロンドンと言えども,そうそうその車が走っている訳ではない。
B君にとってはハリウッドの映画スターに,道で偶然会ったようなもの。
英国といえばジェームズ・ボンド。ボンドの愛車と言えば,今でもやはり明日豚がぴったし来る。
イタ車もいいが,やはり伝統から滲み出る気品は明日豚がピカイチだ。
それが放つオーラに,B君は圧倒されると共に一目惚れしてしまった。
「これクレ」
決済方法,輸送,通関,排ガス検査,新規車検登録,メンテナンス・・・
B君はそんな言葉すら知らないし糞くらえだ。意志決定さえ伝えれば,本国のスタッフ達が何とかする。幼少からの今までと同様に。
B君にとってはミニカー購入と,さほどの差異はない。縮尺が1/1になるだけだ。
かくして樹木が色付く頃,「王室海軍中佐御用達号」が「なんちゅーのに乗って来るんじゃぃ戦隊」の戦列に加わることになった。余談だがメルセデスやGTRでは,ありきたり過ぎて戦列には加われない。
デカさもさることながら,映画からそのまま出て来た容姿は,やはり目立った。
以下は単なる妬みだが,デザインの優雅さとは裏腹に,とても想像できないが,まさに「漢の車」。操作系の重さを始め,とても荒削りな車だ。ドライビングは「流す」というイメージからは程遠く,「車と格闘する」が相応しい。
一言で言えば
「とても速いトラック」
無骨さの例外として「フライ・オフ」式のサイドブレーキ・レバーは,右側運転席のさらに右側に位置してたと思う。左隣のお嬢様との楽しい語らいの一時を,何かと邪魔してくれる,忌々しいレバーは二人の間にはない。私には何のことかさっぱり分らぬが,その有り難みは分る人には分るそうだ。
まさかそのための設計とは思えず,サーが付く英国紳士にとっては,不要な計らいだろう。
彼等には,やはり氷いっぱいのバケツの中で,汗をかいた「ピンドン」と大粒の苺の山盛りを傍らに,汗をかいたお嬢様と語らうのが似合っていると思う。
Posted at 2007/01/26 22:10:53 | |
通学快速 | クルマ