
私の好きなカテゴリーの一つはバトル・スーツだ。
特殊な環境で,その任務を果たすスーツ。思わぬトラブル時にも,しっかりと人間の身体を守ってくれる。
色々と特化したものがあるが,身近なレーシング・スーツであれ,それを纏いブーツとグラブとそしてヘルメットを装着すれば,意識は戦闘態勢に突入する。
バトル・スーツ色々あれど,特に過激な環境での使用を想定して,コスト度外視で材料を奢り,開発に莫大な手間暇を掛けたものは,マニア心をくすぐってくれる。
戦闘機パイロット用の「耐Gスーツ」もイイ。特に高度2万メートル以上を時速3,500kmで飛行する米空軍の偵察機「SR-71」専用の完全機密与圧服なんか,その機能美は鳥肌ものでゾクゾクし,裸エプロンと双璧をなす。ちなみにその速度域では10時間ちょっとで地球を1周できる。(ただし実際に1周するには空中給油が必要)
そしてガンダムを除き,バトル・スーツの究極は宇宙服だ。もちろん船外作業用の宇宙服。
アポロ計画では20着が製作され,総額は200億円に達した。
「本物に聞いてみよう その2 光体」で前述した船長と会ってから数年経った頃,ひょんなことからアポロ計画の生の内部資料に触れる機会に恵まれた。
中でも宇宙飛行士自らが記した船内持ち込みの膨大なメモが面白かった。特に船内トイレの使い方なんか。もっとも「乗組員,皆兄弟」になるのには抵抗感が残るが。
私はこうした普段メディアに紹介されず,当事者のみが知る資料や情報が大好きだ。
そして圧巻は「宇宙服」。しかも人類で初めて月面に降り立った個体そのものズバリ。
ロープ越しに,数メートルの距離からしげしげと眺めていた。
現物を見る前は,真空の宇宙空間で身を守る物。
陽の当たる側は数百度,影側は絶対零度のマイナス273度に晒される。表面温度の勾配はとてつもなく過激だ。しかもそれが人間の動きと共に,瞬間的に上限値か下限値のどちらかになる。
当然ながら,さぞかしぶ厚くゴツイ物だろうと想像していた。
で,最初の印象は
「んっ!? これ本物?」
過去によく見たヘルメット潜水用の潜水服に比べると,遙かに軽快で華奢な作りだ。
これなら着たままでバイクでツーリングに行けそうだ。空調完備で真夏も真冬もヘッチャラだろう。
「へ~~。こんなので大丈夫なのだ・・・」
むしろ大仰な身なりではなく,役目はしっかり果たす,さりげない作りに仕上げるのに,膨大なコストが掛かっているのだろう。人間も同様に,凄い本物ほど見かけは意外とさりげない。
そして千載一遇のチャンス到来。たまたま関係者や警備員が不在になった。
一着の平均価格で10億円。しかもこれはファースト・ロット物なので,量産効果にあやかれず,それの数倍のコストかも。さらにプレミアム的な価値を足せば天文学的数字になる。
価値の計り知れない「お触りタイム」の期せずしての到来だ。
敢えて金額換算すれば,私にとってはミスユニバースの選考会場で,各国代表をずらりと並べ,
「片っ端から触りまくっていいよ!」
に匹敵する。
斯くしてあらゆる所をドキドキしながら触りまくった。心拍数が上がり,喉が渇く。
「痴漢もこんなのかな?」
という想いが一瞬脳裏をよぎる。
「えっ? 薄い」
「ゴワゴワしていない・・・」
「柔らかい!」
感覚的には,アラミド繊維,いわゆるケブラー生地を使った,一部のレーシング・スーツやモトクロス・パンツの触感に近い。それらを少しぶ厚くした感じ。
恐らくそれらの織物と,気密フイルムを何層にも重ねてラミネートしたものだと思う。
当たり前だが蒸れ防止のゴアテックスは使えない。
もしかしたら月面から帰還後に,クリーニングしてライオンの「ソフラン」でリンスしたのかも知れない。
厭な匂いがなかったので「部屋干しソフラン」と睨んだ。
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蛇足だが,画像右下隅の宇宙服はお遊びで製作された「宇宙服衛星」。賞味期限切れの中古のロシア製宇宙服に送信機を載せ,2006年2月に国際宇宙ステーションから放出した。
予め録音した各国の小中高校生のメッセージを145.990MHzで送信しながら,地球周回軌道を回る。
誰でも受信した「合言葉」を報告すれば受信証明,所謂「ベリカード」が貰えたそうな。 ただし電池寿命が数日で現在は送信終了で,最終的には大気圏に突入して燃え尽きる。
もしこれが太陽の周回軌道にだったら,未来人が発見して大騒ぎになりそうだ。SF映画のネタになりそうな洒落た悪戯。日本や中国では考えられないが,ロシアとアメリカも粋なことをやる。
「馬鹿げたことに最新の技術と精力を費やす」
最高の贅沢だろう。
Posted at 2007/07/09 05:40:54 | |
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