• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

bimo大好きのブログ一覧

2010年06月29日 イイね!

流れ流れて  その7 スペシャリティー・カー 2/4

流れ流れて  その7 スペシャリティー・カー 2/4流れ流れて その1
流れ流れて  その6 D-Day
流れ流れて  その8 勝率 0% (1/4)


前スレ:
流れ流れて  その7 スペシャリティー・カー 1/4

 牛歩の歩みで群衆から抜け出し,次のインターチェンジに乗り入れた。やっとパリを抜け出し,高速巡航に入った頃、「バシッ!」と大きな音が後方座席の辺りから。ほどなくして、屋根のあたりが「ビキッ!」

「さっきの音聞こえた?」

「うん」

「飛び石でも段差でもないのに。 ポルター・ガイストか!? 飛行機の中から,何か悪いものでも連れて来なかったか?」

・・・と話しながら走っていた。その後も時折思い出したかのように,「ビキッ!」「バシッ!」という,生木を折るかのような音を伴った,原因不明の不気味なラップ現象は続いた。

 道路状況自体は快適で,夕暮れの高速道路を地方の小さな町のホテルを目指して走って行く。
1車線の巾はとても広く,路側帯ですら日本の走行車線より更に広い。
勿論ごく一部の短区間や橋を除いて無料。

各車は速度に応じた車線を整然と走っており,トラックは必ず右端の低速車線を走っている。煽りや割り込みも皆無だ。
中央の走行車線の流れは130km程度。左端の追越し車線はほぼ常時空いている。時折すっ飛んで行くのはやはり独車で,とりわけアウディの大型が目立ち,それらとて日本のように追い越し車線に居座ることもない。

 日本ではかっ飛びの最右翼であるメルセデス・BMW機甲師団の大半は,意外にもマイペース派で,優雅に流しているのが多かった。
日本ではそれらの大型車種では半ば当たり前の,車間を詰めて煽る
「どかんかえっ! 貧乏人!」
といった威嚇走行は見られず,無益な殺生は好まないようで,ガツガツしていないのに好感を持てる。

 借りた車の高速巡航は、外観の優雅さやスポーティさに似合うよう,もっと洗練されたら印象も変るかと思われた。
動作がモッサリで,高速コーナーではユッサユッサと揺れ、感覚的に重心が高く,ターボ・ディーゼルのざらついた感触もあり,高速巡航は独仏車のほうが得意なようだ。
踏めばそれ以上も出るには出るが,私の腕では快適巡航の限界は「ぬえわ」程度だった。

使い勝手でも,2ドアの基準にしても,後席への荷物の出し入れが不便だった。やたら分厚いシート・バックは、ロック・レバーの動きが硬くてぎこちなく、少ししか倒れずに開口スペースが狭かった。
・・・と,価格帯を考慮すればマイナス・イメージで,残念ながら「スペシャル」さを感じ取ることはできなかった。


 何とかその日のうちにホテルへ辿り着き、部屋に荷物を運び込み、一段落した後、ナビに翌日の目的地を入力すべく車に舞い戻った。

「何? この繋ぎ目?」

・・・と左右Cピラーの中程に,都合4箇所ある屋根の繋ぎ目が気になった。

「溶接跡にしては溝の巾が広いし・・・」
「継ぎ目なら一箇所で足りる筈なのに,片側二箇所もとは不自然・・・」

そういえば、以前隣国の仕事場にも同型車があり、屋根の繋ぎ目が,妙に気になったのを思い出した。その時,傍にいた原地人の仲間に尋ねたが,「さあ?」という回答しか得られなかった。


・・・で、翌日は長距離移動。高速道路と空いた地方一般道のワインディング。
早速その日も元気いっぱいのお茶目なアホ・カーナビは,真逆の方向に100km以上誘導し,パリに戻そうとしてくれた。幸い途中で悪巧みを看破し,以後,カーナビは参考程度に留めた。ペースが速いので少しの時間のルーティング・ミスでも,とんでもない所まで連れて行ってくれる。

車の方はそう悪くはないけど、相変わらずモッサリした印象。
後席の足下が広いのが仇で,シート・バックのぶ厚さも災いし、走行中に後席の荷物を取るのに往生する。

シートの形状は良く、幸い腰は痛くはならないが,見掛けの高級感とは裏腹に模造革で,ひどく蒸れたのには参った。
「没個性化」もとい「グローバル化」の潮流ゆえ,ボルボの美点である内装についても、残念ながら昔のモデルのほうが,明るく垢抜けた北欧家具的なセンスと高級感があったような気がする。

途中,田舎のスーパー・マーケットでの給油の折にも,ちょっとしたゴタゴタがあった。
リモコン,セントラル・ロックなら,そのまま開いて当然の筈の,給油口のカバーが開かない。
周りの人も巻き込んで,さんざん車内を探した。目立たない所に隠された小さなボタンを,やっとのことで探し当てた。後ろには長蛇の列ができてしまっている。愛嬌を振りまきながら詫びて,「さあ入れるぞ」。

給油ガンが給油口に入らない。油種は間違っていないが,サイズが合わない。
別の給油機に移動し,満タンに。精算しようとするが,今度は機械がクレジット・カードを読んでくれない・・・等々。
救いはこんな時にも,周りのみんなは陽気かつ大らかで親切だったこと。

・・・で、何とか目的を果たして700kmほど走り、深夜ホテルの部屋にまい戻ったら、妙に昨日感じた屋根の繋ぎ目が気になった。

「そう言えば、トランクのヒンジも,やたらアームが複雑で、大げさだったな・・・」
「もしかしたら・・・」
「そうだ!、中蓋はその上のスペースを確保するためにある!」

「そうか! スペシャルと言うのは・・・!」

で、急いで懐中電灯を持って車の所へ。

トランクを開けて覗き込むと、確かにヒンジは前上方に延びている。

「ある筈だ!」

室内を探す。

「あった!」

センター・コンソール手前側の,普段は視線を移さない目立たない位置に,開閉用らしき一対のボタンが。

キーをアクセサリー・オンの位置まで回し、「開け!」と念じながらワクワク・ドキドキ、スイッチを押す。

・・・何も起こらない。

「蓋を先に開けないとな・・・」

・・・と、車を降りて後ろに回り,トランクを開け,車内に戻り静かにドアを閉め再び試す。ちなみに通常はトランク・フードは前ヒンジで開く。

「そーか。鉄板の重い屋根はバッテリーだけでは,きついよな。エンジン掛けてあげないとな。今度こそ開くだろう」

・・・何も起こらない。

「そっか。自動で開けるつもりやったのに、オッチャンが勝手にトランク開けといたら,余計なことしやがってと,そら怒るわな」
「ごめん,ごめん。オッチャンが悪かったな」
トランクを締めて、再び試す。
・・・何も起こらない。

最初のうちは,まるで初デートでもあるかのように,優しく機嫌を取るように接していたが、そのうち、「意地でも開いたる!」モードに切り変わる。

「お高くとまりやがって!」
「キザったらしくフランス語で,イッチョマエに警告メッセージなんぞ表示しやがって!」
「高い金、払とんじゃ。オドレ、生娘でもあるまいに!」
「はよ開かんかえ、ワレ!」

悪し様にののしりながら,色々なシーケンスを試す。
興奮すると,東映の「仁義なき戦い」や「極妻」の登場人物が憑依する。大人しく言うことを聞かない相手には,狼である本性をさらけ出し,出自の卑しさを露呈してしまう。

順列組み合わせもとうとう尽き果てた。
最後には,シート・バックを後ろに倒し,寝ころんで両足を高く上げ,足の裏を天井に当てる姿勢になる。

「そっちがその気やったら,こっちにも用意があんで」

「オッチャンはやる時はやるでぇ~~!」

力技で鉄板をぶち抜く態勢を取る。

両足に力を込めようとしたその時,狼の中に残っていた,ほんの小さな理性の欠片が息を吹き返し,力を抜いた。

強制執行寸前に,「ハァハァ」と肩で大きく息をしながら,オッチャンは思い留まった。


つづく
Posted at 2010/06/29 00:29:10 | コメント(0) | 流れ流れて | 旅行/地域
2010年06月18日 イイね!

流れ流れて  その7 スペシャリティー・カー 1/4

流れ流れて  その7 スペシャリティー・カー 1/4流れ流れて その1
流れ流れて  その6 D-Day
流れ流れて  その8 勝率 0% (1/4)


 「ディーゼルある?」
馴染みのカウンターで尋ねる。

「ない」

別のカウンターに行く。
「ディーゼルある?」
「ない」
「ガソリンのコンパクトは?」
「ない」

始めの内は追い払うための意地悪かと思っていた。変な部分でプライドの高いこの国では,差別的に意地悪をする輩がたまにいる。しかしどうやらマジらしい。

土曜日の夕方,将軍様の名前がついた国際空港でのできごと。
閉店時刻まで,まだ優に8時間近くあるというのに,早々に店仕舞いの支度を始めるカウンターすらある。営業時間は「XX時までいることもある」ぐらいの目安でしかない。近隣国でも同様で,客が減ったり,飽きれば平気でさっさと閉める。

空港ビルのグラス越しに見える,レンタカー専用の巨大駐車場には,Eクラスもチラホラ,その他諸々のコンパクト・カーが多数停まっている。ガラ空きでもなく,一台ぐらいは残ってくれていても良さそうだ。

清水の舞台から飛び降りるつもりで,ハードルを上げ,
「メルセデスでもBMWでもいいから」
「ない」
「SLでも何でも値段はいいから」
「一台もない」

カウンターの梯子をするが,つれない返事ばかりだ。
予約をしていなかったことが悔やまれるが,こんなことは初めてだ。
到着するなりスコスコとキーを受け取り,駐車場へと消えて行く予約客達を羨ましげに眺めながら,最後の望みを託して,一旦は断られたカウンターに再び並ぶ。ここ以外は既に全滅だ。

 この日,この国のド田舎から,6時間掛けてバスと電車を乗り継ぎ,連れを迎えにここまでやって来た。パリまで戻ってレンタカー屋巡りをする気力も残っていない。遠方のホテルの部屋は確保したままで,私の荷物も全てそこにある。
配達用のミゼットもどきのマイクロ・カーでも良いから,何とか足は確保しなければならない。

私の番になった。

「他の営業所のも含め,値段はどうでもいいから,何か残っていない?」

カウンターのニーチャンが眉間に皺を寄せ,端末のキーを叩き,台帳をめくる。そして「見つけた!」とばかりに,ニーチャンの顔がパッと明るくなる。

「あった! 1台だけ残っている。スペシャルが!」

「スペシャル」という胡散臭さが若干気に懸かるが,この際,SクラスでもSLでも構わないと腹をくくった。広く空いたオートルートのお大尽ドライブもたまには良いだろう。勿論自腹だ。

「どんな車?」
「スペシャルだ」
要領を得ない返事だ。

「メルセデスかBMWか?」
「違う。ボルボだ」
・・・ボルボの何がスペシャルかは一向に分からない。日本でも近所でウジャウジャ這いずり回っている。

「ボルボのどこがスペシャルだ?」
「だからスペシャルだ。借りる奴はまずいない」
「・・・???」

一向に話が噛み合わない。
まっいいか。借りられるだけでもありがたい。こうなったらトラックでも装甲車でも,陸を走れる物なら何でも来やがれだ。

「それ頼む」

聞けば基本料金も何とか甘んじられる範囲。この社の契約条件と手続きの流れは先刻承知,先手を打ちながら,手続きを早々と済ませ,携帯ナビのバッグを受け取る。
「車から離れる時は必ず持ち歩け」
「分かっちょる」
と応えながら,付属品のチェックと動作確認を済ませる。
必要かつできることは,全てその場で確かめるのが鉄則だ。5分後に
「あのぉ~~」
と戻っても,トンズラされて,もぬけの空は当たり前だ。逃げ足の速さは賞賛に値する。

そして少し離れた駐車場へと向かう。
今回は駐車場で配車係から受け取ってくれとのこと。少々勝手が異なる。
通常ならカウンターで「持ってけドロボー」とばかりに,そっけなくキーを渡されるのみで,広い駐車場をリモコン・キーのボタンを連発しながら,一人で彷徨い車を探し,勝手に乗って行く。

頭を下げて「行ってらっしゃいませ。お気を付けて」なんぞという,日本的なお見送りの儀式は全くない。ある意味「空港からレンタカーで,サッサとお仕事へ」というビジネス・スタイルが定着している証でもある。

 連れのスーツケースをガラガラと音を立てながら,辿り着いたプレハブ小屋の前には,別の所から引きずり出して来たばかりの,白く埃にまみれたボルボがあった。元色はシルバーのようで,4シーターのクーペだ。

型は古くはなく,どう見てもありふれた,ただのクーペだ。「スペシャル」という言葉の響きに,多少は身構えていたが,あっけなさに拍子抜けする。
プジョー,VW,アウディー,セアト等に比べれば,確かにレンタカーとしては,この国ではマイナーなブランドで,おまけに2ドア。「スペシャル」と言えなくもないが,それにしても大袈裟な表現すぎる。

 そのままでは走り出せない程,フロント・グラスにも埃が積もっている。まずは手持ちのありったけのティッシュをウォシャー液で湿らせ,埃を拭き取ることから始める。西日が眩しく暑い。
そしてざっと車体の傷を確かめておく。この国のレンタカーは新車であれ傷が付いていることが多い。返却時の揉め事を避けたく,走り出す前に,私は傷の撮影を習わしにしているが,幸いその必要もなく,無傷のようだ。

トランクには中蓋がある。さりとてトランクの蓋は,メルセデスのSLのように,電動で高々と開くのではなく,普通に手で開く。
「けったいなトランクやな・・・バイキングの考えることはよ~わからん・・・」
当然ながら毎度の如く、引き渡し時も何の説明もなし、取り説は勿論なし。


 先ずはやれやれと,ホッと一息をついて,駐車場内の迷路を通り,空港内の周回路に乗り入れる。
ここの周回路は,毎度ながらピーク時には意地の張り合いで,大人しくしていたら車線変更も困難,いつまでもグルグル回るはめになり,最悪はとんでもない方面の高速道路へと押し出される。ほんの少しの隙間にも,大型バスでさえ強引に鼻先を突っ込んで来るし,モタモタしていると周りからクラクションの嵐を浴びる。時には地元民になった気持ちで,ハッタリをかましながら,「どかんかえ! ワレ~~ッ!」と,ガラ悪く半ば強引に走ることも要求される。
ただし,大型バス・トラックであれ,隙間数センチまでは攻めて来るが,一旦勝負が付くと,最後の最後ではあるが,敗者はあっさりと引き,その後は尾を引かず「ノーサイド」。何事もなかったかのように,あっけらかんとしている。
大和の国とは異なり,執拗な付き纏いや,陰湿な嫌がらせはなく,その点はあっさりとしていて助かる。

 何かと異国では予期せぬトラブルに遭遇するが,車の確保,掃除,CDG脱出という三つの障壁をクリアし,先ずはパリを目指す。

ボルボを転がすのも久しぶり,独仏伊との勝手の違いもいささか加わり,パリを抜けるのに神経を使う。とは言え,地図のみの時代に比べれば,天国で,とんでもなくマシではある。

パリの中心地を無事抜け出し,「さぁ,後は単純なルートのみ」と緊張の糸を緩めたその時,早速次の厄介事が訪れた。

「Exit the Motorway」

突然ジェーンの声でナビが高速を降りろと言う。この英国人のオネータン,「Exit」(出ろ)と「Exist」(そのままおれ)の発音が,私には識別し辛く,予期せぬ場所で,咄嗟に言われると悩むが,画面の指示も「出ろ」となっている。

「何で? そんな馬鹿な?」
とは思ったが,分岐の直前で確認する暇もない。反射的に隙間を縫って車線変更をし高速を降りる。
高速の出口は大渋滞だ。あろうことか広い道路を埋め尽くす,数千人の行列に巻き込まれる羽目となってしまった。

落ち着いて調べてみても,ショート・カットでも何でもない。ただのナビのルーティング・ミスだ。
またしてもアホ・ナビにやられた。以前にも真夜中のパリで,墓場,階段,一方通行の行き止まりとか,多彩な技を披露して,散々オチョクッテくれたが,まさか大群衆の中に放り込むまでは予想できなかった。実に芸が細かく改めて見直した。こうなると笑うしかない。
群衆と仲良く進みながら,知能犯の凄腕に苦笑いをした。

・・・つづく


蛇足: 
写真にある凱旋門のロータリーは,ラッシュ時には7重の輪になる。また飛行機雲の交錯にも国際交流の盛んさと,航空網の緻密さを感じる。


Posted at 2010/06/18 01:09:59 | コメント(0) | 流れ流れて | 旅行/地域
2010年06月04日 イイね!

流れ流れて  その6 D-Day

流れ流れて  その6 D-Day流れ流れて その1
流れ流れて その5 終着駅と防人
流れ流れて  その7 スペシャリティー・カー 1/4


ご存知の方も多いだろうが,1944年の6月6日「D-Day」は米英加仏の連合国軍が仏北部ノルマンディー地方に上陸した日である。正しくは「Operation Overlord」と称したそうだ。

古くは映画「史上最大の作戦」,少し前では「プライベート・ライアン」の舞台になった場所である。写真の最下段は,映画「史上最大の作戦」において,愛犬シェパードを連れた独逸軍将校が,連合国軍の侵攻を最初に発見する場面のロケに使われた,そのものズバリの要塞である。

 ここオマハビーチは最も攻防が激しかった海岸で,現場の兵達は米独共に思いっ切り貧乏くじを引いてしまった場所である。
例外的な激戦地ゆえ,米兵の勇猛果敢を称え上げ,犠牲者の追悼を偲んだ戦記・映画が多く,この作戦の要の地として描写されるが,記録を調べれば,かなり事情が異なるようだ。

つまり,米軍側の大きな作戦遂行ミスが散見された。
上陸に先立って数日間は徹底的な爆撃をし,直前には数時間猛烈な艦砲射撃をしたが,指揮と連絡の不備から,いずれも的外れな別の場所に行われた。従って守る側はほぼ無傷の状態で迎え打った。

また上陸地点も予定より大きくずれ,わざわざ敵の真正面に,しかも上陸第一陣である歩兵達は,波打ち際まで送ってもらえず,波打ち際遙か沖合の,記憶では180mほどの海中に,上陸用舟艇から放り出された。
もし土砂降りの台風の中,家から180mの所でタクシーを降ろされたなら,私なら運チャンの首を絞める。

歩兵達は重装備ゆえ,ただでさえ水中歩行は極めて困難,おまけに軍服の中に容赦なく入り込んだ海砂は,荒目のサンドペーパーとして,ふやけた皮膚を削り取った。ダッシュできない歩兵達は陸上からの格好の標的となり,余りの犠牲の多さに,司令官は上陸を断念する寸前であったそうな。
古今東西,上層部の思慮のなさとミスのしわ寄せは,全て現場に降り掛かる。


 映画では臨場感を増すためか,強固な断崖として描かれることが多いが,現地に立って驚いたのは,実際には平坦で,海岸からはさしたる丘もなく市街地へと通じている。また幅広の砂浜も連続して東西数Kmは優にあり,わざわざ敵の真っ正面を選ばなくてもと感じた。
実際,他の上陸地点4ヶ所では,さしたる抵抗もなく進軍している。

「一発限りの使い捨て」とばかりに,現物を目前にすれば誰しも驚くほどの安普請で貧粗な上陸用舟艇に寿司詰めにされ,数百m先の屠場へと運ばれる元民間人と,かたや状況を「七割が船,三割が海面」と司令部へ報告した,キル・レシオこそ高いものの,確実に「俺たちに明日はない」守る側の,これまた元民間人の胸中が偲ばれた。
まぁ百歩譲れば,「玉砕」しか選択肢のない東洋の国よりはマシかも知れない。

D-Dayの数日前の今日,先程から重装備の兵隊達が,軍用トラックやジープで忙しく走り回っている。演習の一環か軍の追悼行事かと思っているが,私の素人目にも,砂地に適した走り方ではなく,あまりクレバーな運転ではない。
砂浜のそれらを「今にやるぞ! やるぞ!」とヒヤヒヤしながら見ていたら,案の上,先程トラックがスタックして亀の子になり,文字通り墓穴を掘ってしまっている。

 しばらく付近を散策した後の帰り道,偵察がてらオート・キャンプ場に立ち寄ったら,家族連れの子供達がボール遊びに興じる中,洗濯物を干した横で,先程の軍用トラックやジープ達が区画内に大人しく駐車していた。
なんと軍の演習ではなく,ミリ・オタ(軍事物マニア)の集まりであったのだ。平和万歳。

 嘗ての敵味方が数多く訪れ,名勝と化した今の情景を,1944年にここで犠牲となった人々が目にすれば,きっと「何と俺たちは馬鹿々しいことをしていたのか・・・」と哀しさを通り越し,笑い出すのではないかと想像する。
カップルが戯れる渚に血は似合わない。

毎度々終わってから立派な記念碑を建て,それに永劫に花を手向け,毎年盛大な式典に両者揃って仲良く出席できるぐらいなら,ハナからやらなきゃ良いのだ。
 一人,多くても数人の「自称指導者」の退陣と,マスコミの扇動に踊る大衆の浅はかさを排除しさえすれば,ほぼ全てのケースにおいて戦争という人間特有の愚かな悪癖は回避できるのではと思う。

またそれには作られた歴史や,そうであって欲しい歴史ではなく,美化や歪曲なしの真実を知り,たゆまぬ再検証を続けることも必須と思う。
私の嫌いな言葉
「多くの尊い犠牲の上に,現在の平和と繁栄は成り立っている」
は,過ちと追求されるべき責任を,ずる賢く昇華させ美談にすり替える常套句でもあり,真実を見る目を曇らせる。
ごく一握りの連中の狂気に,皆付き合う必要はない筈だ。
Posted at 2010/06/04 22:41:03 | コメント(0) | 流れ流れて | その他
2008年12月07日 イイね!

流れ流れて その5 終着駅と防人

流れ流れて その5 終着駅と防人流れ流れて その1
流れ流れて  その4 オペラ座の怪集団
流れ流れて  その6 D-Day


 先の閉ざされた「錆びたレール」と「防人」,人生に半ば行き詰まり流浪と流転の旅を続ける私にとって,これほど相応しいものはない。
文字通り,終着駅に来てしまった。

途切れたレールの端に立った赤丸の看板が,まるで

「アンタにゃ,この先はないヨ。明るい未来も」

と私に語りかけているようだ。


 辿り着いた第一印象

「・・・えらい所に来てもた・・・」

 ご存知の方も多いだろうが,ちなみに「防人」とは消防署の人のことではなく,「さきもり」と読み早い話が国境警備隊。
 当然ながら街からは遠く離れたうらびれた地が,必然的に防人の居場所となる。

「あの世に行けば,かくもこのような風景だろう」

と呟きながら,荒涼とした小径を進んでいると,突然張り巡らされたワイヤーに行く手を阻まれた。

「入ってみいぃ~~。撃ち殺すぞ,オドリャ~~」

の看板かと思ったが,銃口がこちらを向いているわけでもなく,看板を書いた人間の殺意が感じられない。何しろ最初は猟師のおっさんかと思ったぐらいだ。

砂地に打ち込まれた柱にワイヤーは直接固定され,電気的に絶縁する碍子もなく,通電されていないようだ。

 仕事で来たとはゆえ,さっぱりこの地の言葉「にも」疎いが,看板をしげしげと眺めると,どうやら・・・

「ランプが点灯中か,球体が掲揚されている時は,千客万来じゃなくて,入っちゃダメ! 弾着のレンジ内だよ。この辺りで落ちている物に,(私の大好きな)お触りはおろか,お持ち帰りもダメ! 大変なことになるアルヨ」 (注:一部脚色有り)

と書いてあるらしい。

「入っちゃダメ」は「この先ワクワクするものがあるヨ」と同義語である。
もちろん「(肌と肌の触れ合い密着草の根)外交官特権」として,何事も「一線を越える」のを常とする私は,境界線を越えて行った。
弾頭や不発弾でも転がっているかと,多少の期待は持ったが,・・・空薬莢はおろか,何もなかった。


 観光目的でなく,「この方面らしい」という情報のみで,何とか辿り着いたこの地だが,偶然,軍の射撃訓練区域にも辿り着いてしまったようだ。

やっぱり

「・・・えらい所に来てもた・・・」
Posted at 2009/02/03 04:41:12 | コメント(0) | 流れ流れて | 日記
2008年06月08日 イイね!

流れ流れて  その4 オペラ座の怪集団

流れ流れて  その4 オペラ座の怪集団流れ流れて その1
流れ流れて その3 ロッテのガム
流れ流れて その5 終着駅と防人


 それは突然だった。

激しく警笛を吹きながら凄いスピードでリーダーが先陣を切る。
それに密着して先頭集団が風を切る。時速30km以上は出ていそうだ。
一通り高速集団が通り過ぎると,徐々に速度は落ち,のどかな集団に変遷していった。
老若男女は勿論のこと,乳母車を押しながらもありだ。

日曜日の午後とは言え,この国きっての繁華街でのことだ。

一体どこまで続くのか,延々と続きしんがりは全く見えない。
運動会の行進を遙かに凌ぐ人数だ。それの優に数倍はある。
ざっと少なく見積もって3千人ってところか。

この光景がすでに10分以上は続いている。
当然ながら全ての通行車両は足止め。長い渋滞の列がすでに出来上がっている。

通行人とて道路を横断する隙すら全く見い出せない。

でも顔を顰める野暮な通行人は1人とていない。
むしろ囃し立て声援を送っている。それに応えスケーター達は,手を振り嬌声をあげ,愛嬌を振りまく。

異邦人である私は,ただただ,あっけに取られ,口をぽかんと開き眺めているだけだった。でも何だか楽しくなり,自然と笑いがこみ上げて来た。

最後は警察車両の締めくくりで終わり,それまで信じられないほど大人しく待っていた,ドライバー達は,1月1日午前0時のごとく,一斉にクラクションを鳴らし集団に対してエールを送る。警察車両もそれに応え,拍子を取りながら,おどけた調子でサイレンを鳴らす。


 人間は楽しむために生まれて来たもの。どれだけ楽しめたかが,人生の価値。
そして他人の楽しみ・幸せは己の楽しみ・幸せ。
この思想が組織と個に染み渡っており,国を,企業を,そして学校を挙げて実践されている。


・・・対してかの国では・・・

人間は苦しみ耐えるために生まれて来たもの。どれだけの理不尽かつ無意味な辛酸を甘んじて受け,苦労を重ね,不幸に巡り会い,それに耐え,それを克服したかが,その人の価値を決める。不幸と迫害の数は勲章の数。

そして他人の楽しみ・幸せは断じて許さん・ケシカラン。叩きつぶしてやる。
楽しむのは来世に行ってからで十分。

この思想が組織と個に染み渡っており,国を,企業を,学校を,町内を,そして家庭を挙げて実践されている。
Posted at 2009/05/27 13:29:16 | コメント(0) | 流れ流れて | その他

プロフィール

好奇心の塊で物事を知れば知るほど己のアホさを知る,通りすがりのオッサン。
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2025/7 >>

  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

愛車一覧

その他 その他 その他 その他
巡航速度:4,000m/h 戦闘速度:15,000m/h 戦闘出力:370mPs 上昇限 ...
その他 その他 その他 その他
出力:毎度のごとく説明書は厳重保管し,行方不明につき不詳 巡航速度:1,200m/h 最 ...

過去のブログ

2014年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2013年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2012年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2011年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2010年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2009年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2008年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2007年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2006年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation