奥湯河原にしよう。
昼休みの作戦会議で、コーヒーをすすりながら適当に決定した。
メタボリックなヤツを連れて行くには、高い山では登る前からあきらめてしまうだろう。
今回のハイキング・テーマは「余裕」。
そう、余裕を持って登り、平坦な山を歩いて距離を稼ぐものにする予定だった。
そう、確かに予定通り距離は稼いだ・・・・
さて、ハイキング前日に忘年会と称して、焼き肉食い放題で大量のカーボンを体内に取り込んで気分はフルマラソン出場選手のようだ。
しかし、朝8時に湯河原の駅に降り立ったのは3人しか居なかったのである。
連れ出したかった、肝心の隊員が寝坊している。
・・・しょうがない、3人(司令長官、ドクター・モロー少将、ヤマサギ情報将校)で湯河原探索の旅に出発。
8:40
湯河原のコンビニを出発し、まずは「城山」を目指す。
蜜柑畑が続く急な舗装道路が連続するのであるが、しばらく歩くと坂が緩やかになり、ピクニックランドに到着。
ここを抜けて「城山」山頂には早々に到着した。
ここからの眺めは湯河原を一望出来てすばらしいが、あまりにも簡単に到着してしまうので感動は少ない。
旅は始まったばかりである。
次の目的地は「しとどの窟」である。 一体どんなところなのか?
窟へ最初の道のりは平坦な山道の移動に過ぎない。
テーマに沿った楽々な道行きである。
程なく、「しとどの窟」バス停に到着したが、どうやらここからさらに20分の距離にあるようだ。
怪しげなトンネルを抜けて山陰のひっそりしたところに出る。
「ここを下るのか?」
地図を確認しつつ、急な傾斜道を覗くと、道沿いに石灯籠が2-3m間隔で並んでいてちょっと不気味だ。
しかし、ココで怯むわけにはいかん。
こけむした急斜面の舗装道路は滑りやすく、さらに濡れた大量の落ち葉が、滑落の恐怖を倍増させる。
ずいぶんとずいぶんと降りた気がするが、一向に坂は無くならない。
「おいおい、本当にこの道で会ってるんだろうな?」
ようやく怪しさ満点という場所に出ることが出来た。
これが「しとどの窟」か。
窟というより「ほこら」、というより「窪み」?
しかし、そこに大量の石仏だの石灯籠だの石碑のようなもの、石仏とかが並んでいる。
こういう場所をスピリチュアル・ポイントとか言うのだろうか?
真夜中には来ない方が身のためだろう、何が出るか分からないところだ。
・・・見たい気はするがな・・・
さて、窟を満喫した我らの次なるポイントは「幕山」頂上で昼飯なんだが、、、、あれ?
道が無いぞ? んん?もしや、もしや、この崩落したような道とは名ばかりのこれか?
おいおい、ここまで降りてきて上に戻るのはどうかと思うが、ここは・・・
「しゃらくせぇ!!」と降り始める。
しかし、この道は厳しかった。
およそ、人が歩いたのは半世紀前では無かろうかと思えるほどの荒れ放題の上、鎖場あり、笹藪あり。
広い道に抜けたときに、良かったこの道で合っていたんだと安堵感が疲労と共にどっと出た。
出たところに、手書きのカンバン「しとどの窟」があるんだけど、おどろおどろしい上に道なんか見えないので
これを見ていくひとは、通常まず居ないだろう。 自殺志願者くらいじゃないだろうか?
死体を見つける羽目にならずによかったよかった。
「腹減った」を連発するドクターは、持参したカロリーメイトをほぼ完食してしまっている。
しかし、お昼にはまだ早いのでガマンして貰い、気を取り直して「幕山」頂上を目指す。
降りてきた中年夫婦のハイカーに訪ねたところ、頂上まで40分くらいだとのこと。
とりあえず彼らよりは若く見られたようで、よかった良かった。
しとどルートで体力をおおいに削られたのもあるが、「幕山」ルートもそれなりの急坂が続くため休憩をいれつつ進む。
笹林、杉林が交互に続き周りの景色はあんまり見晴らしが良くないが、ルートとしてはおもしろい。
頂上に近くなると、整備された登山道に出て頂上が近いことが分かる。
ようやく「幕山」頂上に到達。
達成感がより大きいときは、疲労感と空腹感に比例して増大するもの、と発見する瞬間である。
せまい頂上で、しかも特に座るための設備は全くないところだ。
そこらに、結構な人数のハイカーが昼飯に舌鼓を打っている。
大鍋でなにやら作っているグループさえ居る。
しかし、周りを観察するより、今はともかく場所をキープして飯だ。
コンビニ弁当とカップラーメンではあるが、ここでは何を喰ってもうまいに違いない。
腹が満たされると、周りを見渡す余裕が出てくる。
真鶴半島の眺めがすばらしい。
疲労がある程度癒えたところで、ラスト白銀林道へのルートだ。
この林道は、昼飯後の散歩には良い道だ。
このまま夕刻まで歩いて、バス停にたどり着き奥湯河原経由で温泉場まで行ってひとっ風呂だなぁぁ。
地図を見ると、レーダー前のバス停にでるには、この林道から山に分け入る「白銀ハイキングコース」に出ないと
いけないようだ。
さぁ、風呂に入るための最後のルートだな。
しかし、このルートが選択がまずかった。
地図では単なる線に過ぎない道なのだが、何本もの沢越えはあるは、道が無くなっていて気づかずに迷うは、杉林の斜面を延々登らされるはで、とても言葉では表されないくらいに疲れ果てる登りのルート。
しかも、最後の最後に、「土肥大杉」ルートと、レーダー前ルートの分岐点に這々の体でたどり着き、折角だからと「土肥大杉」を見ていこうと、またまたルート選択ミスをしてしまう。
この選択ミスが、暗闇と絶望への誘いだとこの時点では、誰も気づいていない。
急な坂を下りること3分、「土肥大杉」の石碑に出会う。
どこに大杉があるんじゃい、などとふざけていたが・・・なんと、この先には道がない。
げっ、引き返すしか無いというのかっ。
残り少ない体力を振り絞って急斜面を登り、分岐点をレーダー前へ進む。
程なく、「椿ライン」に出ることが出来た。
やったぁぁ、後はレーダー前のバス停からバスに乗れば、後は温泉だぁぁ。
椿ラインをとぼとぼと歩く我々の後ろから・・・・目の前を一台のバスが通り過ぎる。
おっおいおい、待ってくれよ。 乗せてくれぇ。
無情にも、バスは我々の前を通330り過ぎてしまう。
レーダー前バス停に到着した我々は、バス停の時刻表を見て最後の希望を見つけた。
「次のバスが最後だが、あと一時間強はあるな」
レーダー前は既に綺麗な夕日と強烈な風が吹いている。
ココで1時間待つのは、かなりやばい、次のバス停まで歩いていこう。
一時間歩けばバスに乗れる、それが最後の希望。
30分歩いただろうか、「天照山」バス停に到着。
ここには、椿ラインをショートカット出来るハイキングコースがある。
当初は、ここを下って降りたところでバスに乗る予定だったが、既に体力も残り少なく太陽もあと30分もしないうちに沈んでしまうに違いない。
真っ暗な山道を下るのは危険だ。
「あと40分でバスは来る、待つか、進むか?」
ここでドクターが「まぁ暗くなっても、僕はライトを持ってきたからこのコースを下っても行けるよ。」
さっすがドクター。
疲れたし、バスが来るまでココで待つか・・・
その間どうしようかねぇ。 もうじき真っ暗になるし。
暗くなったこの場所で3人でぼーっと立って居たら、行き交う車のドライバーはきっと怖ぇぇよなぁ。
などと、余裕をかまして冗談をほざいていた。
30分が過ぎて、辺りは真っ暗になった。
あともう少しでバスがくるさー。
・・・・・しかし、なんか変だ、本当にバスは来るのか?
そういや、僕はちゃんとバスの時刻表を見てなかったなぁ。
ちょっと、時刻表を見てくるよ。
・・・・・確かに、後数分でバスの時間だ、、、おや、この三角のマークはなんだろう?
三角マークは11/30までのバスの運行を示しますかぁ、ふーむ。
え゛゛゛゛、今日は12月だよな。。。。 来ねーじゃん、バスはこねーーーーーーよ、おおーい。。
「まじスカ。なんで?」 しまった、バス時間をちゃんと確認できてなかった。
やばい、やばすぎるよ。 もう辺りは真っ暗だし、ショートカットコースは降りられないぜ。
椿ラインをとぼとぼ歩いていたら、車にひかれてしまうよ。
でも、もう歩くしかない。 国道とはいえ、山道を歩くのは何より車が危険だ。
ドクターが取り出したライトは、ほぼ電池切れが判明。
僕とヤマサギは何となく、ライトをリュックに忍ばせていた。
なんとかこれで麓のバス停まで降りるしかない。
しかし、後何キロ歩けば麓なんだ? やばいきっと体力が持たないぞ。
30分程度歩いてようやく「しとどの窟」バス停にたどり着くが、やはりバスはもう無い。
まずいな、本当に深刻になってきた。 このままじゃ、
やばい。
1時間くらい歩いていたところ、微妙なオレンジ色の車が降りていくのを見ていた。
何となく、換わった車の色だなぁと思っていた、10分過ぎたところで一台の車が上ってきた。
あっ、さっき通り過ぎた車だ。 3分程度して後ろから下ってきた車が止まって声をかけてくれた。
「この先14-5kmあるけど大丈夫?」
「いやー、バスを逃してしまって」、「なんだったら乗っていかないかい?」
もう正常な判断力が欠如していたのかもしれないが、14-5kmと聞いたところで無理だ歩けないよと思う。
「助かります。」
こんな山道で、真っ暗な中を歩く大の大人3人組を快く乗せてくれる人が居るんだなぁ。
もう、なんだか遭難者が救助ヘリに乗せられた感じを味わってしまい、ぼーっとしてしまった。
ご親切に「こごみの湯」まで乗せて貰ったにもかかわらず、満足にお礼も出来ずお名前も聞くのを忘れてしまった。
「こごみの湯」でご飯を食べて温泉に浸かって、生きている実感をようやく取り戻した。
あそこで、拾ってくれなかったらまだ3時間以上は歩き続けていたハズだ。
いや、たぶん途中で歩けなくなってしまったに違いない。
ありがたい、ほんとうに助かった。
この場を借りて、名も知らぬあの方にお礼を言います。
テーマは「余裕」だったハズなのに、こんなに危険な山行になるとは。
持参した万歩計が指し示していた距離数は32kmを超えていた。。。
失敗はいろいろあったが、今回はマジやばかったですよ。
反省点は、いろいろあるけけど、次回のハイキングに生かしていきます。
少なくとも、帰りのバスの時刻表は調べておこう・・・うん、そうしよう。。。