
1980年代から現代まで、技術の進歩には目覚しいものがあります。自動車や航空機も例外ではありません。経済性や効率性(燃費など)はもちろん、安全に関する性能もかなり向上してきました。
今日の乗用車で例えるならば、エアバック、ABS、ディスクブレーキの標準装備、独立可動式のサスペンション等が殆どの車で標準装備されていますし、交通事故を未然に防いでくれるスバルの「アイサイト」等も珍しくなくなってきました。テスラのモデルS等は半自動で目的地までたどり着けますし70年代の車と比べてみると技術の差は歴然としています。70年代では当たり前だった、チョーク、手動式の窓、手動で調節が必要なサイドミラー、有毒排気ガスの量、ドラム式ブレーキ、パワーステアリング無し、エアコン無し、FM局が聞けないラジオ、暗いヘッドライト、細くてグリップの無いタイヤ等は現代では考えられない事だと思います。
ボーイングやエアバスの旅客機に関しても同じような事が云えます。現代の航空機では航空機関士(エンジン、燃料系統、油圧、与圧・空調等の操作とパイロットの補助、例えば燃料搭載量、離陸速度、着陸速度等の計算とエンジンスロットルの調整等が主な業務)やナビゲーター(航法士)はもはや乗務していません。全てコンピューターが担当するかパイロットが担当します。10年前までは先進国でも当たり前の様に飛んでいたB747-300やDC-10等のキャプテン、ファーストオフィサー、セカンドオフィサー(航空機関士)で運行していた飛行機は絶滅してしまいました。一つ一つの部品の精度や信頼性も70年代の航空機と現代の物では比べ物になりません。旅客機は自動車と違い寿命が長いですので、ボーイング737や747は60年代から飛んでいますが、幾つもの改良が施されているので初期型と現行のモデルでは全く別の機種と云っても良い場合もあります。例えばB737-100と現行モデルのB737-500, 600, 700, 800等では主翼の形状、搭載しているエンジン、操縦系統が全く別物です。もちろん外見は似ていても中身は全く違います。自動車でもNINIやランドローバーのDefender等、比較的最近まで長らく生産されてきた車種がありますが中身はデビュー当時は無かった電子部品等が多々導入され、品質も向上?したと思います。
私は現在ボーイング737型機に副操縦士として乗務しているのですが、その前はエアバスA330とB767でパイロットして乗務しました。それ以前は航空機関士としてB747で乗務しました。現在の勤務先で採用される前はパイパー製のターボプロップ(プロペラ付きの小型機)で副操縦士として飛んでいました。商用では5つの機種に関わってきた訳ですが、世代としては一番新しいA330や90年代後半に「マイナーチェンジ」されたB737-800とやや旧式となるB767、更に古いパイパーやB747-300では使用されている技術の差が物凄くあります。最新の機体の方が快適ですし、経済的である事は否定出来ません。これは車でも同じ事が云えると思います。安全性にも同じような事が云えると思います。
学生の頃に購入した最初の車は「Datsun 200B」と云う1973年製の車でした。日本ではブルバードと呼ばれていたモデルです。この車は飛行機のパイパーと同じように全てがアナログで、今日の車とは違い自分の手足と頭を使い運転しなければならない物でした。夜道ではヘッドライトが暗いのでスピードを出せませんし、ブレーキも4輪ドラム式なので車間距離を注意しなければ追突します。冬はチョークが無いとストールしてしまいますし、雨が降ればスピンしないように注意しなければなりません。パワーステアリングは非搭載でエアコンもありません。水温計や油圧系、電流計(昔の車はオルタネーターの性能が悪いので監視が必要。例えばウインカーを出すと電力を消費するのでヒーターを切らないとバッテリーが上がる)等を常に監視し、エンジンの音を注意深く聞きながら、何処かに不調な箇所は無いか常に気を配りながら運転していました。今思い出すと、ボーイング747の運行・管理の方が楽だったと思います(笑)。747-300は基本的に747-200Bと操縦系統は変わりませんので70年代の技術で作られていました。
次の車はR31スカイラインでした。つい先日廃車になったスカイラインは実は2代目です。Dutsunが学校の駐車場で何者かに放火されて仕方なく友人の車を譲ってもらいました。購入時点で13年落ちの1987年製のオートマチックでエンジンはRB30でした。前の車とは15年程違いが有りますがその差は歴然でした。冬でも一発でかかるエンジン、パワーステアリング、チョーク不要、4輪ディスクブレーキ、エアコン、太いタイヤ(それでも205・60 R15ですが)にはびっくりしました。それに後付けのどっかんターボは最高でした。ボーイング767は80年代の航空機ですので世代的にはR31と同じです。
就職してからは色々な車に乗り換えましたが、飛行機と同じくどんどん快適に、安全にそして経済的になっていきました。はっきり言って1973年製のDutsun 200Bにまた乗りたいとは思いませんし、少しでも気を抜くと墜落してしまうパイパーで飛びたいとは思いません。しかし時々考えさせられる事があるのです。日本語に「人馬一体」という言葉がありますが、何をするにも快適な現在の自動車や旅客機に乗り続けていると昔が懐かしくなる事があります。自動車に関しては様々な意見があると思いますが、大型旅客機に関しては間違いなく操縦者の技量は昔に比べて落ちていると思います。一方で、コンピューターの方が人間より安全に、経済的に飛行機を飛ばせる事も事実です。エアバス機は特に人間が関わる仕事が少ないので職人肌の古参機長の間では不人気です。正直に云うと私もエアバスA330と比べると旧式なボーイング767の方が好きでした。767に乗務していた時は新人でしたので操縦を楽しむ程余裕が無かったのですがそれでも楽しかったです。
自動車でも0-400でのギヤシフトに関しては最高のレーシングドライバーと素晴らしいマニュアルトランスミッションを擁しても、最高のオートマチックには適わないのと似ています。現代の車は本当に凄いです。これからも技術はどんどん進歩していくと思いますが、自動車も飛行機も人間(操縦者)が主役で有り続けて欲しいと思います。
Posted at 2016/08/19 11:29:02 | |
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