前回、チャーリー号水没が発覚して、恐る恐るエンジンを外すところまで書きました。
で、今回はおうちに持って帰ってバラしてみたときのエピソード。
重要な事なのでもう一度書きますが、結構シャレにならん事態でした。
まず、ドレンからエンジンオイルと汚水を抜いていきます。
その後、ヘッドとシリンダーを外していきます。
なんとなくつながっていそうなボルトを外していくとなんとなく外れます。
実はこの辺の分解に関しましては、写真を撮り忘れちゃいました。ごめんなさい。
まあ、分解を参考にしたい方は『カブ エンジン 分解』とかで検索したら、丁寧なサイトや動画がいっぱい出てきます。
分解して最初に行き当たった難関は、こびり付いたガスケットでした。
交換するのは大前提ですが、コイツら、ちょっとやそっとの洗浄では剝がれてくれません。
まあ、それだけ頑固だからこそ、圧縮や排気を逃がすことなく、我々の男性的象徴を守ってくれる(前回の記事参照)重要な役割を果たすのです。
さて、ここからが今回の記事の本題。
故障とかそういうレベルじゃなかった件に関する衝撃的な画像をお見せする段になってしまいました。
ほんとは見せたくないんです。だって恥ずかしいもん。
でも、見せちゃう。
次の画像はヘッドとシリンダーを外した時の写真です。
――!!!?
バルブとシリンダーが完全に固着して、もはや化石です。
こんな状態で動くはずがありません。
っていうかいつの間にこうなったんだ⁉
ピストンが外れそうもないので、サビ取り剤とエンジンクリーナーを浸透させつつ、しばし現実逃避。
で、ヘッドの方に取り掛かります。バルブもまたサビとカーボンのようなもので汚れています。
ただ、中を見ると…
あれ、意外とキレイ。
バラして、磨いて、組み立てなおしたら何とかなりそうです。
8㎜くらいのボルト(ちょうど奇跡的に手元にあった)を使って、シャフトを引き抜きます。
ロッカーアームが外れました。
カムシャフトも出てきました。これらの部品たちを見る限りでは、特に問題のようなものも見られず、表面は輝き、ベアリングにもグリスが残っていました。
とりあえずバルブを外します。
バルブを固定している構造に関しては、文章で書くよりも図を使ったほうがわかりやすいので、イラストを用意しました。
バルブはヘッド本体からリテーナーによって吊り下げられています。リテーナーとバルブの間にはすげえ強いバネがあり、カムシャフトと連動したロッカーアームがバルブの頭を叩くことで開閉されます。
バルブの軸には小さな出っ張りがあり、そこにコッターと呼ばれる小さなパーツが引っかかっています。リテーナーをすげえ力で押すと、引っかかっていたコッターが取れ、リテーナーは軸から外れるわけです。
バルブ君はこのような個性豊かなお友達と一緒にお仕事をしています。
だいぶザックリしていましたが、なんとなく仕組みを理解していただいたところで、ここに問題点が一つ浮上しました。
――実はこの作業には専用工具が必要となるのです。
先ほどの図にもあったように、すげえ力でリテーナーを上から押さえてコッターを外すのですが、この際に、そのすげえ力をキープし続けなければなりません。
それを可能にする専用工具が『バルブスプリングコンプレッサー』です。そのまんまの名前です。要は万力のようなものなんですが当然そんなものを持っているハズもなく…。
とりあえず素手で押してみる作戦に出ます。
――つまり、こーゆーこと。
一見無謀に思えたこの作戦ですが、押せば何となくリテーナーが沈むんです。押す位置や力加減や向きを変え、時にはひっくり返したりしながら指を痛め続けること十数分…。
…ポトン
信じられないことに、コッターが外れました。まじか。
俄かには信じがたいが、外れたことは確かなので、バイーンとならないように慎重にリリースし、リテーナーを外します。そして、バルブを引き抜くと…
分解できました。信じられないことに。
バルブ自体もどこにも固着することなく、スコッと抜けました。
ちなみにこちらのバルブは吸気側。赤錆とカーボンのようなもので汚れています。
とりあえず問答無用でエンジンクリーナー地獄に突き落とします。
各パーツを洗浄し、バルブの通りを試すと、スムーズに動きます。これなら問題なく作動することでしょう。
バルブを戻します。
バネとリテーナーをもとの位置に組み込みます。
で、問題なのが…。
――コッター君です。
外す時はバカヂカラで押し込んでひっくり返す、という荒業で出来たからよかったものの、よく考えたら、嵌める時には更に複雑な要件が課されます。
というのも、コッターを嵌めるためには、リテーナーを十分な深さまで押し込んだ状態をキープしたまま、バランスよく、適切な位置に、慎重に、パズルのように組み込まなければ、ストッパーとしての役割を果たしてくれないからです。
つまり図にするとこんな感じ。
うーむ、これは指では無理だ。
何か、器具のようなものが必要です。
例えば、上面と底面が貫通したドーナッツ状の円柱で、外径がリテーナーよりもやや小さく、内径がコッターを二つ組み合わせたよりもやや大きいもの。
つまり、このようなものがあればどうにかうまくいく気がするんです。
しかし、そんな都合の良いジャストフィットなものなんて、この家にあるものだろうか。
大体、何かで代用できるくらいなら、専用工具なんてものはこの世に存在しないんではないか。
でも、何かいいものがあったような…。
この時に起こった電光石火のようなひらめきは、おそらく科学的には説明できないでしょう。
そうだ、アレがあった!!
膝を打った彼は、思わず、叫んでいた…。
(SE:プロジェクト・エーックス エーックス エーックス …←エコー)
発想の転換とはこういうことを言うのでしょう。
バウムクーヘンのような筒状で強度のあるものを探していたから、見つからなかったんです。たとえドーナッツでも、それぞれに強度があれば、重ねることでバウムクーヘンと同じだけの厚さを実現できるはずです。
そこで持ってきたのが、コレです。
『寛・永・通・宝』
そう、銭形平次が投げる、アレです。
幸いなことに、諸事情からまだ90枚ほど残っていたのを思い出しました。
コイツをいい感じの厚さに重ねます。
で、バルブの軸が貫通するように押し込んでいきます。
ここからは慎重な作業になる都合上、写真が取れなかったのですが、穴の位置を揃えて、軸が十分に露出したタイミングでコッターを配置し、徐々に力を抜いていきます。
すると…。
出来た。
なんかよう知らんけど、出来たわ。
寛永通宝がない方は、たぶんワッシャーでも代用できます。
しかし…。
バルブってもう一個あるんだよね。
しかもこっちの排気側の方が、なんかガッツリはまり込んでる気配で、リテーナーを押しても動く気配がない。
これはもう…
――次回、排気側バルブの襲撃と、後回しにしていたシリンダーに悪戦苦闘、の様子をお届けします(予定)。