2024年12月20日
悪魔に魅せられし者
このかっこいいタイトルは僕の言葉ではなく、
40年ほど前に流行っていた『ゲームブック』と呼ばれる本のなかで、最高傑作に数えられる1冊の題名です。
また、以下の日記は『湾岸ミッドナイト』という漫画・アニメを知らないとオチが理解できません(-_-;)。
ぜひ先に見てもらえればなと思います。
首都高を300km/hでレースするお話です。
主人公が乗るのは『悪魔のZ』と呼ばれるS30型フェアレディZ。
僕は高速道路100km/h出すのも怖いのでそんな超高速に興味はないんですが、、ポイントはそこではなく、
登場人物たちの、心の動きの描写が素晴らしい。
結婚や金銭的な理由など人には色々事情があって、大抵は短いと2年、長くても4年で走るのをやめる。
だけど同じ「やめる」にしても、精一杯それをやったのかと問いかけられる。
趣味でも仕事でも、同じかもしれない。
サントラも試聴できます。
「Run of S30Z」聞いてみてください。
HMV&BOOKS online
■ ■ ■ ■ ■ ■
※JAFオートテストWebサイトから

その車は、いつも隣にいた。
愛知県三河ナンバーの、NBロードスター。
中国地方のオートテスト競技は、過去の勝利数が多いほど出走順が後ろになるため、
無敗のNBロードスターは、常に最終走行。
その車にだけ一度も勝てていない僕は、何年経っても、最後から2番目。
待機場所に停めて横を見るとそこには、いつも緑色のロードスターがあった。
たかが30秒程度のコースで、5秒近くも離される。
異次元の速さと、中国地方で勝率100%を誇ることから、『緑の悪魔』と呼ばれていた。
到底追いつけるとは思えなかったけれど、差がつく箇所を動画で確認し、近くのジムカーナ場へ通って通って同じコースを作りひたすら練習した。
そうして1年経ち2年経ち、5秒の差は3秒になり、1.5秒になり、、
2023年7月、ついに追いついた。
わざわざ愛知県からやってきて(しかも日帰り)毎回毎回優勝商品を奪取され、これまで中国五県民は誰1人勝てていなかった。自然と、あの車に勝つことが最終目標になっていた。
僕1人の勝利ではなかった。
比較動画を撮ってくれた人、一緒に走り方を考えてくれた人。勝った直後、窓から手を出し無意識で握手をしていた。
◇ ◇ ◇
それから1年後の今夏、全国を転戦し続けたそのロードスターは、オーナーの手を離れることになった。
最後の戦いの舞台は偶然にも、昨年初めて勝ったときと同じ、山口県イオンモール周南。
人によって車によって、得意な苦手な会場がある。
僕の場合はこの会場が大好きで、まったく負ける気がしない。
最後にもう一度ここで勝ってロードスターにお礼とお別れを言う機会を神様が作ってくれたのか…
しかし神様は、僕のためにいるわけではない。
4月、左手の指に腫瘍が見つかった。
内軟骨腫、骨の内部が軟骨に変わってしまう。つまり本来の強度はなくなり、そのうち折れる。
試合は6月中旬、手術は6月下旬。
力を入れすぎるといつ折れてもおかしくないため、ハンドルは4本の指で握るしかない。一般道なら通常通り走れても、競技では指1本でも不自由だと最速の操作はできない。
そのうえ、試合数日前の練習中にバックギアを壊してしまい、ミッション全交換。
40万円という出費は置いとくとしても(置いておけない)、自分の車での出走ができなくなってしまった。
僕には、他の車に乗ってすぐ自在に操れる才能はない。車を貸り、しかも手を自由に使えない状況で勝てる可能性はゼロ。
誰にお願いしようか悩んで悩んで、いちばんRX-8に似ているシルビアに乗らせてもらったけれど、やはり0.1秒を争うほどには、アクセルにもブレーキにもクラッチにも、慣れなかった。
結果、優勝したのはやはりあの車。
◇ ◇ ◇
試合後ふと、大勢が目指してきたこのロードスターを囲んで記念写真を撮ったらどうかと思いつき、あわてて一人一人、声をかけて回った。
声をかけた全員が気持ちよく賛同してくれたのがまず、相当にうれしかった。
そして四方八方からロードスターの周りへ人が集まってゆくのを遠くから眺めていると、涙が出てきた。
やっぱりみんな、別れたくないんだ。
そうだ、いま集まりつつあるこの光景を撮りたい。人の気持ちが動いている瞬間は、集合写真では表現できない。
撮らねば後悔すると確信しながらも、閉会式が終わって帰ろうとする人もいるなかで、一人でも多く集めるため、シャッターを押す間を惜しんで走り回った。
あとから思えば、やはりあのシーンが撮れていればと悔やむ以上に、なぜもっと早く思いついて声を掛けなかったのか…。
一緒に競ってきた何名かは、イオンのなかへ入ったり、既に帰っていて、写真に写ってもらえなかった。

ロードスターの隣に、僕の車はない。
修理中である以前に、今年度は初戦から成績が悪く、たとえ故障せずここに来ていたとしても、パドックは隣ではなかった。
2台並ぶ姿を、撮っておきたかった。
以前、それを撮ろうとしたことがある。だけど、どうせいつでも隣にいるのだからと、撮らずにいた。
一期一会という言葉を思い出すべきだった。
次回はもう、別の車。
今度はGRヤリスにするらしい。化け物のような性能を持つ。
NBロードスターと同等以上の強敵になるのは間違いない。
ただそれでも…
小さいころから、忘れられたものが可哀想で、好きだった。
たとえば誰も通らない廊下のいちばん端とか、休み時間が終わって児童がいっせいに校舎へと走っていくあとに残された遊具たちとか、下校時刻が過ぎて誰もいなくなった教室とか。
僕は好んで廊下の端を通ったし、休み時間が終わったときには鉄棒やジャングルジムに向かって、「また次の休みにも来てやるからな」と言っていた。
目を閉じると横には、未だロードスターがいる。
何年も追いかけて来た、最強の王者。
今回も見事に優勝した。
満身創痍で最後の力を振り絞ったのか、それとも、もっと第一線で走り続けられたのか。
古くて過走行だし、「おつかれさま」と声をかけ、今後は別の所有者のもとで公道をのんびり走らせてあげるのが無難かなとは思う。思うけどしかし心の奥底では、
天性の才能を持った新たなオーナーと共に、より強大な敵として、いつか再び僕の前に現れることを期待してしまっている。
そう、何度事故に遭い廃車寸前になっても、乗り手を変え幾度でも蘇ってくる、悪魔のZのように。

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Posted at
2024/12/20 21:14:36
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