
シャシダイでの現車あわせに疑問を感じている人も多いと思います。
風が吹かない,抵抗がない,縦横のGがない。。。
一方で,100km/hを超えるような高速で実走行での現車あわせは危険だからシャシダイが必要になるのはわかります。
実走行でセッティングすると時間と労力がかかるのもわかります。
一長一短あることは認めます。
究極を言えば,その車の仕様用途に合わせた状況でセッティングは行うべき。
街乗りしかしない車であれば,街乗りでセッティングすればいい。
サーキットを走るのなら,サーキットでセッティングすればいい。
その上で詰め切れないところをシャシダイで補うのならわかります。
あるいは,シャシダイである程度のセッティングをしておき,実走行で最終的な詰めを行うのならわかります。
そもそも,どんなにシャシダイの上でがんばったって,そこで実走行を正確にシミュレートすることなんてできない。
それはみんな感じていると思う。
様々な車種の様々なデータを持っているメーカーですら,テストコースを持っているし,わざわざ外国に行って実走行でテストを積み重ねているのは,シャシダイの上では再現できないあらゆる可能性を想定しなければならないからでしょう。
メーカーはその車にどんな人がどんな風に乗るかわからないから,チューニングカー以上にありとあらゆる状況を想定してテストを積み重ねなければならないというのもありますが。
素人でもわかるシャシダイの問題点を挙げてみましょう。
1.風と熱の問題
シャシダイの上では風は吹きません。
ファンを回すから風は吹くって?
そのファンはどこに当てていますか?
車は,走行中にはいたるところに走行風が当たっています。
しかも,車速に応じて変化します。
その走行風は,ラジエターだけじゃない,インタークーラーだけじゃない,車全体を包み込んで流れます。
シャシダイ上でのセッティングの時,ボンネットは開けたままですよね?
走行時のボンネットによるエアロダイナミクスは無視ですよね?
フロア下のエアロダイナミクスは無視ですよね?
ミッションやデフにも風を送って冷却していますか?
タイヤやブレーキはどうですか?
ファンの数を増やせばいいっていうもんじゃありません。
実走行時には,全ての走行風が同調しているのです。
フロア下に陰圧ができるからこそ,エンジンルーム内の掃気ができ,バンパー開口部から導風ができるのです。
そして,エンジンルームから掃気された空気がミッションやデフを冷却する効果もあります。
しかもそれは走行速度に応じて変化します。
20km/hで走行すれば20km/hの走行風で,50km/hで走行すれば50km/hの走行風で,100km/hで走行すれば100km/hの走行風です。
さらにその風は,ただ単に速度に比例して増減するというものではなく,様々に変化します。
それは,実走行でしか再現できない。
吹く風が違うということは,ラジエターやインタークーラーやオイルクーラーや・・・様々なところの熱に影響を及ぼします。
例えばインタークーラー。
50km/hで走る時と100km/hで走る時ではインタークーラーによる冷却効果は雲泥の差です。
これをシャシダイの上で再現できますか?
もう一つ大きな問題が。
シャシダイがセットされている所ってどんな所ですか?
狭い空間ですよね。
完全に閉鎖された空間・・・っていうことはないでしょうが,多くは後方だけが開かれた半閉鎖空間だと思います。
後方が開かれる理由・・・排ガスと排気音を開放するためです。
その半閉鎖空間で,吸気って,どこから入ってきますか?
室内の生暖かい空気が循環しているだけ?
ちゃんと実走行と同じように新鮮な空気が導入されているかどうか,その点も気をつけてよく見てください。
2.抵抗の問題
車は抵抗に逆らって前に進みます。
エンジンは抵抗に逆らって回転しています。
加速時にも,減速時にも,抵抗は発生します。
その抵抗は,タイヤの回転によるものだけじゃありません。
風圧という抵抗もあります。
多くのシャシダイでは走行時の抵抗を再現することはできません。
いくら抵抗を加えられるシャシダイだといっても,それを正確に再現はできません。
シャシダイでのセッティングやパワー測定を見たことがある人なら,エンジンがストレスなく吹け上がっていくのを目にしたことがあるでしょう。
実走行であんなに簡単にREVまで回転が上がりますか?
まるでアイドリング中にエンジン吹かしたような感覚じゃありません?
3.縦横のGがない・・・
Gがかからない状態で,車の状態を本当に把握できるのかどうか・・・
質量があるものは全てGの影響を受けます。
空気の流れですら。
それを再現できないシャシダイの上で,本当に正確なセッティングができるのかどうか。
特に,マージンを削ってギリギリのところを狙ってのセッティングであればそれを無視していいものか・・・
それと,これはドライバーの感性によりますが,乗った時のフィーリング。
人間の身体にはGセンサーがありますからねw
車の加速感の不調は,かったるい,つきが悪い,重い・・・様々な表現をされますが,それをシャシダイの上で感じ取れるかどうか。
これは絶対にムリですよね。
4.超低速時のフィーリング
セッティングをしたあと,坂道発進がしやすくなったって言う経験,ありますか?
シャシダイではそれをどうやってシミュレートしてチェックするんでしょう。
実走行ならいくらでもできますよねw
「それら全てを経験と豊富な過去のデータで補うのだ」
ごもっともな意見です。
セッティングを行うチューナーの経験を否定はしませんし,過去のデータの否定もしません。
むしろ,それらが非常に重要な要素であることは認識しており,尊重しています。
だからこそ訴えかけたいのです。
ならば,実走行の経験に勝るものがありますか?
実際にシャシダイでセッティングをしているチューナーも多いと思います。
でも,やはりシャシダイの上でのセッティングには不満を持っていると思います。
だからこそ,いろいろな工夫をしているんですよね?
そして,シャシダイがあるのに,実走行でセッティングをしている方もおられますよね。
みんな本当は実走行でのセッティングに勝るものはないと,感じているんじゃないですか?
ならば・・・
もうちょっと,実走行でのセッティングを見直してみませんか?
実走行でのセッティングをしてみませんか?
それと・・・
エンジン,コンピューター以外にも,実走行じゃないとわからないものもたくさんありますよね。
足の動きとか,Gがかかった状態でのミッションの入り具合とか,ブレーキバランスとか,車体の剛性とか,シートポジションとか,ステアリング性能とか,デフの具合のよしあしとか・・・
そういうところにまで目を配ってくれると,ユーザーとしてはうれしいもんですよ。
次回は,実走行による現車合わせの例について書いてみます。