
社会人になってからすこし経った頃のことです。
高校の頃からの仲良し3人で、夏休みに2泊で温泉に行こうという話になりました。
そして、シブがき隊ふっくん激似のTと長野智子アナウンサー激似の彼女Yちゃん、山本達彦似のBと秋田美人の彼女Sちゃん、サリーちゃんのパパ似の私と辺見えみり激似の超可愛い彼女Kちゃんと、6人で行くことになりました。
どうせなら穴場的な秘湯に行こうという事になり、友達の一人が予約を入れてくれました。
場所は良く憶えていませんが、武田信玄の隠し湯だという温泉旅館でした。
そしてクルマ2台で出かけました。
1台はBの車で、その頃流行りの大きなタイヤを履いた初代ハイラックスサーフ、私は誰も気づかない程度の微妙なカスタムの初代ビガーです。
中央道だったか関越道だったのかは忘れましたが、非力なガソリンエンジンのサーフはタイヤの外形がデカすぎて、上り坂を上がるのにとても苦労していました。
高速を下り、カーブのキツい山道をしばらく走りました。
もちろんカーナビなど無い時代なので、マップル等の地図帳を広げての走行です。
携帯も無い時代なので、サンバイザーにマイクを挟みFMに電波を飛ばすタイプの無線で会話しながら行きました。
小さな小川に架かる小さな橋を渡った先に見えたのは、古びた木造二階建ての旅館でした
土むき出しの駐車場に車を置き、荷物を抱えてフロントの受付に向かいました。
広めの玄関に入り目についたのは、真正面の壁の棚に何故だかお地蔵さんが沢山並べてある光景です。
ちょっと不気味な気がしましたが、すぐに部屋に案内されました。
廊下側にふすまが全面に開く二階の広い部屋です。
畳の奥に旅館に良くある板の間と窓が有り、その板の間にみんなで荷物を置きました。
私はそこで少し違和感を感じました。
板の間の片側に扉が付いているのですが、何故だか開かずの扉なのです。
Bが当時は高級品だったビデオカメラをレンタルしてきました。
デカいVHSテープをガシャンと入れ、巨大で重いカメラをかついで撮るタイプです。
夕飯まで時間があったので、近所を散策することにしました。
そして動画を撮ったり、誰かが持ってきた「写ルンです」で写真を撮ったりしました。
その後、夕飯前にお目当ての温泉に入りました。
そこでまた違和感のある光景を目にしました。
何故だか温泉の流れ出てくる所に、またしてもお地蔵さんがあったのです。
その時はただ単に、「余程お地蔵さん好きなオーナーなんだな」と思っていました。
そして一階の広間で夕食を食べ、寝る前に昼間撮った動画をテレビにつないで見てみようということになり、みんなで笑いながら観賞していると、バシッという感じでテレビや電気が全て消えました。
慌てて部屋の外に出ると、廊下には明かりが点いているし、他の部屋も停電していないようです。
何故だか私達の部屋だけ停電しているのです。
しばらくしたら電気が点き、なんだか分からないまま寝ることにしました。
そして次の日の朝、大広間をふすまで仕切った部屋で朝食をとりました。
みんなで談笑しながら食べていると、ふすまで仕切られた隣の部屋から「チ~ン」という高い音が聞こえて来ました。
あまりにもはっきりと聞こえたので、「なんの音?」とみんなで顔を見合わせました。
「きっと食事を片付けている人が、茶碗をぶつけた音だろう」と言うことになり、私の真後ろのふすまを開けてみる事にしました。
ゆっくりとふすまを開け、隙間からのぞいた私は一瞬固まりました。
さらにふすまをみんなに見える位に大きく開けると、隣の部屋には誰も居ないどころか食事をしていた形跡すら有りません。
ただ座卓と座布団が並んでいるだけで、食器などは一つも無いのです。
その直後、YちゃんとSちゃんが重い口を開いた様に話し始めました。
なんと、二人には霊感があるということ。
Yちゃんは死んだおばあちゃんが守護霊で、Sちゃんは観音様に守ってもらっているという事。
Yちゃんは街を歩いている時、下半身の無い人や上半身の無い人とすれ違ったりするのは日常的で、死期が近い人は透けて見える、霊視した人がどんな理由で死ぬのかが分かるという事。
Sちゃんは、高速を走行中に前の車がいきなりスピンする映像が見え、その車から離れるようにしたり、事故現場が分かるという事。
そして、霊感の強い二人が一緒にいると、共鳴してさらに霊感がアップするという事。
実際にSちゃんはここに来る途中で、カーブを通るたびに事故現場が見えていたようです。
そのたびに「次のカーブは気をつけて」と運転手のBに教えていたそうです。
そしてヤバい事を、Yちゃんが話し始めました。
Yちゃんは守護霊であるおばあちゃんから昨夜忠告を受けていたという。
部屋の奥の板の間のあたりが特にヤバいらしく「午前2時から4時までの間は悪霊の力が強すぎて守ってあげられない」と言われたそうです。
草木も眠る丑三つ時とは午前二時頃の事。正にその時間です。
昨夜の停電事件も霊の仕業らしく、消えたテレビの画面に映る霊の姿が二人には見えていたそうです。
さらに、昨晩布団で寝ていた私の上に女の霊が浮かんでいるのを見たということです。
その時の女の霊は私を見下ろしているだけで何もしなかったらしいのですが・・・。
そして二人共、ここはお地蔵さんがとても多い地域であることも感じていたそうです。
さらにTが前日に廊下で白い影が動くのを見たそうで、霊感の強い彼女の影響かも知れません。
たとえ霊感が無くても、強い人といつも一緒にいるだけで影響を受けて霊感が出てくるらしいのです。
そして霊感のある二人によると、霊は塩に弱く、塩があると燃えているように熱くてそこを通ることが出来ないという事。
盛り塩やお清めの塩はそういう事だったのかと納得しました。
そこでとりあえずその場に有った食卓塩を部屋に持ち帰りました。
その後、日中は適当に観光した後、お地蔵さんのある風呂に入り夕ご飯を食べて、いよいよ守護霊に守ってもらえない夜が迫って来ました。
悪霊が部屋に入って来られないように、朝持ってきた食卓塩を部屋の周りに一周撒いて結界をはりました。
そしてみんなで寝ることになりましたが、私は一緒に寝ていた彼女と共に、恐すぎて全く眠れません。
が、しかし、爆睡している一人がいました。
それは、ふっくん激似のTです。
しかもヤバいと言われた奥の板の間に足が入っています。
後から聞いた話ですが、その時SちゃんにはTの上に浮かぶ女の霊が見えていたそうです。
しかしTは某有名な〇〇学会の信者だったので、きっと大丈夫だったのだろうとみんなで勝手に思いました。
恐るべし〇〇学会パワー!!
そして、いよいよ守ってもらえない深夜2時になりました。
隣に寝ていたBに「置きてる?」と言うと「置きてる」とのこと。
しばらくそのまま数時間が経った頃、Bが声を出しました。
「あ、見える」
「何が見えるの?」
「観音様」
「観音様が天井を一周りしてそこにいる」というのです。
おそらく観音様が守護しているSちゃんの彼氏なので、観音様が見えたのでしょう。
その時は私も私の彼女にも何も見えませんでした。
そしてヤバい時間終了の午前4時を過ぎ、もう大丈夫だと思いS学会のT以外の5人が起きました。
廊下に出て見ると、やけに神々しい明るい感じがしました。
ヤバい時間を乗り越えて、これで大丈夫なんだとホッとしました。
そしてその後朝食をとり、すぐに帰ることにしました。
山道の脇をよく見ると、霊感の有る二人の言った通り、至る所にお地蔵さんが有ります。
高速をしばらく走った後、休憩で寄ったドライブインでSちゃんが怖いことを言い出しました。
さっきトンネルを通った時に、私の車に霊が乗り込んで来るのが見えたそうです。
でも、トンネルを抜ける前に降りて行った、との事でホッとしました。
そして、しばらくは霊やお地蔵さんの力を感じていたそうですが、現地を離れるにつれて感じなくなっていったそうです。「もう大丈夫」と、SちゃんとYちゃんが言いました。
無事に帰宅し、数日後写ルンですの現像が終わりました。
出来上がった写真を見てびっくり。何枚もの心霊写真が写っていたのです。
時系列的に行くと、
01、駐車したサーフの窓から見える向こう側に「髪の長い女が立っている横顔」が写っている。
撮影時に近くに第三者は居なかった。
02、旅館の建物の外、二階の高さに温泉の浴衣を着た人が写っている。
とても人が立てない場所に浮かんでいる感じで写っている。
03、チ~ンという音を聞いた部屋の窓に、三角の傘をかぶった僧侶のような人が写っている。
実は茶碗がぶつかった音ではなく、お仏壇にあるような鐘の音だったのかも。
04、消えているテレビ画面に顔のようなものが写っている。
確か他にも数枚有ったのですが、どんな内容かは忘れてしまいました。
これらの写真は実際に当時の私の職場のみんなに見てもらいましたが、全員「これはヤバいだろ」と言ってビビっていました。
ネガや写真はTが持っていて、お祓いしてもらうという話はありましたが、どうなったのかは不明です。
と言う私の夏の思い出でした。
写真は全てイメージです。