七月から御歳暮の宅配が始まった。通販サイトから個人的なギフトからその他企業や法人から、果物やお菓子や雑貨が雪崩のように物流の現場に押し寄せる。
年の瀬の繁忙期程では無いが、通常ペースのプラス二十ケースくらい多い。PDT上の持ち出し個数は時に百二十を超える。
時間指定はこんな時、最大のネックとなる。
男の担当コースは配達率がかなり低く、1ケース当たりの所要時間が平均より長くなる為、走行距離、再配達率の低減が緊急の課題となった。
男は、スーパーマーケット千歳船橋の南長崎西店の店長にアドバイスを仰ぐ事にした。店長はかつて同業だったらしい。男とはたまに呑む仲である。
「お前、肝心な事を忘れてるじゃ無いか。記載の時間指定はかなり沢山、実際には指定なんかされちゃ居ねーじゃん。その程度の事なんて客だって気にしちゃ居ねーからよ、フリー扱いにしちゃえばいいんだよ 」
次の稼働日から男は時間指定シールの貼り付けられた貨物を片っ端からPDTの「問い合わせ番号照会」の項目を選んで、実際の東京通運の必須案件のみを時間指定に従って配達する事にした。
すると時間指定の拘束が無くなる為、数段配達ルートに自由度が増えた。そもそも指定が無いのに外装に表示される指定項目は、言ってみれば出荷人の剥がし忘れに過ぎず、初回か前回の配達の時の指定項目だったりする。
荷受け人も初回の指定がそのまま引き継がれて居るとは思いもしないので、普通の指定無しで配達しても双方何も問題は無い。
宅配の仕事は、如何に指定項目を取り付けて居ない顧客の宅配業務に支障を出さないようにしながら一日回れるか、が重要である。配達業務担当営業所、出荷依頼人、荷受け人、三者の間に立って絶妙なバランス感覚を磨くと言う点で警察の公安の視察活動によく似て居る。
水波郡水波町大字二千四百番、au WALLETからの特典ウォーターサーバーの配達だ。荷受け人は加藤かずみ様。重量は33キロ入力されているので、大型宅配になる。
指定日は七月二十日で、時間指定必須で一八~二十時の指定がある。今日はコース内に六人もこの荷物があるため、男はヘトヘトだった。
県営水波団地、県営中央住宅、スーパーマステートII、オーリーハイツ、株式会社公安情報協会内宅配。
男の稼働形態は委託態勢の為、燃料費もこの日はかさんだ。
この季節は特に暑い事から顧客は玄関先に出て来たがらないので、男は不在票を発行しながら顧客に電話連絡し、本当に不在なのか確認して居た。
「あ、通運さん、私の母、居ない?」
いつも八十才を迎えようと言う老婆が荷物を受け取ってくれるのだが、今日はその女性が趣味の畑仕事に出掛けてしまった様だ。
「それなら外に置いて来てくれない?」
男は一旦電話を切ると、営業所に社内用通知を出して電話を掛けた。
出荷依頼者に宅配ボックス配達の許可を得る為だ。重量物は貴重品、生鮮食品と一緒で宅配ボックスへの配達するには配達業界の常識として出荷人からの許可が必要だったのだ。
「九郎さん、忙しいと思いますが、今日は日曜日、暇でしょ?」
営業所の顔見知りになった女性の担当が電話に出た。コールサインを言うだけで名前まで言い当てられるほど、男は営業所の事務方陣と良好な関係を築いて居た。担当は続けて言った。
「五分くらい待って居てくれませんか?すぐに荷物状況メールを出荷人に送信しますから、すぐに対応を検討させます」
仕方無いので、加藤邸から十メートル先のマツモトキヨシでトイレ休憩をして居ると、
「あ、通運さん!電話が有ったもんで」
名古屋弁の顧客の母親が向こうから大声を張り上げてやって来た。
男はハイゼットカーゴを家の前まで走らせると、老婆の連れて居た五十九才の彼氏に荷物を受け取って貰う事が出来た。
すぐに営業所から電話がかかってきて
「九郎さん、どうなりましたか?」
と興奮気味の彼女の声が聞こえて来た。日祭日は営業所も出勤人数を抑える為、彼女も独りで抱える仕事が多いから興奮して居たのだろうと男は思った。
「ああ。データ検索かけてデータ差し替えて手渡し配完しましたよ」
「さすがですね!どうもありがとうございます!」
Posted at 2018/07/10 03:20:42 | |
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