
キャブレター清掃(後編)です・・・ようこそ迷宮へ・・・(笑
エンジンが始動しないので、キャブレターを疑い分解すると、細かい穴がたくさんあり、ガソリンの流れを追っかけていくと、頭がぐちゃぐちゃになってしまう。
さらに、明らかに劣化したと思われるゴム類と、どこから落ちて来たか分からない細かいパーツを見て、目の前が真っ暗になる。・・・そう・・・少し前の私です(笑
しかし、冷静に考えていくと、少しずつ謎が解け、そのたびに喜びがあります。刈払機のキャブレターは推理小説なのです。以下はそのネタバレです(爆笑
まず、キャブレターの役割は、スロットルの引き具合に応じて、適切な混合気を作り出すことです。そのためには内部構造として以下の5つの構造があります。
①メインジェット エアフィルターからインマニを通じてシリンダーに流れる空気にガソリンを霧状にして混ぜ、混合気を作ります。(引かれるにつれスロットルは持ち上がり、噴出穴が大きくなります)
②内部タンク メインジェットが安定して作動するよう、ガソリンの量を一定に保つ機能を持った、内部のガソリンタンクです。
③メインポンプ エンジン稼働中にガソリンを燃料タンクから内部タンクに吸い上げるポンプです。
④プライマリーポンプ メインポンプがまだ機能してない始動時に、内部タンクにガソリンを満たすための手動ポンプで、内部タンクの空気を③⇒②のガソリンの流れとは別系統で吸い出すことにより、③⇒②の経路でガソリンが燃料タンクから吸い上がり内部タンクを満たします。
内部タンクが満たされると、以後は吸い出されるのはガソリンに変わり、内部タンクがガソリンで満たされたことが、この透明なポンプを見てわかります。
もちろん、吸い出される先は、透明なリタ―ンパイブの先にある燃料タンクです。
このため、内部タンクの吸出口は、空気を先に吸い出すよう、普通に置いて上部になる位置にあり、そこからプライマリーポンプを経てリタ―ンパイブまでの長~い長~い経路が続きます。
ちなみに満タンの内部タンクに、さらにメインポンプがガソリンを入れようとした場合、漏れ出ると危険ですが、ガソリンがこの経路を通り燃料タンクに戻る仕組みです
(オーバーフローリターン)
⑤加速ポンプ 回転が低い状態でいきなりスロットルを引くと、空気の増加にガソリン供給が追い付かずエンストします。これを防ぐ「追いガソリン」装置で、メインジェットに直結しています。
※ 自動車のキャブレターにも付いている装置で、HONDAはGX35エンジンの特徴として、この加速ポンプをPRしていますが、状況によっては、混合気が濃くなりすぎてエンジンがかからない、いわゆる「かぶり」現象の原因にもなる諸刃の剣です。
※ また、Youtube動画など見ていると、アイドリング時やスロットルレバーをゆっくり操作しているときはちゃんと動いているのに、レバーを急に戻すとエンジンが止まるのは、この加速ポンプが直接の原因です。
正確に言うと加速ポンプが悪いのではなく、「点火プラグやいろいろなものに原因があり、なんとか動いているところに、加速ポンプがとどめを刺す」という現象です。と言うのもレバーを戻すとき加速ポンプがメインジェットに行くガソリンを吸い取ってしまうからです。(正常なら、戻す前はレバーを引いた高回転状態なので、一瞬ガソリンを吸い取られてもその勢いのまま回るのでしょう)
次に、以上の①~④の機能のための弁機能を4つご紹介します。清掃で一番気を付けて欲しいところです。
⑥メインジェット弁 シリンダーが圧縮行程に入り、行き場を失った空気でメインジェットが逆流しないようにするための弁ですが、加速ポンプの逆流防止や、プライマリーポンプ作動時にも機能している大活躍の弁です。
メインジェットの真裏にあり、金属の中に埋め込まれた弁ですが、この中で唯一、空気の力でも作動する弁なので軽いゴム製になっており、清掃時に金属用クリーナーは避けたほうが無難です。 ※
メインジェット弁の構造が分かる動画(異機種)
※ メインジェットは細かい穴なので、この穴が詰まらないよう、内部タンクの細かい2つの穴から吸い上げています。(片方が詰まってもOKで、吸い上げが止まると詰りが解放される仕組みだと思われます)
⑦ニードル弁 内部タンクのガソリン量に応じて、流入するガソリン量を調整する弁です(満タンでストップできないときは、前出のオーバーフローリターンが働きます)
金属部品に囲まれていますが、弁の先端だけはゴムなので、これも清掃時には取扱注意です。
⑧メインポンプ弁 メインポンプの弁は想像と違い、後述のポンプダイヤフラムの一部が弁になっています(素早い振動に対応するためか、薄くてペラペラ)。これに気付くと、複雑な穴を見て「なぜ、こんなに行ったり来たりしているのか」と、生じていた疑問がきっと解消されるはずです。
※入る弁と出る弁の構造(裏・表)を逆にすればシンプルな構造になるのに、そうしないのは、ポンプの反対の面にガソリンの出る隙間があり、一方の面に統一することでコストカットができたり、切削誤差で生じる2つの弁の開き具合のアンバランスがなくなるからでしょう。
⑨プライマリーポンプ弁 赤い丸いゴムです。中央が吐き出し弁(→燃料タンクへ)、周囲のヒダヒダが吸い出し弁(←内部タンクから)です。
次に、⑦~⑧の機能のために、内部に貯めたガソリン量を制御するダイヤフラムというゴム幕が2つあります。どちらのダイヤフラムも「表はガソリン、裏は空気」で、いわば部屋の間仕切りです。
(ちなみに分解したときは、これらのダイヤフラムはガスケットと一体化しているように見えます)
⑩メタルダイヤフラム
ニードル弁を制御し、内部タンクのガソリン量を制御するものです。自動車のキャブレターにも、水洗トイレのタンクみたいな制御装置(フロート)が付いていますが、自動車と違い刈払機のキャブレターはひっくり返しても動かないといけないので、ダイヤフラムという液面を覆うゴム幕で制御します。
一点に負荷がかかるといけないので丸い金属が付いていて、ガソリン容量が減った場合、ゴム幕全体の力を受けてニードル弁につながるテコ部分を押し、ニードル弁が持ち上がって開く構造になっており、メタルダイヤフラムと呼ばれます。裏は空気部屋で、大気に開放されています。
⑪ポンプダイヤフラム
メインポンプの動力源です。裏は空気部屋ですが、こちらは細長い経路を通ってインマニに繋がっており、シリンダーの動きに合わせ脈打つ気圧で、このポンプダイヤフラムが振動します。その力を利用してポンプを動かしているのです。 これを考えた人は天才だと思いました。
細長い経路は曲がりくねり、長さが調整されており、メインジェットを効率よく吐き出すタイミングとなるよう、同期をとっているのかもしれません。ノウハウの塊かも・・・。
ちなみにインマニ側で爆発(バックファイア)を起こしていると、空気部屋に煤(スス)が付きます。
※メインポンプはこのように微細な振動で動くので、ガソリンが泡立ってしまわないよう、直後に振動吸収用の白い樹脂片の入ったインレット機構(後述の分解写真の⑤)があります。
以上のほか、どうしても気になるものがあります。それは
⑫キャブレター側面の「謎のボール穴」です。4+1か所あります。
これも気付いて感動したのですが、キャブレターの各ブロック(金属製が2つ、黒い樹脂製が1つ)に、ドリルで横穴を開けたあと、それを塞いでいるものでしょう。つまり、「謎のボール穴」の延長線上には2つの穴があり、それが内部(地下)の横穴で繋がっているということです。
ちなみに、加速ポンプ部分だけはボールではなく、真鍮の丸い蓋になっています。延長線上には、「いかにも」という膨らみがあり、その先にメインジェットがあります。
なお、加速ポンプ部分の横のスロットル部分を見れば内部に出っ張りがあり、レバーを一定以上引くとこの出っ張りが押され、加速ポンプが作動する仕組みなんだろうとわかりますが、分解できないので中身の詳細は分かりません。おそらくシリンダが入っていて、レバーが戻るとき内部タンクから弁を通りガソリンを吸い上げ、つぎにレバーを引いたときガソリンを押し出すのでしょう。
最後にもう一つ驚くべきことは、このキャブレターは、調整箇所が一つもないことです。
スロットルワイヤーを繋ぐ段階になって、アイドリングの調整とワイヤーの遊びの調整ができますが、それはキャブレターの外側の話です。
このキャブレターを積むHONDAエンジンは、「アメリカの厳しい排ガス規制をクリアしています」と言っているので、勝手に内部を弄られる訳にはいきませんからね。
しかも普通はジェットは回転数に応じて複数用意されていますが、このキャブレターは一つのジェットで全域をカバーしています。(だからメインジェットと呼ぶのは本当はおかしい)
キャブ車乗りの方には、本当につまらないキャブレターかもしれません・・( ^ω^)・・

【純正品 Walbro WYBタイプ⇒ ポンプスプリング・フェールインレット付き】
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以上を見極めたうえで、穴という穴に金属ならWAKO’Sのエンジンコンディショナーを、樹脂ならパーツクリーナーを吹きかければ清掃OKです。
必要ならダイヤフラムやガスケットの交換も・・・となりますが・・・
⇒【簡易チェックポイント】
キャブレターから出ている2本の真鍮パイプのうち、黒い燃料吸い上げホースが差し込まれる方のパイプ穴を指で塞ぎ、プライマリーポンプを2、3回押して、中の空気を吸い出してみます。
内部のダイヤフラムやガスケット、そして⑥のメインジェット弁がちゃんと機能していれば、中の経路の空気が吸い出され気圧が下がり、パイプ穴から指を放すとポンと音がするはずです。
もし音がしなければ、何処からか空気が吸いこまれている証拠で、ダイヤフラムの破れやガスケットに隙間があったり、あるいは⑥のメインジェット弁がちゃんと機能していないことになります。
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みなさんも「
オイリーボーイ(白洲次郎)」として動かない草刈機(刈払機)を安く買って、キャブを分解・清掃すれば、あまり金をかけず2カ月は楽しい人生を送れるでしょう(笑
とりあえずネタバレは以上です。あとは暇に任せて、①~⑪の図解を【追記】します。
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【追記】 以上、新品のキャブレターに替えて直りました・・・ということでしたが、イマイチなので元のキャブレターを分解清掃して使えるようにしました。
ダイヤフラム等、補修部品を購入 送料込みで約1000円。他機種用のものも入っていました。

※使ったのはダイヤフラム(2枚)とガスケット(2枚)とOリング(小)だけです。
以下はキャブレター分解・清掃です。
(①②など入れましたが、上の説明とは関係ありません。単なるガソリンなどの流れる順番です)
赤色 ガソリン吸い上げ口(①)から、メインジェット裏口(⑦)まで
青色(プライマリーポンプ) 内部タンク(①)からリターンパイプ(④)まで
緑A 加速ポンプ
緑B メインポンプの空気部屋からインマニ方面口
緑C 内部タンクの空気部屋から大気開放口
■三枚おろし(メインポンプ側)
赤色 ガソリン吸い上げ口裏のフィルター(①)から、メインジェットの裏口(⑦)まで
緑A 加速ポンプ
緑B メインポンプの空気部屋からインマニ方面口

※⑤の突起と反対のくぼみ(白い振動吸収片入り)が、ガソリンの振動を吸収するインレット機構
■三枚おろし(内部タンク側)
赤色 ガソリン吸い上げ口(①)から、メインジェット弁裏口への2箇所の吸い上げ口(⑥)まで
青色(プライマリーポンプ) 内部タンク(①)からリターンパイプ(④)まで
緑C 内部タンクの空気部屋から大気開放口
■プライマリーポンプ
青色(プライマリーポンプ) 周囲のヒダヒダが吸い出し弁(②) 中央が吐き出し弁(③)
緑C 内部タンクの空気部屋から大気開放口
【参考に】
ホンダ草刈り機修理
加速ポンプ