
学生のころにカーデザイナーにあこがれ、
芸大でプロダクトデザインを学んだ素人の私なりに、
歴代の愛車を取り上げてそのデザインを考察するブログです。
今回はVW up!を取り上げます。
この車は私のお気に入りの車で
初期型の4ドアと
一昨年追加導入された2ドアのGTIの
2台を所有したことがあります。
この車のデザインを監修したのは
イタリア人デザイナーのワルター・デ・シルバ氏です。
このup!は
「VWとしては久々の完全新型車」であり、
ゴルフやポロなどの歴史的背景がなく
「新しいデザインを構築することができる」という点から
自由にデザインを検討することが出来たそうです。
当初はRRを念頭にスケッチが描かれていましたが、
発展途上国でも販売する戦略から
低コスト、部品の共通化、他ブランドとのプラットフォームの共用、整備性などを考慮し
最終的にはFFで開発されることになります。
この車。
興味の無い方からすると
「VWの安車なんでしょ?」という括りで見られがちです。
しかし、じっくり見ていくと
「へー。こんなこだわりがあるんだね!」と
驚きを感じることが出来ると思うんです。
今日はその一部を紹介出来たらと考えています。
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up!をデザインするにあたっては
「世界中の家電を参考にデザインした」そうです。
玄人好みのカーデザインというよりも、
誰もが受け入れやすいプロダクトデザインとしての観点を重視したと述べ
結果的に非常にオーソドックスな仕立てだと感じることができます。
さて、具体的にup!のデザインの特徴をあげると
個人的には次の3つを挙げることができます。
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①リアハッチ
「スマートフォン(iphone)からのインスピレーション」と本人が述べていますが、
このリアデザインは
非常にコストがかけられた部分です。
本来、Aセグメントに属するup!は
コスト管理が厳しい開発となったはずです。
安価な販売価格から一定の利益を生み出すためには
「付け足す」よりも「そぎ落とす」ことを考えるほうが多い開発になるわけで
「デザイン」「質感」「装備」で妥協が強いられがちですが、
このリアハッチは「鉄とガラスの2重構造」というリッチな構造を採用しています。
実際、開発時に「リアハッチは大いに議論された」と言われています。
鉄製のハッチに塗装をするだけであれば安価に仕上げることができますが、
(実際、仕向け地違いでリアハッチのデザインが異なる国が存在します)
※ブラジル向け
あえて高コストなデザインを採用することで、
後ろ姿から瞬時に「up!だ。」と認識できるような特徴的デザインを
織り交ぜることに成功したわけです。
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②前後オーバーハング
車のフォルム全体を見て特徴的なのは
ぎりぎりまで切り詰められた前後オーバーハングです。
全長の両端に近い位置に前後タイヤがあり、
コンパクトながらも安定感のあるプロポーションとなっています。
採用されたタイヤも
国産だとBセグメント同等の大径且つ幅広なタイヤが採用され、
安全性が担保されているとともに、
見た目に「よりどっしりとした印象」を持たせることに成功しています。
FF車は「動力」「駆動」「操舵」を全てフロントで行う為、
おのずとオーバーハングが生じてしまいがちです。
軽自動車のようにボンネットが高ければ、
エンジン搭載位置を高めにすることも出来ますが、
up!はハイト系の車ではないのに、
限界までオーバーハングを切り詰めています。
これは全く新しい商品開発であったことも幸いしているでしょうが、
それに加え「デザインを優先する」という強いこだわりのもと、
コスト優先のAセグメント車の開発の中での限界にチャレンジした結果
だと個人的に感じています。
結果的に非常にまとまったデザインとなり、
一方で実用的にも見切りのしやすい扱いやすいメリットを生み出すことにも成功しています。
ぜひ同セグメントのFF車とup!のフロントのオーバーハングを見比べてみてください。
VWの開発とデザインのこだわりを感じていただけると思います。
例)妻の愛車pandaとUP!の違い。
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③フェンダー(面構成されたデザイン)
これもデ・シルバがこだわった部分だと言われています。
特に2ドアのリアフェンダーに非常にこだわりを持ち、
実際にクレイモデルを用いて
何回もチェックしていたというエピソードがあります。
私自身も4ドアの時にはあまり意識しなかったのですが、
2ドアのGTIに乗っていた時には、
やはりこのリアフェンダーの曲線美に驚きました。
「これをAセグでやるってすごいなぁ」と感心したものです。
Aセグメント車であり、グローバル販売車という
非常にコスト管理の厳しい開発であるはずなのに、
デザインの妥協は許さず、
これだけ面が綺麗に仕立て上げられているのに正直驚きます。
軽自動車よりもわずかに大きいだけの全長と
5ナンバー枠に余裕をもって入ってしまう全幅というコンパクトながら
リアフェンダーの造形の美しさと、
ワイドに出たフェンダーから
「地に足を付けたどっしり感」を感じることが出来ることに驚きを感じるわけです。
以上がup!のデザインの特徴とも言える3点の紹介でした。
街中でup!を見かけた際は以上の3点を観察してみてください。
コストの制約の中で開発陣が奮闘した成果を感じることが出来ると思います。
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最後に
デ・シルバ自身のデザインのこだわりを持っていた部分について紹介しますが、
どこかでのインタビューで
彼は自分のデザインのこだわりについて以下のように答えていました。
「線でデザインせず、面でデザインする」
「面の折り重なりによって生じた線は活かすが、
デザインの為だけの線は極力つけたくない」
といった内容です。
まさにそういった観点でup!のボディを見ると
無駄な線が排除された「プレーンなソリッドなデザイン」だと
感じ取ることが出来るのではないでしょうか?
この考えは
彼自身が手掛けたゴルフ7や先代ポロなどにも同様の哲学が反映されていると
言えると考えますし、
最近だと他メーカーであるマツダ3や新型フィットなどにも反映されたデザイン手法で「ごく最近のトレンド」となりつつあると言える事が出来ます。
残念ながらデ・シルバが具現化してきたプレーンなソリッドデザインは
彼の引退とともに消えつつあり、
up!の後期型
ゴルフ7の後期型(俗に言う7.5)
先代ポロの後期型
はいずれも後任のマウワーやビショフの手が加わり、
バンパー周りの造形が複雑に変化し、
明らかに方向性を変えようとした意図を感じ取ることが出来ます。
新型ポロやT-crossでは、
さらに線を多用したデザインにシフトしており
もはやデ・シルバのデザイン哲学からは決別した新しいデザインにシフトしている。
と言えるかもしれません。
デザインは人それぞれ異なって当然であり正解は存在しません。
好みも様々です。
そもそも、工業製品は制約も多岐にわたるので
美術品のような視点で見てはいけないものかもしれません。
しかし、個人的には
デ・シルバの「面デザインのこだわり」は大好きな部分であったので、
少し前までのAUDIやVWの「つるっ」としたデザインが
無くなりつつあるのは寂しさを感じるところでもあります。
ちなみに、お世話になっているディーラーでは既にup!の在庫はなく
販売は終了しているとのこと。
デ・シルバ監修によって新しく生み出された唯一のAセグメント車は
国内の新車販売から姿を消しつつあるわけです。
(一部店舗に在庫はあるそうですが)
こんなことを書いていると
ガレージに余裕さえあればup!GTIを長く所有したかったなぁ。
という思いがこみ上げてきます・・・。
(息子に売りつけたらよかった!?)
以上、私の所有した愛車からのデザイン考察?でした。
気が向けば、また別の車を取り上げたいと思います。
あくまで私の主観であり、私の暴走記事なのでご容赦を・・・。