
これもね、早くやらないと記憶がどんどん薄れちゃう。
例によって緊張の糸がほぐれたトコロで、今回は「MTの下駄グルマが欲しい…」が発動して、フィエスタSTをお迎えする運びになったんだけど、その際に思ったのが「オンライン販売ってどんな感じなんだろう?」
前回Boss302を買ったときは、まだこっちに来たばかりで右も左も解らなかったから、すべてをお任せできるディーラーで買う運びになったんだケド、コッチで2年も車を所有してて、世界がちょっと解ってきたから、次も同じっていうのも何か面白くない。
コッチもCOVIDが蔓延してから、タッチレス・コンタクトレスで何かが出来るっていうのはどこでも売り文句になってて、中古車販売もそれは例外じゃない。 だったら、ここ数年で一気に流行ったオンライン中古車販売を体験するのも悪くないかなぁ、って。
しかも、それが蓋を開けたら想像以上にアメリカ社会の縮図みたいな体験で、とっても興味深かった。だからね、今回はそんなお話
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オンラインで買うって決めて、最初に決めたのはどこのサイトを使うのか。
今回選んだのは業界最大手のCarvana。選んだ理由は、単純に規模が大きくてタマ数が多かったから。
特に自分の場合は(USDMでは)オプションのレカロシート指定で探してたからね、母数の数は重要。
んで車種とグレードを選んだから、こんな感じで検索していくことになる。

当然、オンライン中古車販売って聞いて、誰も最初に不安になるのが、車両の程度をどうやって見極めるか。
# いや、アメリカみたいな広い国土だと、face to faceの中古車販売だろうが
# レア車は全国検索になって、どの道現車確認なんかできっこないって話はあるけどさ。
Carvanaの場合、そのためのシステムは三つ用意されてる。
一つ目はCarvana独特の手法で、こんな感じの360°外装・内装確認。

これの重要なトコロは、全国各所にあるCarvanaの倉庫の中に、決まったフォーマットで作ったターンテーブル付きのスタジオがあって、物件すべてが同じフォーマットで写真が撮れるようになってること。
これによって、この手の中古車販売サイトでありがちな、人による写真撮影箇所のばらつきを極力抑えようとしてるのね。 杓子な設備を作り、マニュアルでカッチリ縛り、必要最低限のクオリティが100%絶対に担保されるようにシステムを作る。
逆に言えば、この360°ビューに追加で、担当者が傷の写真を個々に乗せてるんだけど、こっちは基準が人任せなので、当然のごとく人バラつきがあるし、360°ビューでも解るような傷も、普通に出てこなかったりする。
だからこそ360°ビューで最低限の担保をしていることが非常に大事になるし、ここから先はまさにCarvanaとの探り合いになる。楽しいところ。
なので当然ながら重要になるツールがCarfax。これは一般的なディーラーと一緒だね。
これは当然のごとく全物件で閲覧可能になってて、オーナー履歴や整備履歴が追える状態。逆に言えば、これがないとさすがに怖くて何も買えない。
例えば今回のFiesta ST、年式・走行距離のわりに値段が安い。
Carfaxを見るとミシガンの降雪地帯で使われてるから、前オーナーが外装に気を使わず普段使いしてるのも想定できるし、それは傷部位の写真に写りこむボディの反射で何となく伺える。
でも同時にPep boysで冬タイヤに交換してるから、自分で車弄りをするタイプじゃないことも解る。つまり扱いは雑でも運転はのんびりしてる可能性も大きい。
よって外装さえ自分で仕立て直す前提ならアリ、って判断できた。
んで、ここで腹をくくっても、当然パワトレとか錆とかになると現状が解らない。
だから最も重要な最後のステップが、一週間の試乗期間。
前にも書いた通り、アメリカは車検がないから、名変しても車の価値が下がらない。
だから「車両がデリバリーされてから一週間の間であれば、ノーコスト・ノークエスチョンでリターンできる」ってシステムが成立するのね。
つまり下回りを見たければ、家に届いてから自分でリフトアップしてみればいいし、ミッションがギタギタかどうか気になる場合は、1週間で試乗して判断すればいい。
その結果として、あまりに程度が悪くて納得できなかったら、電話一本で手数料ゼロで返車できる。
さっきも書いたとおり、今回は中身が無事な可能性が高いから、まずはそこに賭けてみることにした。
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ちなみに注文に際する必要書類は免許証の写真のアップロードと、個人情報一式のみ。
しばらくすると、名義変更に関連する書類のデータが送られてきて、電子決済すれば完了。
ただし自動車保険だけは自前で手配が必要だから、サイトに載ってるVINナンバーを使って、納車日までに契約しておく必要がある。
で、こっちがその手続きをしている間に、Carvana側は車両がリスティングされた地域から、うちの近くの倉庫に車両を運んできて、デリバリー前に規定項目のチェックをした上で、問題がなければ家まで持ってくる。
…って手筈なんだけど、今回はまずここでトラブった。
コトは配車前日の夕方。いきなりメールが入って
「車両にトラブルが見つかったので、明日の配車が取りやめになりました」
「詳細はこれから電話で連絡します」
と来た。
まぁそういうなら、とまずは待つんだけど、当然こっちの常で、待てど暮らせど電話が来ない。
仕方ないので、カスタマーセンターに電話を入れて、事情を説明して、うちの地域の営業担当に電話を回してもらう。
「何が起こってるのさ? 電話来ないんだけど?」
「いや、あなたの車両にトラブルが見つかって、安全上問題があるから、修理するまで配車できなくなった」
「んー、トラブルって何さ? あまりに致命的なら、そんな車引き取れないんだけど…」
「いや、それは整備してるスタッフに聞かないと解らない。明日には確実に詳細を折り返しさせるから…」
まぁ、そういうなら…ってことで、一回その日は終わりにして、翌日待つんだけど、まぁ当然ながら連絡がこない。
仕方ないので、またカスタマーセンターに電話して、また地域の担当に電話を回してもらい
整備担当を ”今・ココで出して” ということで解ったのが
「車両のフロントタイヤと、フロントブレーキパッドも摩耗限界を越えてるから、交換が必要」
「いやそれさ…ネットの物件情報では、買取時にCarvanaの基準値以下だったから
すでに交換済って書いてあるんだけど…?」
「それは私は知らない。 私が配車前の最終チェックをしてダメだったから。
これから交換しない限り内規でデリバリーできないし、交換は外部の整備工場に出すけど
部品が今なくて、配車は2週間遅れになるから」
「いや遅らせるってさ、保険も今日デリバリー前提で契約完了してて
今日からすでに料金も引き落としされてるんだけど」
「迷惑を掛けていることは謝る。それについては補償金を払うから、営業と話をしてちょうだい」
と来る。真っ先にお金で補填する話が出るのが、とっても資本主義のこっちらしい。
「いや、そんな車渡されるぐらいなら、もう一回物件を洗いなおす時間が欲しいんだけど。数時間ぐらいは。」
「わかった、その場合はキープはできないから、キャンセルするしかない。何ならこの場で受けるけど?」
「んー、わかった。一回キャンセルさせて。
もう一回物件洗いなおして、いいモノが他にないなら改めてこの個体注文するから」
ということで、物件選択からやり直し。とはいっても、早々タマ数豊富なワケじゃないので、やっぱり折り合いがつく物件がない。癪だけど、あまり納期が遅れても仕方がないので、もう一回同じ物件を注文して、2週間待つことにする。

カスタマーサービスに再度電話して、同じ物件を注文する手続きをその場で確認する。
一緒に手続きをして、注文が入ったのを確認して、同じように書類を提出して
同じように納車日を決めて、再度迎えたデリバリー当日。
…うん、当然ながら連絡も無ければ、配車も来る気配がない。 はい電話。
「あのー、今日納車日ってシステムから連絡来てるんだけど、時間過ぎてもなしのつぶてなんですが…?」
「ちょっと待って確認する・・・ いや、キャンセルしたって担当は言ってるけど…?」
「いや、そのあとカスタマーサービスと一緒に、もう一回注文を言われたようにやってるし
システム上も受け付けOKになってて、デリバリー日も承認されてるんだけど?」
「…申し訳ない、その場合はこれから配車調整するから、1週間後になる」
「あのー、例によって前回と同じく保険も日程調整して、また引き去り始まってるんだケド…
これでトータル3週間遅れになるんだけど…」
「迷惑を掛けていることは謝る。 それについては補償金を払うから、それで納得してほしい」
はい資本主義。 仕方ないので3週間分の配車遅れの補償金を受け取り、やっと次の週に車両が届くことに。
ちなみに補償金は綺麗に一週間あたり $〇〇 で計算可能な額なので、完全にこういう時のマニュアルがあるんだね。 こういうトコロも、フールプルーフというか、頭いい人が現場のトラブルを織り込んでシステム化してるってコトになる。
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で、さんざ色々と楽しいトラブルを迎えたうえで、やっと来た車は、想像通り外見こそヤレヤレだったけど、錆は進展してない。ミッションも想定通り全然荒れてなくて、これなら自分的には全然OKなレベル。

ただ気になる点があって、まず左のミラーの上下アジャストが効かない。
それに交換したっていうタイヤも、明らかにバランスが取れてなくてバイブレーションが出るし、ステアリングセンターもおかしい。 配車前整備とはなんぞや…?
でもCarvanaのシステムを作った頭のいい人は、当然こういう現場のトラブルを想定してる。 配車から100日以内であれば、Carvanaと提携してる整備工場に持ち込むことで、無料で基本的な修理はしてもらえるのね。
今回のホイールバランスやアライメントは、明らかに一般劣化じゃなくて車両トラブルなので、さっそくこのシステムのお世話になることになる。
調べてみると、家から5分のトコロにある整備工場が提携拠点なので、さっそく作業予約をして向かってみた
「ネットで予約して、Carvanaの保証修理でホイールバランスとアライメントっぽい症状を直して欲しいんだけど」
「え? Carvana? うちそんなシステム知らないんだけど?」
はい想定内。 もちろん携帯でCarvanaのサイトと保証内容を全部開いてあったので、それを渡して説明。
「んー、わかった。ちょっとこの(Carvanaが契約してる保険会社) に電話させてくれ」
電話して合点がいったらしく、車両をリフトに乗せて症状を確認、その数分後…
「確かにホイールバランスとアライメントがイカれてるんだが、保険会社が保証対象外って言ってる」
「えーと、サイトのココでは対象だって書いてあるよ? 相手は理由はなんて?」
「いや、教えてくれねぇんだ。 兎も角ダメの一点張りでよ… なんで悪いが今日は無理だ」
「んー、まいったな… 解った、とりあえずこっちから問い合わせてみるよ」
ということで、今度はこっちからまたCarvanaのユーザーサポートに。
「いや、それはうちの責任区じゃないので、保険会社に問い合わせてくれ」
はいそうですよね。とっても楽しいぞ。 ということで保険会社の窓口に問い合わせ。
「えーと、ケースを確認したんですが、走行距離が保証範囲外となってます」
「なんて? まだ4日でいいトコロ300kmぐらいしか走ってないんだけど」
「こっちの記録だと12000マイル走ってることになってます。これだと受けられません」
「あの…、それどう考えても走行距離をkmで拾ってるよね?
ちなみに、それをマイルに換算すると保証距離になるけど、この2点はその場合は修理できるの?」
「できます」
「で、なんでその理由を自分には伝えてるのに、今日工場側には伝えなかった?」
「それはこっちでは解りません。
ともかく、もう一回予約を取って、提携工場にこの事を伝えてください」
「えーと、なんで自分が? ケースに情報全部残ってますよね?」
「…であれば、こちらからも連絡するようにします」
ということで、改めて予約を取って、再度提携工場に出向いてみる
「Carvanaからなんか連絡あった?」
「え? なんのこと? 何も聞いてないけど」
でーすーよーねー。
「ああ、じゃあ大丈夫。 前回と同じ内容なんだけど、オドメーターマイルで連絡してみて?」
…で数分後、工場から電話してもらい、今回はノントラブルで修理が承認され、無料でアライメントと4輪ホイールバランス完了。 配車されてから約一週間、これで言い訳なしのパリっとした車両が手元にきた。

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…とココまでが今回の顛末。
読んでもらって解るように、全てが典型的なこっちのシステム構築思想に基づいてて、その本質は
・人間は共通の常識を共有してない。だから認識違いもミスもする。
・だからこそフールプルーフなシステムでそれを救えるようにして、マニュアルをがっちり固めて運用する
ということ。
だから、何かあったらユーザー側としてもそのシステムを最大限使わなきゃいけないし、逆に言えば言わないと泣き寝入りになるだけ。 でもその分、上手くいったときの利便性は果てしないし、それが8割9割の体験なんだと思う。
今回はトラブル続きで楽しい体験になったけど、もし予定通りの予定で想定通りのクルマが届いたら、って考えたら、こんな便利な体験もないと思うのね。
営業との不毛な値段交渉も無ければ、無駄な書類を取りに行く手間もないし、整備だってわざわざディーラーに持ち込む必要もない。最初から最後まで、それこそ配車の受け取りを除いて、それこそ一言も言葉を発せずに車両が手元に届く。
対象車両は全米全域でストックがあって、フィエスタSTなんてレアな車でも、それなりのストックの中から選ぶことができるし、車両の程度が想定外だったら、単にリターンして別の物件を探せばいい。
この利便性を知っちゃったら、確かにディーラーまでわざわざ出かけて中古車買う、なんて行為がアホ臭く感じるのも解る。
これは今後も、もっと伸びるシステムな気がするなぁ…