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2021年04月19日 イイね!

Coyoteというエンジンの進化

Coyoteというエンジンの進化前回書いた、うちのBoss302に積まれてるRoad Runnerが市場に出たのが2012年。

フォードが問うたポニーカーのトラックカー仕様は、GMのカマロZ/28を生み出し、フォードのGT350につながり、それがGMの1LEパッケージとフォードのGT500につながって今に至るんだケド、でもそれはポニーカーで言えばあくまで傍流の話。
だってポニーカーの販売台数を占めるのはあくまでもベースグレードで、その上に存在するV8グレード。

だからこそフォードは、11MYで出したコヨーテの継続的な進化を怠らず、それが今まで続いていくんだけど、今回はそれをまとめてみるね。 というのもこの継続進化、いろいろとスペックを調べれば調べるほど、なかなかフォードらしくて面白いなぁ、って思ったから。

―――

もともとコヨーテは2011年のイヤーチェンジでマスタングに搭載されたエンジン。
2010年に外見を大幅にアップデートしたあとの次の年だね。

過去にも書いたから今更だけど、コヨーテは仮想敵をカマロが乗せてた第3世代スモールブロックとして、今までのモジュラーV8の基本骨格を崩さずに、420馬力にどれだけ迫れるかっていうのがポイント。

基本骨格を崩さないのは大幅な設備投資を避けるため。特にボア加工や搬送機に大きく影響が出るボア間ピッチ(100mm)やブロック高(227mm)はキープしたいトコロ。

そうなると当然排気量拡大にも限界があるから、フォードが取った手段は高回転化。
6500rpmで最大出力を発揮し、7000rpmまで回すという前提のもとに、ボアを2mm拡大、ストロークを2.7mm延長
(92.2mm x 92.7mm)

その上で空気をしっかり吸えるようにSOHC 3バルブのヘッドを、先代コブラ同様のDOHC4バルブとする。
ここに263°っていう広い作用角のカムを付けたうえで、高回転一本やりにならないように、吸排両方に油圧の位相可変機構を付ける。

圧縮比は11.0と、ポート噴射としては高い値。これはボアが小さいのが効いてる。
 # これはハイオク前提なら大したことないかもだけど
 # 重要なのは、アメリカだとレギュラーガソリン前提っていうこと。

腰下については、もともとの設計がそれなりに新しいだけあって、すでにアルミブロックに6ボルト締めのベアリングキャップと、クランクシャフトの支持剛性に有利な構造。 
だからコヨーテはその基本構成を踏襲しつつ、部品レベルで支持剛性を上げていく。

この結果が400馬力をあっさり超えた412馬力。これはLS3の420馬力には負けるけど、車体が小さいマスタングに乗せる分には、パワーウェイトレシオで戦えるスペック。
これがGMやクライスラーに再度挑戦状をたたきつける形になる。

ここまでと、これの派生形であるロードランナーが前回に書いたお話。

でね、興味深いのが2012年にロードランナーが出てから今までの話。
というのも、それから9年経った今でもこのエンジンは進化系がバリバリ現役。
最前線で戦ってる最中なのだ。

―――

コヨーテにとって最初のマイナーチェンジになるのが2013年。
ベースモデルがフェイスリフトを受けた年なのだケド、この時にコヨーテ自体も仕様変更を受けてる。

見た目には出力が11MYの 412馬力 から 420馬力 に変更になっただけ。最大トルクも発生回転数も一緒。
でもこの際、単なるセッティングの詰めだけでなく、エンジン内部が何点か変更を受けてるのね。

例えばインテークバルブが中実品から中空ステム品へ。
例えばピストンリングが高回転化での挙動を改善したものへ。
例えばヘッドボルト径を12mmから11mmに落として周辺応力を低減。

この変更点、どこかで聞いたコトあるように思えたら、それは正解だったりする。
つまりBoss302の開発の中で新規にオコした部品をベースグレードに逆展開してるのね。

当然型が違って加工が必要なヘッドはお金がかかるから持ってこれない。
でも既存のハードウェアを守った中で、やれることはすぐに展開してくる。
そういうトコロに銭勘定だけない、マスタングだから、っていう拘りを感じたりする。

―――

そしてコヨーテにとって初めての大幅刷新となるのが2015年。
マスタングのベースプラットフォームがリジッドアクスルのS197系から、リアマルチリンクサスのS550系にフルモデルチェンジした年だね。
この世代がGen 2と呼ばれる仕様。


とはいえGen2でも、ボアストや7000rpmレブといった基本構成は受け継がれてる。実質刷新だったコヨーテでも、従来4.6Lからブロックの基本寸法を受け付いだぐらいだから、ここはある意味当たり前。

じゃあ何が進化したかというと、やはり吸排気系なのね。 ロードランナーの開発で得たシミュレーションの知見を活かして、それを大量生産可能なスペックに落としたのがGen2。


まずはベースとなるヘッドがベースの型から変更になった。 狙いはバルブジオメトリのさらなる進化。
 吸気バルブ径を 37.0mm から 37.3mmに拡大、リフトも1mm増やした13mm。
 排気バルブ径を 31.0mm から 31.8mmに拡大、リフトも1mm増やした13mm。
つまりGen1.5には変更規模が大きすぎたロードランナーの排気バルブジオメトリを反映しつつ、吸気側も設計限界まで攻めてるのね。

増やしたリフトに合わせ、バルブスプリングも吸排両方ともロードランナー用の強化品へ。そして吸気側へもビックバルブを採用・リフトを上げたことで吸気量が増えるから、ポート形状もより進化させられる余地が生まれた。
ここでもシリンダーヘッドの型を変えてまで攻めていく価値が出る好循環。

腰下も鍛造ピストンこそ投入できないけれど、ロードランナーの強化焼結コンロッドを持ってきた。Gen1では開発の途中でコストダウンで廃止になったオイルクーラーも、ロードランナー同様に復活させる。

つまりロードランナーでやり切った仕様のうち、7000rpmレブを守り切ったうえで必要なモノをきっちり入れたのがGen2。 その結果がGen1.5から15馬力アップの435馬力という最大出力と、全域でアップしたトルク。

ちゃんとロードランナーで作ったものを使い切って、無駄なお金を使わずパフォーマンスアップを達成する。
台数が少ない車だからこそ、そういうことをきっちり徹底することで利益を出し続ける。
そんな意気込みが見えるのがGen.2


ちなみにそんな意気込みは厳しくなる環境対策についても一緒。

元々Gen.1で触媒位置を縛り、エキマニのブランチ長・自由度の限界を決めていたのが排ガス規制。
GM含めた他社V8はみんな出力なんかシカト決めて、触媒暖気を速くするために芋虫エキマニを使ってヒートマスを減らしてたのに対し、ちょっとでも出力を確保するために溶接パイプ組みのエキマニを使い、限界まで触媒を離してたのがコヨーテ。
その思想はGen.2でも引き継がれてる。 

だからこそ出力影響が避けられないエキマニ側ではなく、インマニに片吸気ポートだけを閉じるフラップ (CMCV) を付けることで、低回転での吸気流速をアップさせて、燃焼速度を上げる。
吸気側VTCについてもロックピンを追加することで、始動直後の油圧が足りない領域でも適切なバルブタイミングを狙う。

これらは暖気が完了して、全開全負荷になれば出力影響が出にくい手段。お金をじゃぶじゃぶ使うのではなく、言い訳なく、性能に影響が出ないトコロできっちり使って、お約束を達成する。

―――

そしてベース車がマイナーチェンジを迎える2018年に登場したのがGen.3

ここでの大きなトピックは直噴化。
ライバルのGMは2013年に既に踏み切っていた手段に、フォードもとうとう踏み込むことになる。
さらにこの世代のマスタングは欧州展開前提、だから直噴システムは欧州の厳しい微粒子規制にも対応する、ポート噴射も備えた最上級仕様。

でもやはり気になるのが、なんでGMは2013年にやっていたことが、ここまで遅れたのか。 

フォード自体は北米向けでも、直噴化に対して及び腰なメーカーでは無いんだよね。
何せ北米にEcoboostのモニカーでダウンサイズの考え方を持ち込んだメーカーだし、 Gen.2の頃にはセンター直噴も含めた知見も十分にあった。 それでも投入がここまで遅れたのは、Gen.2同様に、やはりコストの考え方があったんだと考えざるをえない。


それを考える上で重要なのが、コヨーテファミリーで2016年に登場した、GT350向けVoodooエンジン。

Gen1.0に対するロードランナーのように、Gen.2をベースにRace Engine for Streetをやったのがブードゥー。
だからこのエンジンを語る時って、どうしてもフラットプレーンクランクが注目されるけど、ブードゥーには他にも特筆すべき新機構・専用部品が何点が入ってる。

その一つがブロックから鉄ライナーを取っ払った、プラズマ溶射ワイヤーアーク加工 (PTWA)
簡単に言えば鉄ライナーを入れる代わりに、鉄をアルミのシリンダー表面に薄く溶射して同じ効果を得る技術。

ライナーが無くなれば同じボアピッチでボアを広げられるから、排気量が上がるし、直噴の壁面付着防止にもつながる。 さらに摺動面が薄膜になれば、熱伝導がいいアルミが燃焼室に近寄るから冷却性能が上がって、ノックタフネスも上がる。
つまりどちらも直噴と非常に相性がいい技術で、これをフォードはヴードゥーで実用化したのち、Gen.3で本格量産したのね。

その結果、Gen.3はボアピッチを100mmで保ちつつ、ボアを0.8mm広げた93mmにすることで排気量を4951ccから5038ccに拡大。 さらにGen.1以来 7年間手つかずだった圧縮比を11.0から12.0に上げることで、最大トルクはとうとう570Nmに到達。
1.2Lも排気量に差がある、カマロのLT1 617Nmとの差を一気に縮めてみせた。


とはいえ、当然ながら正常進化の部分もある。
シリンダーヘッドは直噴化する以上、インジェクターを差す穴が増えたり、噴霧を乗せる筒内流動をポート形状で作ったりするから完全に作り直し。 こればっかりにポート噴射のブードゥーを流用するわけにもいかないからね。
でもそれを逆手にとって、フォードはバルブ周りも完全刷新してきた。

直噴インジェクターを燃焼室に刺すことで、バルブ径が割を食って小さくなるエンジンも多い中、吸気・排気バルブ径をさらに0.3mmづつ拡大。 バルブリフトも設計を刷新することで、吸気・排気ともに1mm増やすという、 まさに執念のレイアウトを見せてきたのね。

ここまで吸排気のポテンシャルが上がり、腰下はGen2同様のロードランナー由来の強化品を踏襲。そうなると踏み込みたくなるのが更なる高回転化ということで、Gen.3は回転限界もロードランナーと同じ7500rpmまで上げてきた。

しかも今度はロードランナーの時と違い、トルクを維持したままの高回転化。
全域でGen.2のトルクを上回りつつ、馬力を25馬力上乗せしてみせる。
まさにコヨーテの集大成ともいえるエンジンとなった。

―――

ちなみにGen.3には、Bullitt用のGen.3.5ともいえるバリエーションが存在する。

これもここまで来たら、ある意味いつものヤツ。
Gen.3に対して、GT350で開発した高回転型インマニ+大径スロットルを組み合わせた仕様。

元々出力ピークを7500rpmと高く持ったGT350は、インマニ径が大径で脈動効果の同調回転数が高い。
これをGen.3の骨格と組み合わせることで、より出力発生点を上にズラすことができる。
つまりGT350で作ったものを更に展開した仕様ともいえる。

この仕様の重要なトコロは、エンジン骨格がブードゥーと違ってGen.3、つまりポート噴射+直噴仕様そのままということ。 これは低速トルクが犠牲にならないだけでなく、最新の欧州法規に適合できるってことも意味するのね。

つまりpmや騒音規制に引っかかって輸出できないGT350と違い、世界展開できる上位グレードになるってことになるのだ。これが21MYでGT350がモデル廃止になり、マッハ1に置き換わった背景。
そういう意味でも、ロードランナーの部品を使って仕立て直したGen.2と同じ考え方、と言えるとも思うの。

―――

これが2011年から足掛け10年、フォードがコヨーテを育て続けた系統樹。
それと同時に自分には、フォードがこのエンジンを活かし続けるために、どれだけ苦労しているのか、というのが如実に表れたストーリーにもみえるの。

コヨーテシリーズといえば、いつも目を引くのがロードランナーやブードゥー、他にも今回省いたGT500用のトリニティやプレデターといった、限定車向けのスターたち。

でもフォードはそこで投入される技術を、決して一品モノ・作って終わりのものにしていない。
新技術要素は先行する少数限定エンジンで開発して、それを必ず標準車にも落としてくる。 そういう点が徹底されてるように感じるのだ。


それらはすべてベースグレードのV8を安く、継続して販売していけるものにするため。
GMやクライスラーといったライバルに対抗しつつも、NAのV8なんていう、時代遅れになりつつある代物を、決して絶やさないための努力。

いみじくもフォード自身がFord GTで証明したように、GMがキャディラックATS-Vで示したように、もはや速さを求めるならV6ターボでも事足りてしまう。パッケージングだって成り立ってしまう。 燃費だって改善する。

でも、そんな中でもV8でなければ味わえない世界がある。
もはや理窟ではない、その灯を絶やすことなく受け継いでいく義務がある。

そんなフォード開発陣の執念を感じるような想いを、自分はこの歴史から感じたのだ。
Posted at 2021/04/24 09:42:29 | コメント(1) | トラックバック(0) | 日記
2021年04月11日 イイね!

Boss302のRoad Runnerというエンジン

Boss302のRoad Runnerというエンジン今年の7月でBoss302が来てから2年になるんだケド、忙しさにかこつけて、この車について調べたことを、ぜんぜんまとめられてコトに気が付いた。

色々な場所に一緒に出掛けて、コトあるたびにつぶやいてはいたケド、自分の場合は体系立てて整理してアウトプットしないと、やっぱり頭に定着しないので、ちょっとづつ書き始めてみようと思うの。

あくまで自分の頭の整理がメインだし、長文書くのも久しぶりだから、すごく読みにくいことは承知の上。 ごめんなさいね。

―――

うちのBoss302は、S197型マスタングの12~13MYで設定されたグレード。
すごくざっくりいうと、スーチャー付きのシェルビーGT500に対し
NAエンジンのままでエンジンとシャシーチューンを行ったのがBoss302。

当然これはざっくり過ぎで、もとは69~70MYで設定されてたホモロゲまで遡るんだケド
そこら辺は詳しい人がいっぱいいて、中途半端なコト書くと怒られそうだからパス。

ただ重要なのはBoss302の "302" って部分ね。 これは302inch^3で、つまり4949cc。
当時のSCCA トランザムシリーズの上限排気量が5Lだったことから、これをバチバチ狙った専用エンジンの排気量が302in^3だったことに由来する。


もともと06MYマスタングのレトロリバイバルって勝率不明の賭けだったから
エンジン回りは既存のモジュラー4.6Lを流用せざるを得なかった。
それは結果的に大成功するんだケド、それと同時にやってきたGMやクライスラーがピックアップ流用の6LクラスのV8を持ってきたから、動力性能的にフォードが追い込まれて、反撃の狼煙として本気のエンジン刷新をやったのが2011年。

この際のV8エンジン、コードネーム「コヨーテ」が最終的に排気量5Lになるんだけど、これがBoss302の排気量と被ったことから、単にベースグレードで反撃するだけじゃなくて、伝説のホモロゲモデルを復活させようって話になったのが、企画の始まり。

んで、当時のBoss302は、排気量が大きいクリーブランドエンジンをベースに、排気量ダウンと高回転化で馬力を出したエンジンだったから、当然新しいBoss302も高回転型NAになった。
そんなエンジンを今日は一回まとめてみようと思うの。

―――

Boss302の再来であるからには、エンジンは5Lのままチューンした高回転型としたい。
でもそうは言っても、話は単純にはいかない。

確かにベースになるコヨーテは、完全新規ヘッドを持つ当時の最新エンジン。
なので素性はかなり期待できるんだケド、問題はそのベースの出来が良すぎること。 

というのもコヨーテはまだ販売まで2年ある2009年の時点で、エンジンベンチ上であっさり400馬力を叩き出してる。 つまりベースエンジンがやり切っちゃってるから、NAチューン縛りの中でパフォーマンスを伸ばすには、小手先の対策で済まなくなっちゃうのだ。


当時の企画チームも、そこは一度議論になったと残してる。 レースエンジンの手法でどんどん強烈なエンジンを作ることはできるけど、マスタングはあくまで量産車。どこまでやるのかという点が問題。
だからこそ "Boss302" っていう記号性が、大きな意味を持ってくることになるのね。

オリジナルの'69 Boss302はフォード自前のプロジェクト。
もともとスタイリングは最高だけど、中身は普通の凡庸セダンっていうのがマスタング。 
それをレースカーに作り替えるプロセスを、シェルビーに頼らざるを得なかった (GT350) フォードが、4年経って、やっと自分自身の言語で世間に問うことができたのがBoss302。 つまりこれはリバイバルと当時に、シェルビーではない、「フォード」っていう看板が掛かったプロジェクトになる。

しかも21世紀の今回も隣にはシェルビーGT500が並ぶ。彼らはスーチャーを括り付けての400馬力オーバー。
そんな隣に並べられる以上、フォードの看板にかけて中途半端な性能では出せない。


そんな議論と勢いの結果、21世紀のBoss 302も Race car for street がコンセプトになった。
つまりNAで行けるところまで行くと。 きっちりレーシングエンジンの手法で回転馬力を取り切る、そういうエンジンを仕立てると腹をくくったのだ。

そんなエンジンにつけられたコードネームはRoad Runner。
ベースがワイリー・コヨーテなら、それより速いエンジンはもちろんロードランナーだから。

―――

そんなロードランナーの鍵として、ティム・ヴァグム率いるチームが最初に設定したのが
コヨーテを500rpm上回る7500rpmのレブリミット。

レブリミットを引き上げたのは、高回転で高出力を得るため。
でも当然ながら、単にレブリミットだけを引き上げても馬力はついてこない。
インマニの脈動点が合わなくて新気が入らない領域では、トルクはエンジンのフリクションで殺されちゃうからね。

だからチームが真っ先に手を付けたのはインテークマニフォールド。
管長を20mm短くすることで、吸気管脈動の同調点を5250rpmから6500rpmへ、6500rpmから7750rpmに持ち上げる。 ブランチ形状も、可能な限りスムーズにするため、コヨーテの曲がり形状からトンネルラムのような真っすぐに伸びるタイプに。
これで7500rpmまで空気がきっちり押し込まれるベースを作る。

中回転域ではピークトルクは5%ぐらい痩せるし、新規の投資となるからお金もかかる。
とうぜん営業側は反発するんだケド、ロードランナーチームには自信があった。
だから彼らが取った手段は、試作したインマニを付けた車両に主査のデイビッド・ペリカックを乗せること。 早い話がトップに直接訴えたのだ。

彼の結論は 「採用、これは手放せない」 

中速域のトルク痩せは感じられないばかりか、高回転までリニアに伸びるようになったエンジンは完全に性格が変わっていたのね。 この判断が下されたのが2009年の5月で、これがロードランナーの性格を完全に決めることになる。

―――

で、インマニの特性は高回転側にシフトできた。
でも空気が燃焼室に入るには、ヘッド内部の吸気ポートを通る必要があるから、ポート含めたヘッド側の改修も必要。 7500rpmまで回す以上、ここも妥協できないポイント。

よくあるパターンは、ベースのヘッドに追加で機械加工をするパターンなのだけど
(手作業より精度と再現性が高いからね)
元が攻めてるコヨーテだけに、追加工で追い込む形になるとバランスが崩れる。

なので結果としてヘッドも、中子からロードランナー特注という専用品になった。
小さめの中子で機械加工の取り代を確保して、気筒間バラつきを抑えるために燃焼室をフル機械加工。 流試を確保するために吸排気ポート表面も機械加工ですべて撫でる。
レースエンジンと全く同じ工程を、量産エンジンで入れ込んできているのね。

これはコヨーテと実質的に同時期に開発していたからこそできる荒業。

ヘッドの冷却回路のアウトラインやバルブの挟み角、ヘッドボルト位置といった、鋳造や組立設備で要求されるジオメトリーを共通化しつつ、中子レベルでは変更を加えたうえで、Boss302側が必要とする変更はベースのコヨーテ側に入れ込んでおく。
こうやって必要な投資を最小限に抑えたことで、専用ヘッドを入れられるようになった。

さらにコヨーテとの同時開発は、ロードランナーチームがコヨーテ開発で培った経験値を即反映できることにも繋がる。 例えばポート形状においては、コヨーテ時代に詰め切れなかった細部をシミュレーションで一つ一つ詰めて、1馬力づつ拾い上げていくことができた。

また同じフォードの中で、場合によっては同じメンバーが設計しているってことは
当然、設計限界も手の内にあるってことにつながる。その典型的な例がバルブリフト量。

コヨーテチームは基礎設計時、将来を見越して13mmリフトまで許容する設計にした上で、12mmリフトを採用してたケド、これがさっそく使い切られることになった。
吸気バルブはφ37 12mmリフトそのままに、軽量な中空ステムに変更。
排気バルブは傘系を拡大したφ31.8mm、13mmリフトに変更。
増えたリフトとバルブ重量、そして何より上がったレブリミットに対応して、バルブスプリングも開弁力で8%強化して、巻き数を減らした専用品になった。

実はこれらの変更も、ヘッドを専用にして機械加工する、という判断があったからできた。
大きくなったバルブ傘径に対応する加工や、排気バルブシートのカッター角度変更 (40°→45°)、バルブスプリングシート部の強化なども、専用中子と加工プロファイルがあるからこそ。

―――

また、コヨーテより上限回転数を上げて馬力を上げるということは、それに呼応して耐久性も厳しくなるということ。 いくらRace car for streetといえど、フォードがナンバーを付けて売る市販車である以上、そこは守らないといけない最低条件だからね。

実はヘッドについては、同じアルミながら材料が変更されてる (A319→A356)。
これは上がった熱負荷の対策。 同時に燃焼室側については上がった筒内圧、カム室側については高いバルブスプリング反力への対応で、形状そのものも見直されてる。

回転数が厳しいのは腰下だって一緒。
筒内圧と熱負荷が上がったことで、真っ先にピストンは鋳造の限界を超えてしまって、マーレ製の鍛造ピストンへの変更が必要になった。 合わせてリングパックも高回転下でのリング挙動に配慮した専用品に変更。

また鍛造ピストンは鋳造より重い。 これによって往復部重量が増えるから、芋づる式にピストンピンやコンロッドも限界を超えることになる。 なのでピストンピンは負荷が厳しいGT500向けに作られた、肉厚かつ窒化処理済のピンに変更、コンロッドは同じ焼結ながら密度を上げた専用品へ。

ただこの鍛造ピストンは悪い面だけでなくて、高耐熱である点を活かすことでオイルジェットの廃止が可能になった。 これのおかげで、高回転化で通常は懸案になるオイルポンプ容量もキープできることに。
とはいえ7500rpm+高筒内圧で厳しくなるコンロッドメタルの耐久信頼性確保のため
指定オイルも5W-30鉱物油から、全合成の5W-50へ変更。 これは高回転化でのエアレーション防止にも一役買うからね。
そこにダメ押しで、コヨーテでは開発途中で廃止された水冷オイルクーラーを追加。

そして潤滑系の最後の〆として、サーキット走行に対応したバッフル形状への変更。
これらすべてが7500rpmをいつまでも踏み切れるための改良点。

こうして生まれたロードランナーは、中回転域でベースよりトルクは痩せるものの
代わりに高回転で圧倒的に伸びるトルク特性を達成できた。

7500rpmまできっちり回り切り、パワーピーク7400rpmで発生する出力は444馬力。
ベースエンジンを32馬力上回る、まさにRace engine for streetと言える逸品。

でもね、ここまでは、ある種当然のことをやったとも言えるの。
だってRace car for streetは何もフォードだけの専売特許でもないし、やっていることはレースエンジンでは当たり前の内容。 口が悪い言い方をすれば、これらはどのメーカーでも当たり前のようにできること。

だからこそ、自分がこのエンジンに心底ほれ込んだ理由はその先にあるの。
この先でフォードが仕込んだ2点の「遊び」こそが、このエンジンの鍵だと思うのね。

―――

ここまでの文章、実はチューニングカーでは定番の排気系の話が出てきてないのね。
これはコヨーテの排気系が詰め切っていて、Boss302でやれることが無かったから。

コヨーテの排気系の律速は触媒。
量産車である以上、たとえロードランナーだろうが排ガス規制の対策は必要。
だからベースの触媒が、既に暖気特性上離せる限界の位置にいたら、エキマニでやれることって限られるし、触媒で排気流量が絞られてたら、そこから先の配管を弄ったトコロで得られるものはない。
だから性能上は、Boss302の排気系はコヨーテ流用でいいハズ。

なのにロードランナーチームはそこにあえて手を付けてきたのだ。
彼らが追加したのは2本のサイドパイプ。触媒後のバランスパイプからサイドシルに排気。
つまりトータル4本出しの排気系。

上にも書いた通り、ベースの排気系は触媒が律速要因。 だから触媒後にパイプを増やしても馬力には全く寄与しないのに、チームがそこに手を付けた理由、それは 「音」

サイレンサーに入る前の未調音のV8サウンドを、ドライバーに近いサイドシルに出す。
これによって数値的な速さだけなく、アクセルの1mmにすら反応するエンジン音で
ドライバーの感情まで取り込んだ一体感を作りこむ。

鼻先にぶら下がってるV8は、単なるトルクアクチュエーターではなく、ドライバーが操る生き物じゃなきゃいけない。 たとえレースエンジンだとしても、その一点において、アメリカ人は絶対に外さないというコトを無言で伝えてくるハードウェア。


そんな彼らが仕込んだ遊びはこれに留まらないのね。

Boss302は附属する鍵のうち1本が、Red Keyと呼ばれる赤いラベルの鍵になってる。
これはこの鍵で始動することで、ECUのマップをトラックモードに切り替えるため。
それだけなら最近時の車のスポーツモードと一緒なんだケド、重要なのは 「鍵が違う」 ということ。

実はこのRed Key、車両購入時は通常の鍵と同じマップが読み込まれるようになってる。
その上で、購入後にFord Performanceから専用のキットを使ってマップを書き換えることで、アクティベートされる仕組み。
ロードランナーチームはこの「アフターマーケット品」であるコトを最大限に活かして
キャリブレーションを正真正銘のレースカーであるBoss302Rと同じにしてきたのだ。

その攻め方はハンパでなく、アクセルオフ時のトルクフィルター (エンジンシャクり防止で、DBWをゆっくり閉める制御) がゼロなのは序の口。 加速時の点火時期や空燃比も純正より明らかに攻めていて、排気音もエンジン音も違えば、吸気温が高いとライトノックまで聞こえてくるというレベル。
建前上こそ法規対応となっているけれど、本当に排ガス法規入ってる?と疑いたくなるレベルの尖ったキャリブなのだ。

それでいてレースカー用なので、アクセルに対する変なDBWのバカ開きはないし、アクセルを抜けばDBWがすぐ閉じる。 だから「そういう場所」で「そういう運転」をすると、待ちが一切ないNAエンジンならではの一体感を感じるコトができる。
まさにFord Racing謹製、V8を踏みさらすことを知っている、戦う車を知っている人間が作った、まさに本物のキャリブ。

それでいて、このキャリブにはLopey Idleなんて機能まで付いてきたりする。
これは昔のハイカムのキャブ車のような、ラフアイドルを再現する機能。
そう、インジェクションで安定した低回転アイドルができるのに、わざとインジェクターの噴射量を振って、ラフアイドルを作ってるのね。


一方で本気のレーシングキャリブを作りこみながら、もう一方で昔のキャブ車を再現する遊び要素を入れてくる。 そしてその音を確実にドライバーに感じさせるために、レーシングカーとしては死荷重のサイドパイプまでつけてくる。

真に走るためには何が重要で、どこが遊ぶところなのか。
これらすべてが 「車遊びとは何か?」 を理解している人間じゃないとできないこと。

昔のキャブ車がこういう音・振動をしていて、それがキャラクターとして味になることを解っている人間がいる。 そしてそういう良さみを、ちゃんと世代を超えて引き継いでいて、チーム全体で全力で莫迦を楽しんでる。

そんな中でも、最も重要な「エンジンを操って走らせる」という点では絶対に外してない

そんなレベルの高い仕事がエンジン全体からびんびん伝わってくるからこそ
自分はこの車に心底惚れ込んだのだ。
Posted at 2021/04/11 13:53:28 | コメント(3) | トラックバック(0) | 日記

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