
空いた週末の日、なるべくお出掛けして遊ぶのが最近なんだけど・・・
こればっかりはずーっとタイミングが合わなくて行けてなかった。
ツインリンクもてぎにある、ホンダ・コレクションホールのJTCC企画展。
もともと夏にルマン企画展で行ったときに、一緒にいた3人が揃ってえらくテンションが高かったからか、展示担当者の方が
「ツーリングカーがお好き? 結構、ではますます好きになりますよ」
とばかりにこの展示の事を教えてくれたのがきっかけ。しかもその時にはだめ押しとばかりに
「日本に現存するJTCCカーは、ぜんぶ集めたかもです」、って。
そんな台詞を聞いてしまったら、こっちとしてもその熱意に答えないわけには行かないよね、って。
なので期間中に最低もう一回は行けるように、早めの時期に訪問したかったのだ。
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今回の展示の目玉は、なんと言っても1995から1998まで、各メーカーの車両が一同に集まること。
1メーカーの進化だけじゃなく、それが他のメーカーにどう影響を与えて、それがどう伝播していったのか
それがずーっと解ることがいちばんの見所なんだと思うのね。
だから最初に見ておきたいのは4階ロビーの4台並びじゃなくて、その奥の部屋のこの2台なんだと思うの。

当時のJTCCでぼろ負けしてたホンダが、本気の本気で作ったツーリングカー、JTCCアコード。
それが当時のJTCCでどれだけ世界が違うクルマだったのか。それが一目でわかるアングル。
この2台は同じ年次・同じクラスの2台。
でもこうして見てみると、細かいところを挙げるまでもなく、アコードは明らかに低重心だし
横から見れば、自分みたいな素人でも解りやすいぐらいに明らかに「姿勢が低い」んだよね。

当時、この型のアコードはデビュー戦から圧倒的強さで連戦連勝するんだけど
その理由が、こうして並んでるからこそ、詳しいうんちくなんか無しでびんびんに伝わってくる。
それが今回の展示のいちばん面白いトコロだと思うのだ。
それにね、このプリメーラだって腐っても日産ワークス。
決して油断や手抜きでこういうスタンスになってる訳じゃないんだと思うの。
その証拠に、プリメーラのリアサスはこんな感じ。

すでにアームは上半角いっぱいいっぱいで、これ以上はジオメトリー的に車高が下げられない状態。
つまり市販車ベースって意味では、すでにやれるところまで行きついてる状態。
それに対して、アコードはサラッとサブフレームからオコし直して真っ直ぐなロアサスアーム。

だから逆に言えば、それだけホンダがやり過ぎちゃってるんだよね。
当時このアコードって、レギュレーションを限界まで拡大解釈したところを執拗につつかれたり
アンダーパネルの当たり部分の加工をレギュレーション違反だと吊し上げられたりと
本当に色々と足を引っ張られてるんだけど、それが1枚のアングルだけで解る気がするの。
「イレギュラーなんだよ! やりすぎたんだ、貴様はな!」って。
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だからね、この2台を堪能してからだと、冒頭の4台並びがより楽しく見えてくるの。
というのもこの4台は、アコードが登場した翌年、1997年以降のライバル車だから。
例えばね、去年のアコードの素敵ポイントのひとつだったのが、センターに寄った着座位置。

# 暗くて見辛いけど、ダッシュボードのメーターナセルよりはるか内側に、レースカーのメーターがある
これがね、1年たつだけで宿敵プリメーラにもきっちり取り入れられてたりする。
他にもあの限界ギリギリだったリアサスだって、1年たつとみんなこんな感じで専用設計。
(プリメーラ、エクシブ)

アコード前後で、レギュレーションの変更もあれど、一気に世界が変わっちゃってるのがよく解るのだ。
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しかもね、そんな世界の変化が解るのがエンジンルーム。
1996年のアコードってエンジンパワーもさることながら、そのエンジンの搭載位置がアレだったのね。
FF車って普通はエンジンの後ろにドライブシャフトの出力軸があるから、エンジンは必然的に鼻先にぶら下がる。
これがそのままなのがエクシブとか

エンジン (ヘッドの位置で見るとわかりやすい) がサスペンションのストラットタワーより前にあるよね。
ところがね、アコードのエンジンってすごくトーボードに近い。えーってぐらい。

とうぜんエンジンは前後で言えば、後ろに下がれば下がるほど、車の慣性モーメントが小さくなるから嬉しい。
なんでこれができてるかというと、ホンダはミッションまで専用で起こして出力軸を前に出してるから。
単体だとわかりやすいケド、ミッションから左右に出てるのがドライブシャフト。
ふつうはエンジンの後ろにあるはずのこれが、アコードだとエンジンの前にあるのね。

この頃のホンダはエンジンが逆回転だから、レース用ミッションを作ってもらうときは既製品が使えない。
それを逆手にとって、どうせ専用になるなら、とこんな変態ミッションを起こしてきてるのだ。
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逆に言えば、ここまでやったからこそ、全部が綺麗につながるのね。
一番最初の目的はエンジンを目いっぱい後ろに下げること。車両の運動性能のために。
でもエンジンを目いっぱい後ろに下げようとすると、エンジン後ろにある吸気系が邪魔になる。
エンジンの後ろに空気を入れるためには、エンジンの上か横から空気を迂回させないといけないから。
同時期のサニーみたいに (ちなみにシビックも一緒だった)
だからエンジンを後ろに下げたうえで、リバースヘッドにする。
まっすぐ前から空気を入れて、後ろに綺麗に抜くために。
するとエンジンを後ろに下げることの副産物として、エンジンの前側のスペースが綺麗に空くから
吸気系にしっかり容量が大きいエアボックスを付けて、きっちり下から上まで馬力が出るエンジンにできるし
その大きいエアボックスを付けたうえで、その下にラジエーターを縦に並べるスペースが取れるから
バンパーの吸気口だって、必要最低限の面積を下から開口するだけ良くなって、空力が良くなる。

つまり全てがうまく回るようになるのだ。 まさに 「やりすぎたんだ、お前はな!」 状態。
全てにおいてこうやってゼロから構築してることの凄さ、それがこうやって並んでると解るのだ。
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さらにね、こうやって並んでるからこそ、相手がすごいことも解っちゃう。
だってたった1年経っただけなのに、このど変態レイアウト、日産でもあっさり取り入れられてるんだもの。
さすが鉄火場を潜り抜けてきた日産ワークス、仕事が速すぎるの(笑
しかも日産だと、ラジエーターは吸気系の下に縦に置くんじゃなくて、水平に寝かせて下に排気してる。

ある意味低重心の究極のカタチだし、熱気を下に開口すれば車体下面の負圧で排風を引っ張れるかもしれない。アコードの一歩先までトライしてる状態になってるのだ。
逆にエクシブではそこまで割り切れてないんだよね。
リバースヘッドこそ入ってるけど、ミッションはそのままだから、吸気系の容量は少な目だし
ラジエーターも普通の車の位置に、普通においてある状態。

チェイサーの開発も同時にやってたハズだから、そこまで手が回らなかったのたのかなぁ、って。
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こういったことって、素人で何も知らない自分にとっては、横に並んでるからこそ気づけたこと。
ほんとありがたい。神様かってぐらい。
たぶんね、担当者の人はすごく大変だったと思うの。
だってたとえ引退したとはいえ、虎の子のレースカーを他社のミュージアムに貸して、ましてや一般展示するなんて
何があるかわからないんだから、普通は断られる可能性が高いはず。
それをこれだけの台数、一か所に集めて、しかもエンジンルームまで開けて展示してくれる。
歴史がわかるような形で、進化の系統樹をすごく解りやすく展示してくれる。
だからこそね、この画像を見て良いなって思ったらこの展示、是非とも訪れてほしいと思うの。
こういうお金がかかる展示は、たぶん実績が勝負なはず。
ちょっとでも多くの人が来てくれて、ちょっとでも好意的なレスポンスが残せれば
もっともっと先に繋がるハナシにもなると思うから。